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      ※ヤマシタ_サイド

 弾倉で待機していると、地上から射出された弾丸が機体の底に当たる連続的な音が響いた。


 操縦桿を握るおじいさんはすぐさま弐式の機首を下げ、ラダーを巧みに操って反撃の掃射を行った。


「心配すんな!あんな豆鉄砲じゃ弐式は墜ちんよ!」


 弾倉まで届く声でおじいさんは笑った。撃ち合いになる程度には『船』に接近しているという事実に、少し緊張して盾を握り直した。


「そろそろ投下するぞ!対空砲に狙われちゃさすがにまずいからな!」


「いつでも行けます!」


 俺は作戦通り、湾曲した特殊な形状の盾に乗るようにして構えた。


「必ず迎えに行くからな!」


 おじいさんは一瞬ふわりと機首を上げ、そして爆弾投下ボタンを押した。もちろん弐式には爆弾は積まれていないので、投下されるのは爆弾倉に待機している俺だ。


 足下の床が開き、俺は『船』の地上面に向けて弐式の速度を保ったまま突っ込んでいった。


 想像以上の風圧で盾が浮き上がりそうになるが、盾無しで着地したらドラゴンプレートがあっても大怪我は避けられない。俺は渾身の力を込めて姿勢を保った。


 この時点では敵からの銃撃は無い。高速で降下してくる比較的小さな物体を撃つのが難しいということ以上に、爆弾倉から投下された漆黒の金属に覆われている俺を、まさに爆弾だと勘違いして慌てて退避したらしかった。


 凄まじい速度で地表が迫って来て、俺は『船』の手前側の淵ぎりぎりに『着弾』した。とてつもない衝撃を腕から全身に受けながら、俺は金属で覆われた地表面を、がっちりと構えた盾で滑るように転がる。金属同士の摩擦は思ったよりは少なかったが、それでも肩が外れないように必死で力を込めた。きっと錯覚だが、摩擦熱が盾と鎧を伝わって肌まで届くようなひりひりとした焦燥感を覚えた。


 滑っていく先を窺うと、『船』の反対側の淵が迫っている。俺はソリの向きを変えるように、盾を横にして接地面積を増やし、『船』から飛び出さないようにこらえると、そのすれすれで止まった。体も鎧も健全で、地面と激しく擦れた盾さえも、大きな傷もなく漆黒に輝いている。


 俺が『着弾』した目の前には、まだ破壊されていない対空砲があったので、その銃口を握ってぶら下がり、銃身を思い切り蹴り上げるように体重を掛けると、簡単に曲がって無力化できた。


 砲兵は『爆弾』を恐れてすでに撤退していたので、この作業には大きな障害も無かった。『船』の対角線上に最後の対空砲がある。盾で体を覆いながら一直線に走った。


 甲高い金属音がいくつか響いて、盾にわずかな振動を感じた。状況を察した敵が撃ってきたらしい。盾の曲面が弾丸を跳ね返している感覚がわかったので、銃撃が増えてきても恐怖は少しも感じなかった。


 上空では、ヘリの注意を逸らすように、弐式が段幕を張って援護してくれている。弐式もまた、ドラゴンプレート以上の厚い装甲が施されているので、手持ちの自動小銃程度では太刀打ちできないらしく、ヘリは右往左往して混乱に陥っているようだ。


 突き進んでいくと体への強い衝撃も感じた。側面から撃った小口径の機械銃の弾が、手や足、胴に当たる度にその反動を受ける。ドラゴンプレートが完全に弾き返してくれてはいるが、鬱陶しいほどに衝撃を受けるので、まず敵歩兵の戦意を削ぐ必要がありそうだ。


 バラックのような簡単な建物の陰からこちらを銃撃している右手側のひと塊に、俺は進路を変えて突進した。そちらに盾を向けると、体に受ける衝撃がほとんどなくなった。全速力でそのバラックに体当たりをすると、固定された基礎の無いその小屋は簡単に粉砕され、俺はそこに身を隠す兵士ごと吹き飛ばした。


 兵士の何人かはバラックの破片や衝撃で軽傷を負って逃げ出し、それ以外の者も銃を投げ捨てて逃走した。別の位置から撃ってきている兵士もいたが、俺がそちらへ走り出すと、慌てて撤退した。


 対空砲を操作していた砲兵もすでに逃走しているが、俺は改めて対空砲に駆け寄り、一基目と同様の方法で無力化した。


 次の目標はブリッジだ。おじいさんは『船』の周辺に撒き散らされている電波妨害を切ることと、『船』の指揮系統を奪取もしくは破壊することで、ひとまずこの奇襲は成功と考えていた。


「つまり、この『船団』にカワムラを含む指導者は存在しねえ。二〇年前に革命に失敗して、もう一回革命を起こそうって連中が、たったこれだけの戦力であるはずがねえ。幹部は皆イースタシアの各所を攻撃するために出払っているはずだ」


 おじいさんは俺に作戦を伝えながらそう予想していた。いくつもの大型の『船』が連結され、曳航されて広大な空中都市を成しているかのような『船団』だが、主戦力は不在だと考えているようだった。


 内部へ続く扉を探していると、何人かの白装束が機械小銃を撃ちまくりながら『船』の中心付近から現れた。おそらくそこが俺の探していたポイントだ。敵の銃弾を盾でかわしながら、俺はその地点を目指して全速力で走った。


 加速しながら突き進むと、銃弾が当たる衝撃はほとんど気にならない程度で少しの障壁にもならず、多くの兵士は状況を飲み込む前に俺にまとめて吹き飛ばされていた。


 強い衝撃を背中に受けて俺は振り返った。衝撃の角度で、上空のヘリから俺を銃撃していることは容易にわかった。


 『船』への入り口を背にして盾で身を守る。いつの間にかヘリに取り囲まれていて、側面からも銃弾の当たる衝撃を感じる。


 後ろ手に扉を開けて、内部へ侵入するタイミングを計っていると、敵の第三波が、今度は他の『船』から跳び移るようにして現れた。歩兵に突撃しようにも、こちらもタイミングが難しい。


 少し離れた地面が乾いた破裂音と共にゆがんだ。見上げると、俺を狙撃しているヘリの内の何機かが墜落している最中で、伍式が急降下しているのも確認できた。撃墜されたヘリは『船』にはかすりもせずに雲間に消えていった。すでに辺りは薄暗いが、重く湿った雲から時々稲妻が光る。


 銃声とは違う、空気を鈍く切り裂くような音が聞こえた。左前方のヘリから一筋の煙が俺に真っ直ぐに伸びてくる。反射的に盾をそちらに向けて防いだが、銃弾とは比べものにならない衝撃と爆風、爆音と熱を発してその弾は砕け散った。


 反動で盾が吹き飛ばされそうになるが、両手でしっかりと保持してこらえると、負けてたまるかという闘志が湧いてきた。


 すぐに衝撃は止んで、余韻のように残る音と煙が晴れると、敵が俺を呆然と眺めているのが見えた。


 撃ったヘリは伍式に撃墜され、第三波の敵兵の多くは逃げ惑ったが、まだ立ち尽くしている白装束に駆け寄るそぶりを見せると、思い出したように逃げ去った。


 俺はできるだけ迅速に『船』内部への扉を開き、侵入した。『船』の上の銃声や爆発音が別世界の出来事であったかのような静けさがそこにはあった。

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