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 正面やや左の戦闘機が、今度は機銃で零式を狙うことは容易に察知できた。僕は敢えて旋回姿勢を取って投影面積を増やし、銃撃を誘った。敵の弾丸は曳光弾で無くても目視できそうなほどにその軌道が掴めた。


 その弾が発射される瞬間に旋回姿勢のまま敵を正面に捉えた。弾はゆっくりと零式に向かってきたが、少しだけエレベーターを上げてそれをかわし、左のラダーを踏んで機首を下に下げつつ機体を横滑りさせた。


 敵は零式が下を向いたので衝突を避けるために零式の上を通過することはわかっているので、プロペラピッチを細かくして敏捷に下降し、機体をひねってターンした。


 僕の中の修羅は零式を追い越すようにして上方を通過した戦闘機の、そのむき出しのミサイルを精密に狙った。時は止まるほどに遅く流れ、僕は一瞬トリガーを踏みとどまって、狙いを尾翼に定めた。七発ほど命中したのがわかったが、撃墜には至らなかった。


(どこを破壊したって、落ちれば死ぬんだぜ)


 修羅はついに僕に語り掛けてきた。


(見てただろ?さっきの戦闘機が下界に落ちて行く姿を)


 僕はほんの一瞬前に撃墜した戦闘機を生々しく思い出させられた。操縦不能になった機体を、しかし揚力を確保しようと懸命に加速しながら厚くなりはじめた雲を突き破るようにして落下していった。


(そう、その戦闘機だ。あんなに加速して、下の海面に思い切り叩きつけられるくらいなら、ひと思いに殺してやれば良かったのに。ヘリだってそうだ。どこを撃とうが何を撃とうが、墜ちりゃ行き先は皆同じ、地獄さ)


 僕はしかし、その搭乗員らが何らかの方法で脱出して生き延びる可能性を心のどこかで信じていた。


(お前が一撃で致命傷にならない位置を撃つのは、情けなんかじゃ無い。お前がお前の罪悪感を減らしたいだけだ。殺してないと言い張るためだ。でもお前はわかっている。結局みんな死んでいるし、自分が人殺しだってことを)


 戦闘機は一気に加速して、零式の射程を大きく脱した。十分に距離を取った位置で旋回し、こちらへ向けてミサイルを射出し、またすぐに離脱した。


 高速で飛来するその飛翔体の先端に、修羅は寸分の狂いもなく照準した。銃弾の誤差を考慮して、念のために六発だけ撃った。曳光弾の筋が届くか届かないかというところでミサイルは赤い炎と多少の煙、それに無数の破片と衝撃波に分解された。


 ミサイルの爆発が零式から離れた場所で起こったことを受けて、戦闘機はもう一度急速に旋回してこちらを向いた。敵はもう機関銃で撃ち合うしかないことを覚悟したようだったし、一撃離脱戦法がことごとく退けられ、反撃も受けたことに迷いが生じている。


(闘いが終わった後には、あいつもきっと思うぜ。あのミサイルのように木っ端微塵にされた方がマシだったってな)


 僕はプロペラピッチを上げて戦闘機との距離を一気に縮めておいて、動作を機敏にするためにピッチを急速に下げた。操縦桿を引いて一瞬浮き上がり、ラダーを踏んで機首をずらす。それからすぐに背面飛行から急降下した。


 敵は連続的に銃撃してきたが、零式の細かいフェイントに少しも対処できていなかった。


 繰り返し旋回姿勢を取って挑発する零式に、敵はドッグファイトを受けて立った。速度で勝る戦闘機が急速に旋回して零式の後ろを取り、狙いを定めて銃撃する刹那、僕は本能的にフラップを引いて風を掴み、それまで以上の急激な旋回で戦闘機の後ろへ回り込んだ。


 戦闘機は慌てて速度を上げて離脱しようとしたが、僕は旋回しながら弾速と敵との距離や敵の加速度、旋回の程度を考慮して、尾部に狙いを付けて射撃した。


 積乱雲から強く吹いてきた風が弾をわずかに押し流したようだったが、いくつかの光の筋が弧を描くようにして水平尾翼に突き刺さり、その一部を破壊して戦闘機は制御不能に陥った。


 すでに撃墜したもう一機と同じように、最後の力を振り絞って加速し、エルロンやラダーをばたつかせながら高速で雲に消えた。


 僕はフラップを閉じて戦闘機に背を向け、サハラたちが戦う『船』に向けて進路を取った。

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