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 サハラの操る伍式がフロートを投棄して、背面飛行からの急降下で対空砲の弱点である真上からの攻撃を仕掛けた。


 僕の位置からは風防のガラスに西日が映って妙に不吉に感じた。サハラがその大口径の弾丸で地上兵機を破壊している間に、空港で待機している戦闘機を破壊するのが僕の役割だ。


 多数の航空兵力の中で、この二機だけが極めて危険だ。多くの奇襲がそうであるように、戦闘機が飛び発つ前を狙う。


 僕もサハラに続いてフロートを投棄し、操縦桿を倒して急降下した。滑走路はすぐに視界に入った。


『滑走している!』


 先に降りたサハラから近距離無線が入った。敵の戦闘機は僕らの接近を嗅ぎ付けてすでに速度を上げており、今まさに陸地を離れた。いくつかのヘリもローターが回転していて、離陸体勢に入っている。僕は速度を上げた戦闘機を真上から狙うことは困難に思えたので、今にも離陸しようとしているヘリを破壊することにした。


 二機目の戦闘機もスクランブルで出撃した。周りの空気が重くなり、時間の流れが緩やかになった。西風の影響を避けて機体を九〇度ひねり、可動翼で射線を調整するのは単純な作業だった。


 近くで破裂音がいくつかして、伍式から幾筋かの光りが放たれた。着弾と共に渇いた爆音が響いて、地面や対空砲に数十センチメートルの窪みができた。一基目の対空砲は予定通り無力化できたようだ。


 サハラの戦果を目の端で確認しながら、メインローターが一際速く回る一機に狙いを定めて射撃した。着弾することは発射した時の感覚でわかったので、隣の、まだ離陸準備の整わないヘリにスローモーションの中で照準し、再び二発ほど銃撃してこれを仕留めた。


 『船』の地表は迫っていたが、上昇姿勢にしながらさらにローターの回転し始めた二機を照準する余裕があった。


 操縦桿を強く引いて機体を持ち上げる。フロートを捨てた零式は驚くほど軽い力で姿勢を持ち直し、ふわりと上昇した。


 加速のために一度『船団』を離れた敵戦闘機が、西日の中で旋回しているのが見えた。もう一機はどうやら東へ加速しているらしいことが感覚でわかった。僕はスロットルを全開にして機首を西に向けた。


『僕は西の戦闘機を追う。東の戦闘機に気を付けろ』


 サハラに通信を送ったが、返答は無かった。サハラは高度を上げ切らずにまた地表付近に舞い降りて、二基目の対空砲を破壊したところだった。


 遠くから大きな発射音がした瞬間には、すでに零式と伍式のちょうど中間くらいの位置で榴弾が炸裂していた。機体まではかなり距離があったが、衝撃波と細かい破片のような粒子が零式を揺らした。


『狙い撃ちにされるぞ!低空飛行するな!』


 サハラに向けた祖父の通信が漏れ聞こえてくる。


 僕は背後に殺気を感じて操縦桿を右に倒して急旋回した。いくつかの曳光弾が零式をかすめていく。天蓋から確認すると、零式の背後を取った東の戦闘機が銃撃していた。


 追い越すようにして速度を上げるその機を、僕はそのまま旋回して正面に据え、狙い澄まして銃撃した。曳光弾がその細身の尾部に着弾したことは確認できたが、致命傷には至らなかったらしい。戦闘機はさらに速度を上げて音速に達した。


 東の戦闘機と格闘している間に、西の戦闘機はそのサブウェポンたる空対空ミサイルを零式に照準していた。僕は発射されたミサイルを正面に見据え、ミサイルの起爆半径に入る直前に急速上昇してデコイを射出した。ミサイルは狙い取りにデコイに食い付いたが、カウンターを仕掛けたくても西の戦闘機はすでに離脱行動に入っていたので追い付けそうになかった。


 その代わり、側面から東の戦闘機が波状攻撃を仕掛けるように再び銃撃してきた。ラダーを踏んで姿勢をずらし、背面飛行から素早く急降下すると、敵の曳光弾がスローモーションで天蓋の横をすり抜けていった。


 急降下の勢いを殺さないようにしてもう一度姿勢を直し、また離脱しようとする敵に今度こそフルスロットルで追いすがり、真後ろやや下方を取った。その右の水平尾翼に二四発程度撃ち込んだ。


 そのすべてが着弾した感覚があって、戦闘機はバランスを失い、加速しながら遥か下の雲間に落下していった。僕はいよいよ狭まる視界の中で、正面やや左側から再び攻撃しようと迫るもう一機の戦闘機を睨み付けた。


 後方で嫌な感じのする炸裂音が響き、通信にノイズが混じった。

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