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その電磁写真にはいくつもの大型の『船』や、クレーンの付いた島がより大きなほかの島をしきりに行き来して鈍色に要塞化している様子、見える範囲だけでも数十機はありそうな航空戦力と対空砲、それに往来の人々が写っていた。島や『船』は適正高度が違うからかどれも少しずつ違う高さで浮いていて、それぞれが鉄板や縄ばしごで葉脈のように連結されている。
サハラが持ち帰った写真を近距離のデータ通信を用いて共有し、僕らは夕刻が迫るまだ真っ青な空に飛空艇を並べて作戦会議している。
「この島は動いていたんだよね?」
ヤマシタがサハラに確認する。
「『船』に見える物はもちろん、クレーンの付いた作業している島も、作業されている島も動いていた」
風が強く吹いてきて、飛空艇は風のままに流された。
「これは全部『船』だ」
祖父がそう大きくない声で呟いた。
「この円形の島も『船』ってこと?」
それは一群の中心にあって、ほかの『船』よりも桁違いに大きく、濃い灰色の金属で覆われている。よく見れば、航空戦力も対空砲も、この島に極端に集中している。
「『船』と島の違いは移動能力の有無しかねえ。この『船』が移動能力を失っていれば、厳密に言えば島とも言えるが、これは大昔に建造された『船』だ」
「思ったよりも戦力がありそうでした」
サハラは思い出したように髪の毛をまとめていたバンダナを解いたが、その表情は曇っている。
「怖じ気づいたのか?」
祖父は挑発するようにサハラを見た。
「そうじゃありません」
「俺はむしろ、思ったよりも勝てそうだと感じたぜ。やはり敵の攻撃部隊はすでに出撃しているらしい。だからこそ急ぐ必要があるが、チャンスでもある」
風が凪いできた。僕らよりも高いところを浮かぶ雲は細かく無数にあって、秋の初めのような空だが、西には夏らしい積乱雲が確認できる。
「奴らが攻撃作戦を中止するとは考え難いが、とにかくヘリが一機撃墜されたことで、戻って来ねえとも限らねえ。基地は迎撃態勢を整えちまうだろうし、俺たちは夜戦装備がねえから夜になったら引き上げるしかねえ。それに」
祖父は僕が見ている方角を同じように見詰め、ほとんど無限遠にも見える空と、そこに浮かぶ巨大な雲を眺めた。
「風が湿っぽくなってきやがった」
僕はもう一度電磁写真を見た。
この『船』の群れのどこかに、ホヅミは居るのだろうか。
トーチカのごとく要塞化されたこの巨大な『船』の中だろうか。それとも周囲に浮かんで編み込まれるように捕縛された民間の『船』と見られる物のどれかが、まさに今回消息を絶った『客船』で、今もその中で過ごしているのだろうか。
「なんにしても、俺たちには急ぐべき事情しかねえ」
風がまた強く吹いてきた。それが湿っているのか僕にはわからなかった。