意味の無い
僕は友人と出掛けていた。それは友人が急にカフェに入りたいというので、店内に入り優雅な椅子に腰掛け珈琲を嗜んでいた昼頃のことであった。
「なぁ」
「なんだ」
「なぁ君、僕は思うのだよ。」
「何を突然。一体どうしたのだというんだ?」
「それはさ、僕らのしていることは、全部無意味なんじゃないかってことなんだよ。」
「いやいや、意味はあるだろう。意味があるから、こうして動いているんじゃないか。現に僕らはカフェに来て珈琲を飲んでいるぞ。それはつまり、僕と君に落ち着いた話せる空間を設けるためだとか、喉が渇いたからだとか、はたまた喉は乾いておらぬが珈琲の味わいを楽しみたいだとか、そういった意味、意志があることにより僕らは現在珈琲を飲んでいるのではないのか?」
「いや、僕が思いついたのはそんな浅い酷く本能的で深くも表面的なことではない。その欲求、意志すらも全くもって意味の無いことなのではないかという事だ。君の喩えに乗っかって言ってみるとしたら、一体会話をしたからといって何になる、喉を潤したから、珈琲の味わいを知ったから何になる、という点だ。そこについてぐるぐると考えてみればみる程、全てのことが無意味であるということが分かりはしないかね?」
「ああ、確かにそうだなぁ。考えれば考えるほど無意味を感じていくな。だがこれは逃れられないことじゃないか。僕らがどれだけこれら全てのことが無意味であると理解したところで、喉が渇くのも珈琲が旨いのも変わらない事実として残り続けるじゃないか。」
「そうだなぁ…?」
「てことは、だ。僕らはまるで簡単に、眼前に立ちはだかり襲ってくる欲求を消化するためだけに、時には一つ、時には幾十もの手間をかけているってわけだな。ところで俺は今君の思いつきに対して反論のように言葉を述べているのだが、これは君の言うところの『意味』の基準を満たせる高貴なものであるかね?」
「あぁ、勿論だとも。それは意味と言えるだろう。ってことは何だか釈然としないよなぁ、だって僕らは人間で、感情を持っているよな。それによってもっともっと達成するのに遠回りが必要な欲求が生まれてきてしまうだなんて滑稽じゃないか。」
「確かに!そんなことなら感情なんぞ要らなかったのかもな、お荷物になるだけじゃないか!」
「…まぁ、そんな事に気付くことが出来た所で、感情などというような莫大な僕らの重荷からは逃げられないのだけれどなぁ。」
「…!」
「なんだ、どうした?」
「なぁ、それこそ無意味じゃないか。僕らは珈琲を飲むようにこの会話をしたわけであるが、結果として自分の不安を拭いきれた訳では無いじゃないか。」
「ははは、そうだな、無意味だなぁ。なんだなんだ、とっても面白いじゃないか。無意味もそこそこ悪いものではないな。これからも我らで共に果てしない無意味を楽しもうじゃないか。」
「はは、そりゃいいな。」
珈琲の深い味わいに浸りながら、昼下がりの時はゆったりと過ぎていった。