常識に囚われないで!のびのびやろうよ!
翌日以降も大池の特訓は続き、土曜日は朝8時から夜8時まで練習していた。その日のバンド練習を休み、浦部の指導のおかげか、大分良くなった。
「今度はこのカバーをやろっか。ある程度覚えてるでしょ?」
と言われて、最後にアップロードしたカバー曲のコード譜を渡された。
何度か通し演奏をしたが、浦部は納得しないようだ。
「どこが悪いのか、分かってるはずだよ。さあ、もう一回!」
それでも、浦部のOKは出ない。
じゃあ、と言うと、大池に向かって歩き出し、
「こんなモン退かせえええええ!!!!」
と楽譜台を豪快に蹴っ飛ばして、壁にブチ当てた。壁は無事だったが、楽譜台に至っては三本足の一つが折れて、ポールも曲がっていた。
「そのままさっきの曲やって!」
言われるがままに演奏するが、駄目だった。
「はあ…説明しないとか…」
ポケットから無造作に取り出したスマホで、
「一年前の文化祭でバンドやってさ、そんときの動画あるから見せるよ」
そこにいた四人は、非常にエネルギッシュな演奏をして、観客を楽しませていた。
「一応、観客賞貰えたけど、金賞とかは無理だった。何でかわかる?」
そこで、初めて分かったことがあった。
「つーか、ぶっちゃけ狙ってなかっただろ。観客に楽しんでもらうための演奏。賞とか考えずに」
よーーーーーーーーーーやく、気付いたか、と小馬鹿にする渡部。
「要は、演奏中、ずっとわたしを見てれば良いんだよ。楽譜如きに振り回されるな!
常識に囚われないで!のびのびやろうよ!」
その眼は、間違いなく大池だけを見ていた。




