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チョコレート

作者: ショーマ

 中学校三年生二月十四日バレンタインデー。その日は、二月中旬には珍しく晴れ間が覗いた。

 僕は、付き合っていた彼女からチョコレートを飛び切りの笑顔とメッセージとともに貰った。

 「好きだよ」

 そう言われても僕は照れてしまい言葉を返すことが出来なかった。

 そして、貰ったチョコレートの包み紙を破り捨てて食べた。それは飛び切り甘く、幸せが溢れた。

 一週間もしないうちに学校で手渡されたのは手紙。吹雪の中家に帰り、手紙を丁寧に開いて読んだ。内容は飛び切り苦く、涙が溢れた。

 それから、忘れずに僕は彼女と一言も話さなかった。友人には忘れずに彼女の悪口を言った。志望校も別の学校だったし忘れようとした。

 そして、近づいていく忘れたかったホワイトデー。僕にチョコレートを渡したのは、彼女一人。ハート型を渡したのも彼女一人だった。

 自然に彼女のことを思い出す。忘れられない告白の日やらがリフレインした。

 桜を一緒に見たり、彼女に勉強を教えたり、そんな積み重なった日常が、頭の中をぐるぐると回った。

 自然と右に持っている紙袋に眼が落ちた。

 紙袋が濡れていた。

 どうやら僕はいまだに彼女のことが、大切だったらしい。あの笑窪やトンチンカンな返答もなびく髪の香りも全て。

 もし仮に、彼女と同じ見た目で同じ思考で同じ思い出を持ってても、きっと僕はその娘を好きにはなれない。

 そして、僕は彼女の前に立っていた。

 「これ、ホワイトデーのお返し」不自然な程に心臓は落ち着いていた。

 「...あ。うん。ありがとう」と彼女は目を反らす。

 「僕さ。まだ君のことが好きかもしれない。それだけ。じゃあね」と告げて僕は彼女に背を向けた。

 後ろから嗚咽が聞こえた。振り返りたい衝動にかられたがし僕は彼女に寄り添うこともそうする権利さえ失っていた。


 そして、今バレンタインデーのチョコレートを話したことも名前も知らない女の子から貰った。

 そのチョコレートを見て、今年も僕はあの女の子を思い出す。

 甘いチョコレートを見て、思い出す。

 あのどうしようもなくいとおしい女の子を思い出す。

 

 

  



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