安定が欲しい
異世界に来てからの初めての休日と言える休日を思う存分満喫した俺は、相変わらず底をつきそうな財布の中身を補充するためにハンターズギルドに来ていた。
だったら休んでる暇ないだろって?
肉体的には休まなくても問題無いほどになったけど、精神的には疲れるから仕方ない。
少し余談になるが、俺は授かった力をまだ完全に使いこなせてはいない。というよりほとんど使えない。身体能力は暴走気味ではあるが、まだ何とか制御できるのだが……。
依頼中や日常生活の中で使ったりして訓練してはいるが、なにぶん数が多すぎる。
才能に限界が無いことの副次的効果で、俺は他人より技能や力の習得や上達・成長が早いらしいが、それでもマトモに全部の力が使えるようになるのはかなり先のことだろう。
「それまでは何もかもを金で買って揃えないといけないしな……」
貰った力の中に『錬成』の力があるのだが、これは日本にいた時に読んだ漫画に出てきた錬金術のようなもので、これを使えば服くらいは揃えられる。
しかし、残念ながら俺は現時点ではその力をマトモに使うことができず、錬成してもよく分からない謎の物質ができることがほとんどだ。
多分物質への理解とか、力を使う感覚とかがまだ完全じゃないんだろう。
そんなわけで、能力でズルをすることもできず、目下の問題は全て金で解決しなければならない。
なのに最低限の資金援助をしてくれる人もおらず、賃金はこの世界のマトモな職業の中では最低水準。しかも不安定。
「安定した収入が欲しい……」
それは俺の切実な思いだった。
例え(人間として許容できる限りの)どんな苦労をしてでも、一刻も早く最低限余裕がある生活ができるだけの収入を安定して得られるようにしたい。
研修依頼の監督者として着いてくる先輩ハンターに聞いたところ、ハンター一筋で一般的な店の販売員と同等の収入を安定して得るには、大体Dランクの上位依頼~Cランクの下位依頼の辺りを月に十~十五回受けなければならないらしい。
どうやらこの辺りから本格的な魔物討伐依頼が扱われるらしく、報酬も跳ね上がるようだ。
また、それ以外の方法で同等の収入を得る事もできるらしいが、毎日睡眠すらほとんどないような働き方をしなければならないようで、流石にそれは精神が持たなそうなので手を出すつもりはない。
そもそもこっちの世界に比べて便利な日本ですらバイトもしたことがない人間が、そんな働き方できるはずもない。
「研修依頼が終わるのはだいたい一週間後。その後からEランクとして扱われるようになるけど、Dランクに上げれるようになるまで三カ月が必要」
つまり、それまでは金欠の不安定生活……か。
そんなことを思いながら、俺はFランクの依頼掲示板から一枚の依頼書を剥がし、依頼受付カウンターへと持っていく。
「ショウマ・ハイムラさんですね。Fランク自由依頼、受注手続き完了しました。では五番テーブルに同行者がおりますので、そちらの方へどうぞ」
「分かりました」
そう、依頼なのだが、いくつかの種別に分かれている。全ランクに共通して存在する自由依頼、基本ランク以上が対象の強制依頼、Cランク以上が対象の緊急依頼、Aランク以上が対象の指名依頼、そしてFランク対象の研修依頼といった具合だ。
今俺が受注したのは全ランク共通の自由依頼。依頼のランクはE。
自由依頼は、その名の通り、ハンター側が自由に受ける受けないの決定ができる依頼だ。逆に言うと、自由依頼以外は受注拒否が出来ない可能性がある、あるいは拒否出来ない依頼だということだ。
ただ、自分のランクより上のランクの依頼は受ける事ができない(これは全ての依頼に共通しているが)。Fランクのハンターが受けれる自由依頼は、Eランクの依頼を受けた基本ランク以上のハンターがFランクの帯同を許可した依頼のみである。
俺が受けれるもう一つの依頼は研修依頼なのだが、こちらは受ける日が決まっている。いわゆるハンターの授業のようなものだ。日程の通知はハンターカードに来る。
ちなみに、ハンターカードはハンターズギルドの一員である証のカードだ。魔力ロックが掛けられていて、本人にしか使えない身分証明書のようなものでもあり、ギルドの銀行のキャッシュカードでもあり、ギルド専用の連絡手段でもある。
それだけの機能が盛り込まれた道具のため、カードと言うには少々ぶ厚い。
こういった魔術を用いた道具は魔道具と言うらしい。
かなり話がそれたが、今俺が受けた依頼にはEランク以上の帯同者がいて、先ほどの五番テーブルというのがその帯同者が待っている場所だ。
ギルドはテンプレの如く酒場と併設されており、その酒場の五番テーブルということだ。
と、いつの間にか着いていたようだ。
「すいません、ブルーマッシュ採取の依頼を受けた者なんですが……」
自分でも分かるくらいのガッチガチの棒読みだ。どうも他人と話すのは苦手だ。
どうやら持ち物の点検をしていたらしい帯同者がこちらへと顔を向ける。
「ああ、私の依頼ですね。どうぞ、向かいにかけて下さい」
真っ黒……とまでは行かないが、若干青みがかった黒い髪を肩くらいの長さまで伸ばした、見た人全てが認める程の美少女……、それが俺の帯同者らしかった。
ただ、どうにも小さい。色々と。
多分見た目だけだと、下手すると小学生くらいだ。しかし、その姿とは裏腹に、どこか落ち着き払った風に感じられる声が印象的だった。
とりあえず、俺は彼女に言われた通り、向かいの椅子に座る。
「さて、まずは自己紹介を……と言いたい所なのですが、今は席を外してますが貴方の他にもう一人Fランクの帯同者がいるので、その方が戻って来てからにしましょう」
「分かりました」
てことはこのちっこいのCランク以上なのか。
実はFランクの帯同許可依頼は基本ランクの義務で、更にその帯同人数はランクが高くなる程に増やすことができ、Cランクから二人のFランクを帯同させることができる。
などと考えている内に、そのもう一人が戻ってきたようだ。
「あれ?ショウマ?君もこの依頼受けるのかい?」
その人物は、この約一カ月の異世界生活で、見知った顔であった。
「アル……お前キノコ苦手なのにこの依頼受けたのか?」
彼女の名はアルメリア・ゴードウィン。愛称はアル(自称)。中々に仰々しい感じのファミリーネームの通り、それなりの貴族の家の子らしい。ただ、この世界では珍しいハンターをやりたい人間なようで、反対する親をその熱意でもって説き伏せて、俺と同時期にハンターになったらしい。
運動しても邪魔にならない程度の長さの金髪に、青い瞳のボクッ娘の一部の層が騒ぎそうな美少女である彼女は、物腰は柔らかだが、非常に活発な性格で、おしゃべり好きで、とても貴族の娘には見えないが。
ちなみに貴族の子やら親を熱意でやらも、聞いてもないのに本人が話して聞かせてきた内容だ。
「う……こ、克服するためさ。べ、別にキノコ採取だって気づかずに受けたとかじゃないよ?」
呆れたような俺の問いに、そんな風に目を逸らしつつ答えるアル。
……抜けてて、尚且つ後に引かないタイプ。
これでこの先やっていけるのだろうか?
と、そんなやりとりをしていると、小さい先輩ハンターが咳払いで割り込んでくる。
「さて、揃ったようだし自己紹介を。二人は知り合いみたいなので、まずは私から。私はユリーナ、ランクはCです。まだ十三歳ですが、ハンターとしての実力はしっかりあるので、安心して下さい」
ユリーナは俺達二人をじっと見て、淡々と自己紹介をする。
にしても見た目イコール実年齢だとは……。てっきり発育が悪い同い年くらいか、もう少し上だと思ってたんだが……。
と、そこまで考えたところで、背筋に寒気を感じて思わず体がビクッと反応する。
「今、何か考えてました?」
真正面の少女、ユリーナの口から、底冷えのするような声が放たれる。髪と同色のその瞳は、静に、されど獰猛に、爛々と輝いているように見えた。
……思考の中の地雷まで感知するとか、超能力でも持っているのだろうか?
とりあえず、聞こえがよさそうなところだけ話してお茶を濁そう。
「いえ、思った以上に若いな、と……」
「……それならいいんですが」
どうやらセーフみたいだ。
寒気も、ユリーナの眼光も収まっていた。
その後、俺達二人もそれぞれユリーナに対して自己紹介し、荷物や依頼内容などの確認を済ませた後にギルドを後にした。




