第八話〜戦いの終わり〜
活動報告にも書きましたが、風邪をこじらせました。
日刊ランキング7位! ジャンル別では4位に選ばれました! 感謝感激!震えが止まりませんよ(風邪の症状)
まさか自分の作品が、一桁までいけるとは思っていなかったので本当にびっくりです。
できる事なら1位を目指したいのですが、今回の話でひとまずストップ。第二章を書き上げます。
それにしても1位の方の作品、五桁いきそうなくらいポイント凄いですね。実際にメチャクチャ面白いですし。
〜時を遡る事、カーラン砦の攻防戦が始まった頃〜
「皆さん! 冒険者組合の指示と誘導に従って避難してください! そこの人、押さずに落ち着いての避難をお願いします!」
城塞国家カーランの街中に、セシリィの声が響く。
レイルたちが魔物の軍勢と戦闘を開始した頃、現在セシリィは街の人々の避難活動をしていた。
如何に堅牢強固と謳われたカーラン砦だが、街中に被害が及ばないわけではない。住民たちの安全を確保するのも冒険者組合の仕事であり、セシリィは他の冒険者組合メンバーと協力して住民の避難活動に参加していた。
「……レイルさん、大丈夫ですよね?」
セシリィは砦の外壁を見つめ、そこのいるであろうレイルの無事を祈る。
冒険者マネジメントとしてレイルの側にいたから、レイルの実力は知っているつもりだ。けど誰よりも魔物の情報に精通しているセシリィだからこそ、今回の戦闘は不安で仕方ないのだ。
グラジバード、通称怨み鳥、英雄殺し、国潰しと様々な異名を取っている鳥であり、過去の歴史をみれば様々な天災規模の被害を齎している。
その死に際に発した悲鳴に呼ばれて押し寄せた魔物の大軍勢に、単騎で挑んだSランク冒険者は命を落とし、誤って狩人が殺してしまった際は周辺の村々や国が魔物の巣窟とり、当時冒険者組合にいたSランク冒険者全員でなんとかコレ等を討伐したという記録が残されている。
レイルとて、無事では済まないのではとセシリィは頭の片隅で考えてしまう。
「いえ、レイルさんならきっと大丈夫な筈です。私は私の出来る事に集中しないと」
唾棄すべき考えだ。レイルの相棒なのに、そんな事を考えてどうする。誰よりもレイルを信頼する事こそが冒険者マネジメントとしての役割ではないか。
頭を振ってそんな思考など追い出し、セシリィは一層避難活動に力を入れる。でないと、またそんな考えが湧いてきそうだから。
やがて住民たちの避難がほぼほぼ完了すると、セシリィはまだ逃げ遅れた人がいないか確認するために街の中を見て回る。
活気付いていた街は今やゴーストタウンのように人の気配が感じられず、外では激しい戦闘の音が聞こえてくるのみ。
いずれその余波がこちらに来るかもしれないので、セシリィも街を離れようとした。
「そろそろ、私も避難した方が……あれは?」
セシリィの視界に、何か動くモノが映った。しかもその形状は、人だ。
見てしまった以上、もしかしたら逃げ遅れて人かもしれないので見過ごす事もできない。
セシリィは急いで、人影の後を追う。
「……こちら冒険者組合のセシリィ・アーネルです! ここは危険ですのですぐに避難してください!」
「え……?」
それは、あまりにこの状況にそぐわない身なりであった。
黒を貴重として赤のラインが引かれているゴシックドレスに、手には陽射しを遮るフリルアンブレラ。しかもそれらを着飾っているのはまだ十にも満たないくらいの子供ではないか。
まるで銀の糸で織られたような輝く銀色の頭髪に、妖しい光を放つ血のような真紅の瞳。肌は、まるで一度も太陽の光を浴びていないかのように白かった。
まるで人形のような愛らしさを持つ少女は、しかしこの場では不釣り合いであった。
少女は現在の状況が分かっていないのか、首をこてんと傾げていた。
「えっと、あの……はじめまして。セシリィ・アーネルです」
「こちらこそ。カティステア・アルカード・ドラクロワよ」
何をやっているんだろう。と、セシリィは自分自身に問いかける。
あまりに現状とこの場の空気が違いすぎていたので、何故かセシリィは挨拶をしてしまった。そしてご丁寧な事に相手も返してくれる。
相変わらず、セシリィとカティステアの間にはよく分からない空気が流れる。
「いや、こんな事をしている場合じゃなくて……ここは危険ですので、私と一緒に避難してくれますか?」
「それは困るわ。私はここに妹がいるんじゃないかと思って探しにきたの。まだ離れられないわ」
「妹さんが? でしたら私も協力します!」
「え? いいわよ。私一人で大丈夫だから……」
「一緒に探した方が効率的です! さあカティちゃん、行きますよ!」
「カティちゃんって、私は……ってちょっと!」
カティステアの言葉も聞かず、セシリィはカティステアの手を握って走り出した。
突然手を握られて頬を赤く染めるカティステアはセシリィを呼び止めようとするけど、セシリィは聞いてくれない。しかも純粋な善意だから、無下にもできなかった。
結果、街のあちこちをを探し回った二人であったが、カティステアの言う妹を見つける事はできず、残されたのは街中を走り回った疲労だけだった。
「……ごめんなさい、妹さんを見つける事はできませんでした」
「別に気にしてないわよ。私も、この街なら妹がいるかもって思って探しただけだから」
「でも、もしかしたら既に妹さんも避難してるかもしれませんし、私が避難所に行って探してきますよ!」
「あなた、私の妹がどんな見た目か知らないじゃない」
「うっ……ですが、きっとカティちゃんと同じでカワイイに決まっています!」
「カワイイって……たしかに姉の私から見てもとても可愛い自慢の妹だけどさ」
臆面もなくさらりとカティステアとカティステアの妹をカワイイと言い張るセシリィに、少し気恥ずかしくてカティステアは頬を赤くしてセシリィから顔を逸らす。
褒められ慣れていないその仕草がまた愛らしくて、ほんわかとセシリィは笑みを浮かべる。
『──オオォォオォヲヲォォオィヲヲ!!』
そんな仲睦まじい空気を壊す、大気が震える程の咆哮が街を揺らした。
セシリィは耳を倒して少しでも音を遮ろうとするのに対し、カティステアはフリルアンブレラの日傘を差して咆哮の発生元であろう砦の外を見つめている。
「な、なんなんですか一体……」
「そっか、もうアレが出てくる頃なのね」
「え……」
「セシリィ、あなたはすぐに逃げなさい。ここは直に陥落するわ」
「カティ、ちゃん?」
「だから、ちゃん付けはやめなさい。アレが出てきてしまった以上、今のあなたたちの戦力じゃ太刀打ちできないわ。すぐにでも離れないと、死ぬわよ?」
「大丈夫ですよ」
セシリィの身を案じるカティステアであったが、しかしセシリィは一切の不安を見せなかった。そこには、虚勢や強がりは感じられず、自信に溢れていた。
信じているのだ。レイルならば、どのような強敵や難敵を相手にしても必ず勝つと。
「レイルさんなら……私のパートナーなら、誰にも負ける事はありません。きっと、すぐにでも勝ってくれますよ」
「レイル? 聞かない名ね。唯一警戒していたのは"紅蓮"のセレノアぐらいだけど」
「レイルさんは、信頼できる私のパートナーですよ。いずれ、最強の冒険者となる方です。すぐに、この戦いを勝利に終わらせてくれますよ」
「……ふぅーん、随分とレイルって奴を信頼してるのね」
「はい!」
まるで花が咲き誇ったかのような笑みを、セシリィは浮かべた。そしてその信頼に、レイルはすぐさま応えてくれた。
『──うおおぉおおぉおおぉぉぉお!!』
砦の外から聞こえる、大喝采の勝鬨。それが今回の戦いの勝利を皆に知らせてくれた。
その大歓声を聞き、安心したというかセシリィは顔を綻ばせる。
やっぱり、レイルがやってくれたのだと、セシリィは確信していた。
「ほら、やっぱりレイルさんがやってくれた──って、カティちゃん?」
セシリィが目を離した一瞬、カティステアは姿を消してしまった。辺りを見渡しても、どこにもカティステアの姿は見当たらない。
不思議には思っていたが、しかしセシリィ誰もいない街の中でただ一人、レイルの勝利を祝っていたのだった。
*****
カーラン砦の攻防戦は、レイルの活躍によって大勝利という形で終わった。しかも天災規模に指定されたグラジバードが呼び寄せた魔物の大軍勢を相手に、こちらの死亡率は一割未満であった。おそらく、人類史上始まって以来の快挙だろう。
街は国を挙げてのお祭り状態であった。道には店が並び酒場は満席状態。不仲であった冒険者と騎士たちでさえ酒を飲み交わしている程の狂乱状態であった。
「レイルさんは、お祭りには参加しないんですか? 今回の立役者なのに」
「俺はいいや。祭りは好きだけど、チヤホヤされるのは好きじゃないし」
しかしレイルは、この祭りの主役だというのに宿屋でのんびりしていた。
疲れたというわけではない。それどころか疲れすら感じていないのだが、レイルは周りからチヤホヤされるのが好きではない。
レイルが祭りに参加しようなら、間違いなく皆から騒がれて満足に祭りも楽しめないだろう。
ベッドに寝そべり、レイルは天井を眺めていた。
「祭りに行きたいなら、セシリィ一人で行ってきていいぞ。お金なら渡すから」
「……いいです。私もお祭りに興味ないですから」
「そう言う割には、ずっと窓の外を見てるのな」
「夜景を見てるだけですよーっだ」
「──随分と、仲が良さそうなのね」
突如、部屋に三人目の声が聞こえた。
扉の前には、いつの間にかフリルアンブレラを差した少女が立っている。
気配も感じさせず部屋に入った少女に警戒して、レイルはすぐさまベッドから飛び起きてセシリィを庇うようにして少女の前に立った。
「反応が速いわね。それに迷いもない。私を殺す事に何も躊躇いも感じられない。セシリィが言うように、たしかに強そうな男ね」
「おいおい、人の部屋に入るなら傘ぐらい閉じたらどうだ?」
「それは悪かったわね。私はカティステア・アルカード・ドラクロワ。世間では吸血皇女なんて呼ばれて、一応魔王軍の四天王をやってるわ。セシリィがやけにあなたを自慢していたから、ちょっと見にきたの」
「自慢って、セシリィお前なに喋ったんだよ?」
「とっても信頼できるパートナーって言いました」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか」
「えへへ〜」
もしかしたら一国が滅びるかもしれない危機だというのに、レイルとセシリィの二人は仲良くじゃれついていた。
カティステアが魔王四天王とは、文字通り魔王の下にいるトップ4の実力者である。
時代と頂点にいる魔王によってその顔ぶれは変わるが、どれも共通するのはたった一人で一国を潰せるだけの力を持っているという事。
カティステアも、見た目は幼げな少女ではあるがそれだけの力を秘めているのだ。
「ちょっとあなた達、四天王の一人が目の前にいるのに、なんでそんな呑気なのよ?」
「だって、カティちゃんは全然悪そうな子には見えませんから」
「だな。敵意が感じられないし、第一敵意があったら俺がすぐに察知している筈だ。それに、セシリィとは知り合いなんだろ? じゃあ気にする事なんかじゃないだろ」
「……あなた達って、随分とズレているのね」
二人のあまりに平然とした反応に、カティステアは頭痛のする思いだった。
四天王ともなれば同じ魔王軍でも首を垂れる者が大勢いるし、人間であったら大パニックに陥っている所だ。
それなのにこの二人ときたら……ただの世間知らずか大物かのどちらかだろう。
「そうだカティちゃん、結局妹さんは見つかったんですか?」
「いいえ、いなかったわ。魔族との接触多いここでなら妹がいると思ったのだけれど、アテが外れたわね。折角苦労してグラジバードを捕まえてきたのに」
「おいおい、それじゃあ今回の騒動はお前が原因なのか?」
「そうよ。騒がしいのが好きな妹なら、今回の騒ぎで出てくると思ったの。それに一応、魔王軍で四天王やっているから、仕事しているように見せないと。この砦が落ちようと落ちなかろうと関係なかったのだけど、面白いのを見つけられたわ」
スッと、カティステアの真紅の瞳が妖しく輝き出し、レイルを見つめる。
そこに込められた魔力は、常人ならば萎縮してその場にへたり込む程であったが、レイルはまるでそよ風でも受けるかのように平然と受け流していた。
「……体に流れる魔力、浅黒く変色した肌に脱色した頭髪。そして何よりその魂……レイル、あなた人間じゃないわね?」
「え?」
カティステアが突然言い放った言葉に、セシリィは言葉を漏らした。
そりゃそうだ。たしかにレイルの容姿は人とは少し違うけれども、それでも立派な人間だ。
カティステアの突拍子もない発言に、セシリィは頭の上に疑問符を浮かべる。
「面白い事を言うな。俺が人間じゃないって?」
「姿や形で定義するのであればあなたは人間だけど、魂で定義するのであればあなたは人間の枠組みから逸脱しているわ。何かの呪い、或いは太古の儀式によって魂を後天的に変えた"元"人間といったところかしら?」
「見ただけでそれが分かるのか。そりゃ凄いな」
「これでも真祖と呼ばれる最高位の吸血鬼よ? それにあなたのような類は私たち吸血鬼の範疇だしね。おそらく血や肉を食べてあなたの魂は変質したんじゃない? そういう儀式は幾つもあるから。例えば、今は絶滅したとされる竜が力を移譲する時とか」
魂とはすなわち、その者を表す本質である。
犬であれば犬の形をした魂を持っており、人間であれば人間の形をした魂を持っている。その魂を覆うようにして、皮膚というものがあり魂を満たす血や肉があるのだ。
しかしレイルの場合は違う。カティステアが見たレイルの魂は、およそ人間の大きさとは呼べない程の巨大な魂であった。
山を間近で見てもその全容が見渡せないように、カティステアもまたレイルの魂が巨大でその全容を窺い知る事はできなかった。
しかし吸血鬼として生物の魂を喰らってきたカティステアだからこそ分かる。
……アレはもう、およそ人の形をした魂でないと。
「まあ否定はしないけど、それでお前はどうする? 俺が人間じゃないって言うなら魔王軍に引き込むか? それとも殺すか?」
「どちらもしないわよ。正直、私は魔族と人間の戦争なんて興味無いから。ただ魔王軍にいた方が安全に暮らせるからそっちにいるだけ。けど、あなたは気を付けなさいよね。セシリィのパートナーだから特別に忠告してあげるけど、人間と魔族のどちらにバレてもロクな目に合わないわよ。……特に今回の魔王は、本気で人間を滅ぼしにかかってきてるから。あまり関わろうとするんじゃないわよ」
「その言葉、ありがたく頂いておくよ」
「それじゃあ私は行くわね。ほっつき歩いている妹を見つけないと……あ、ちなみに妹の名前はレティシアっていうから、もし見つけたら捕まえてちょうだい」
「ちょっと待ちな、カティ」
話しが終わり、出て行こうとするカティステアをレイルが呼び止める。
カティステアが振り返ると、レイルの瞳孔は獣のように鋭いスリット状へと変わっていた。
「セシリィが世話のなったから、お返しに俺からも一つ忠告しておくぜ。妹を探すのは別に構わないが、今回のように人が死ぬような騒動は起こすなよ。次は、俺もお前の敵になるかもしれないから」
その黄金の瞳に込められた意思に、嘘や偽りはない。今度また同じ事を起こすようであれば、レイルは本気でカティを討つだろう。
しかし今回は、ただの挨拶に過ぎない。また会った時に友人として接するか、ナイフを持って接するかはカティ次第である。
「……わかったわ。私もあなたとは戦いたくないし、これからは穏便にやらせてもらうわね。じゃあね、レイルにセシリィ。今度会った時は、一緒にお茶でもしましょう」
そう言うと、カティステアの体は影へと溶け込んでいき、完全に姿を消した。
レイルは試しに気配を探ってみるけど、どうやら既にこの街から離れたようだ。
突然の来客の相手に疲れたのか、レイルは再びベッドの上に寝そべる。
しかしそんなレイルを、セシリィは不安そうに見つめていた。
「……あの、レイルさん。カティちゃんが言った事って、本当なんですか?」
「ん? まあ、概ね間違ってはいないな。俺自身も薄々は思っているけど、多分俺は人間っていう枠組みから外れていると思う」
「それでレイルさんは、どこかに行っちゃうつもりなんですか?」
「どこにも行かないさ。まあ俺の素性がバレて追いかけ回されたら話は違うけど、カティが言ったようにバレないように注意するさ。少なくとも、俺からお前を離したりはしない」
「……はい!」
安心させるようにセシリィに笑いかけると、それにつられてセシリィからも笑みが零れ落ちた。
レイルは、割とこの生活が気に入っているのだ。冒険しては初めて見る光景に一喜一憂し、隣にはセシリィがいるこの生活を。それを自分から手放す真似はしない。
──しかし、そんなレイルの思いとは否応なく、レイルは表舞台へと出て行く事になる。
数日後、レイルの元に冒険者組合総本部への招集を知らせる手紙が届いた。
運命の悪戯と言うべきか、その手紙が届いた時がレイルも笑う事しかできなかった。
──冒険者組合の総本部は、レイルが生まれ育った街にあるのだから。
~第一章 完~
これにて、第一章は完結です。ほぼプロローグに近い物語だったので、退屈に思った方もいらっしゃると思いますが、二章からは本格的なストーリが始まると思います。
本来であればこのまま日刊投稿したかったのですが、風邪をこじらせてしまいまだ二章が書きあがっておりません。書きあがり次第、投稿を再開する予定です。
何か進展があれば、活動報告に記載します。