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第六話〜怨み鳥・グラジバード〜

 レイル・ヴリトラ。14歳に冒険者となり、史上二人目となるCランクからのスタートとなった、冒険者組合(ユニオン)でも現在最も話題となっているルーキーである。

 一部ではレイルの実力を疑問視している冒険者たちもいたが、冒険者殺しのダークギルドをたった一人で追い詰めたという事でその実力を疑う者は激減した。


 ダークギルドに所属している者はそれだけで冒険者たちや国から処刑の対象となるので、数こそ少ないがダークギルドの殆んどが実力者揃いである。

 基本はダークギルド一人に対して大勢の冒険者で挑むか、AランクかSランクといった切り札を出すのが常であるのに、レイルはたった一人でそれを追い詰めたのだ。


 その実力と功績を冒険者組合(ユニオン)も無視できるわけなく、レイルは異例のBランク昇格へと果たした。

 本来ならば厳正な昇格試験を果たした者でなければ昇格できないのだが、これは異例ともいうべき待遇であった。

 もし追い詰めるよりも討ち倒したのであればもう一つランクが上がったかもしれないが、それは仕方ない。

 そしてBランクへと昇格を果たしたレイルに、まるでそれが昇格の狙いだったかのように一つのクエストがレイルに押し付けられた。



 ──クエスト名:カーラン砦の攻防。

 ──達成目標:魔族の侵攻を食い止める。

 ──受注資格:Bランク及びAランク。



 これが、冒険者組合(ユニオン)からレイルに命じられたクエストである。

 その目的地であるカーラン砦に向かうため、レイルとセシリィは馬車に揺られていた。


「こんなクエスト、納得できません!」


 しかし、冒険者マネジメントとしてセシリィはこのクエストを受ける事に納得しておらず、耳をピンと伸ばして頬を膨らませていた。

 実はこのクエスト、半ば冒険者組合(ユニオン)が強制的に決めた事で、冒険者マネジメントであるセシリィが介在する余地がなかったのだ。


 冒険者組合(ユニオン)自身が冒険者組合(ユニオン)の一員である冒険者マネジメントを軽んじるような強行さに、セシリィはご立腹であった。

 そもそもクエストを受けるか受けないかは冒険者本人が決める事なのに、それを無視するような行動は冒険者組合(ユニオン)の一員としても感心できるものではなかった。


「まだ怒ってるのか? もう過ぎた事なんだから機嫌直せよ」

「直しません! それにこのクエスト、国が直接依頼しているクエストじゃないですか! しかも魔族との攻防戦だなんて、この手のクエストは例えランクが見合っていても経験を積んだ冒険者が受けるべきなんです! それをまだBランクになって間もないレイルさんに押し付けるなんて……」


 クエストを依頼してくるのは、基本は小さい村や町の者たち、あとは金持ちが個人的に依頼するもので、国が冒険者組合(ユニオン)にクエストを依頼するのは稀である。特に国防に関するクエストなど、殆んど依頼されない。

 それを説明するにはまず、このグランパル大陸の勢力図について説明しよう。

 この大陸には、覇権を争う五つの勢力が存在している。


 一つは、魔族の王である魔王が指揮している魔王軍。その勢力はグランパル大陸最大で人類廃滅を掲げて大陸各地に戦火を広げている。


 二つ目が、大陸最大の宗教であるエルナール神教の総本山、エルナール神教国。勢力は五大勢力で四番目とはいえ、大陸各地にエルナール神教の信徒が存在しており、信徒の頂点に立つ教皇が一声発すれば神の軍として信徒は勇敢な兵士となる。魔族は教えに反する存在として、また人間以外の種族も異端者として弾圧している。


 三つ目が、魔族を除いた人間以外の種族が集まった共和国と呼ばれている国である。長年人々に弾圧されたり差別されたりしてきたエルフ族や獣人族などの種族が集まり、互いに互いを守ろうと協力する国家だ。勢力は最も小さいが、その戦力は他の五大勢力にも匹敵する。


 四つ目が、武力による大陸平定を掲げている帝國だ。元は小国に過ぎなかったのだが、次々と隣国を侵略して五大勢力にまで上り詰めた大国である。勢力図は人類側で最大で、各地に侵略戦争を仕掛けている。


 そして五つ目が、帝國の侵略戦争を恐れた小国同士が同盟を組んだ事で生まれた連合国である。軍を一つに統括させて、帝國と魔王軍の侵攻に備えている。


 以上がグランパル大陸の世界情勢であり、冒険者組合(ユニオン)の本部も連合国内にある。

 というのも、共和国は人間を受け入れないし、魔王軍は言わずもがなである。エルナール神教国は信徒でもない者を異端者とする風潮があるし、帝國は自国の戦力だけで事足りるので冒険者を必要としない。連合国だけが唯一、自国の問題に兵を割けるだけの人員がいないので冒険者の活動を容認しているのだ。


 しかし国防に関する事となると、連合国も冒険者に助けを求めるのを渋る。

 元から国を守るための兵力はいるのだ。そこに冒険者へ助けを求めるのは、連合国に加盟している他の国から軽んじられたりするし、体裁を保つために助けを求めない国もある。


 それなのに今回、冒険者たちにクエストが発行されたのだ。しかも冒険者の中でも手練れだけを選んで。

 間違いなく危機的な状況であろう事は誰が見ても明らかであった。

 冒険者マネジメントであるセシリィとしては、レイルにはこのクエストを受けてほしくないというのが本音だ。


「大丈夫だってセシリィ。たしかに俺もちょっと強引だなと思うけど、俺はほら、強いから。例えドラゴンが相手だったとしても負けねぇよ」

「んぅ……レイルさんがそう言うのなら、私も納得します」

「よしよし、良い子だなセシリィは」

「子供扱いしないでください!」


 自信満々な笑みにセシリィはひとまず溜飲を下げると、レイルはセシリィの頭をよしよしと撫でてやった。

 子供扱いされるのが嫌なのか、それとも頭を撫でられて恥ずかしいのか、顔を真っ赤に染めてレイルに吠えた。

 セシリィも、お年頃な女の子なのである。


 そんな賑やかなやり取りをしながら馬車に揺れる事、およそ数時間。長い馬車の旅もようやく終わった。

 馬車の運転手から到着を告げられて二人は馬車から降りると、そこには圧巻の光景が広がっていた。


「うおおぉ……これがカーラン砦か。でっかいなぁおい」

「でも、ちょっと空気が汚れてますね」


 高くそそり立つ灰色の壁に、堅牢で頑強そうな鋼鉄の巨大な門。辺りは巨大な堀に覆われて吊り橋が上がっている。その中からはもくもくと煙が上がり、鉄を叩く音が聞こえてくる。

 端的に言うとそれは大きくてカッコ良くって、男の子の心を存分にくすぐるものであった。

 しかしレイルの反応とは真逆に、セシリィは空気の煙たさに服の袖で顔を覆う。

 女の子に男の子のロマンは分からないようだ。


 二人は門番にクエストを受けてやって来たと伝えると、門番たちの合図と共に重々しい音を立てて門は開いていき、吊り橋を下がってきた。

 ウキウキとした様子で砦の中へと入るレイルであったが、その全貌はレイルの期待を裏切らないものであった。


 石畳で舗装された地面の上に、ガチャガチャと建っている建物たちの群れ。見える殆んどが武器や防具を売っており、目新しい物で溢れ返っている。

 少し離れた広場では鎧に身を固めた騎士たちが鍛練に明け暮れており、遠くでは投石機やバリスタの準備がされていたりと、これから始まるであろう戦に心の躍るものがあった。



 ──《城塞国家カーラン》

 五大勢力が一つ、連合国に加盟している国家の一つにして、連合国の領土を魔王軍から守る砦である。

 左右は魔王軍でも踏破が困難な山脈に挟まれ、その隙間に建てられたこの要塞は連合国でも最重要拠点の一つである。

 この砦より後ろは平原が広がっており、この砦を突破されればたちまち連合国内に魔族の軍勢が押し寄せる事となる。

 だからこそここは、何としても守らねばならぬ要所なのだ。



「お、見てみろよセシリィ、面白い形の武器があるぞ」

「観光ならあとにしてくださいレイルさん。まずは冒険者組合(ユニオン)に行って到着したと報告しないと」

「はいはーい」


 なんだか観光気分のレイルを嗜めて、セシリィはレイルを冒険者組合(ユニオン)へと連れていく。

 当然の如く、冒険者組合(ユニオン)内には多くの冒険者が所狭しと己の準備を進めていた。

 全ての冒険者に向けて発行されたクエストだから、それでこれだけの人数が集まったのだろう。

 そこでレイルは、見知った人物から声をかけられた。


「レイル! よく来てくれたねぇ、感謝するよ!」

「セレノアさんか! あんたもこの国に来てたんだな」


 それはレイルが冒険者となる際に、実力をたしかめる激闘を繰り広げたセレノアであった。

 相変わらず葉巻から紫煙を燻らせれたセレノアは、まるで旧知の間柄のようにレイルを抱きしめる。


「あんたの実力なら当然だろうけど、昇格おめでとうと言っておくよ。けど悪いねレイル、こんなクエストを無理矢理受けさせて」

「なんだ? あんたもこの一件に関わっていたのか?」

「そうだよ。最近、魔王軍の動きが活発になってきてね。どうも今回のクエストは、ちょっと厄介な事になりそうだと冒険者組合(ユニオン)の上層部も判断したんだ。そこで、有力な冒険者を招集する際に、あたしも少し口添えしたのさ。今回の異例のBランク昇格も、このクエストを受けさせるための緊急措置といった面があったんだよ」


 セレノアの説明に、二人は合点がいった。

 特に冒険者組合(ユニオン)の一員であるセシリィは、レイルの急なBランク昇格には僅かながらの疑問があったのだ。

 本来であれば厳正な審査の下、冒険者組合(ユニオン)の上層部が集まって何日も審議を重ねた結果、昇格の是非が決まるのにレイルの場合はあまりに突貫すぎる。


 しかし仕組みが分かってしまえば、容易に納得できる。

 今回のクエストは最低でもBランク以上が必須であるために、多少強引ではあるがレイルはBランクに引き上げたのだろう。

 だからといって、あまり褒められた事ではない。


「考えは分かりますが、少し強引すぎる気がします。レイルさんのマネジメントをしている身としては、あまり感心できませんね」

「ん? あんたはレイルの冒険者マネジメントかい? 狐人族の冒険者マネジメントっていったら、あんたセシリィ・アーネルかい?」

「"紅蓮"の二つ名を持つセレノアさんに覚えてもらっているなんて光栄です」

「セシリィ、お前ってもしかして、有名人だったりする?」

「知らないでセシリィを雇ったのかい? 冒険者組合(ユニオン)内でも魔物の情報に精通していて、冒険者の実力に見合ったクエストを選ぶから評判は良かったんだよ。……実際は、評判以上だったんだけどね」


 何故か、セレノアは含みのある言い方をしてセシリィを見る。

 冒険者マネジメントとしてレイルの安全を預かるのなら、レイルに話すべきなんじゃないかい? と視線でセシリィに伝えているのだ。

 それに気付いたセシリィの耳はしゅんと垂れるが、けどずっと黙っているわけにはいかない。


「……あの、レイルさん、実は私、前に担当していた方を亡くしてしまっているんです。本当は初めにその事を伝えなければいけなかったのに、騙してすみませんでした」


 冒険者マネジメントとは、何よりも信頼が大切である。

 冒険者の実力とクエストの難易度を見誤ってはいけないし、もしそれで冒険者が死ねば冒険者マネジメントの責任である。

 本来であれば最初にレイルに伝えるべき事なのだが、それを伝えずにレイルと契約をしたのは半ば騙したようなものだ。


「そっか? 別に気にするような事でもないだろ。セシリィはよく俺の安全を考えてくれてる、俺はそれで十分だ」


 しかしレイルは、そんな事はどうでもいいとばかりに気にも留めなかった。

 実際、レイルは全く気にしてない。

 どんなに頑張っても人というのは間違いはするものだし、それで一々気にしては埒が明かない。

 それに例えセシリィが間違いを起こしたとしても、それよりも強ければ何も問題はない。そしてレイルは、どんな障害や問題を物ともしないだけの力を持っている。


「いい、んですか? 私、レイルさんを騙したのに、また間違いをしてしまうかもしれないんですよ?」

「まあ、間違うのは仕方ないよな。俺だって間違える事があるんだ。誰でも間違える事はあるんだ。そんな事で気にするなんて馬鹿馬鹿しいだろ」


 馬鹿馬鹿しい。レイルにとって、セシリィの悩みはそんな一言で片付けられるものであった。

 いつもと変わらない、気楽な笑顔を浮かべてレイルはセシリィの頭を撫でてやる。


「っ……だから、子供扱いしないでください!」


 なんだか悩んでいるのが馬鹿馬鹿しくて、セシリィはいつも通りレイルの手をはねのける。

 そこには先程まで悩んでいた姿はなく、いつも通りもふもふそうな狐耳をピンと立てていた。

 セシリィが吹っ切れたのを見て、レイルはしてやったりとした笑みを浮かべた。

 どうやら、問題はあっさり解決したようだ。


「話は終わったようだね。それじゃあ二人とも、ちょっとあたしに付き合わないかい? この国の観光がてら、クエストの細かい説明をするから。メシぐらいは奢ってあげるよ」

「そいつは嬉しいな。丁度腹が減ってたんだ」

「お言葉に甘えさせてもらいます」


 先輩(セレノア)からの嬉しいお誘いに、二人は顔を綻ばせて頷いた。人から奢ってもらうというのは、やはり嬉しいものなのだ。

 今まさに戦いが始まろうというのに、逆に頼もしく思える程に三人は呑気に城塞国家カーランを練り歩くのだった。




 *****




「うきゅぅ〜……」


 まるでネズミの潰れたような声をあげながら、セシリィはレイルの背中で酔い潰れていた。

 セレノアから奢ってもらったはいいが、いつの間にか飲み比べに発展してセシリィは見事に潰れてしまったのだ。


 ちなみに酒を飲むのに、厳密な年齢制限はない。

 あまり若くに酒を飲むのは駄目だという認識程度で、法で制限もされていない。

 それで三人は飲み比べしたというわけなのだが、結果は見ての通りだ。

 セシリィは完全に酔い潰れ、セレノアは多少頬を赤く染めているだけ。レイルに至っては酒が回っている様子すらなくけろっとしている。


「なんだいなんだい、だらしがないねぇセシリィは」

「んぅ、きゅぅ……気持ち、悪いですぅ……」

「こらこら、俺の首を絞めるな」


 可愛らしくてどこか色っぽい声をあげながら、セシリィは気持ち悪さを堪えるように体を強張らせる。そうなると当然レイルを強く抱き締める事になり、ぎゅっとレイルの首に力が込められる。

 別に苦しいというわけではないのだが、少し暑いのでセシリィに力を緩めるように言うレイルであったが。


「あ、レイルしゃんだぁ、えへへ、あったかぁい」

「ありゃりゃ、こりゃダメだな」

「あっはっは! よかったじゃないかレイル。セシリィのような美少女に抱き締められてさ」


 しかしセシリィには言葉が届いていないのか、レイルに背負われている事に気付くとより力を強くして抱き締め、レイルの肩にすりすりと頬を擦り付け甘える。

 今の状態のセシリィに何を言っても無駄だろうと悟ると、レイルはもう何も言わずセシリィを背負う。


 たしかにセシリィの容姿は美少女と呼ぶに相応しい容姿をしているし、酔っている今の状態はどこか幼さと色っぽさが混在しているが、今まで人と関わらずに過ごしてきたのでそういった感情には疎かった。

 セレノアはそれを見て面白そうに笑いながら三人は真夜中の街を歩いていると、巡回している鎧で身を固めた騎士たちとすれ違った。


「……英雄気取りの浮浪者風情が」

「ああ?」


 すれ違い様に騎士が漏らした、あからさまに侮蔑が込められた呟き。それをセレノアが聞き逃す筈もなく、立ち止まって騎士たちを睨み付けた。


「ちょいと待ちなよ騎士さんたち。なーんか聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたんだけど?」

「聞き捨てならない? 本当の事を言ってやったのに何の問題がある。 金に目の眩んだ卑しい浮浪者め」

「金に目の眩んだ? 馬鹿言うんじゃないよ。こっちは命張ってあんたら国外のゴタゴタで空けた穴を埋めてやってんだい。感謝の一言でも言ったらどうだい、家柄だけで吠えるお犬さん」


 騎士と冒険者との仲は、壊滅的に悪い事で知られている。

 騎士は実力と同時に家柄も重視されており、爵位を持つ者が大多数を占めている。

 しかし冒険者に必要なのは実力ただ一つで、現在は連合国内の問題も冒険者が請け負っているので民衆の支持も高い。

 それに比べて騎士の中には家柄をひけらかして民衆を下に見ているものもいるので、民衆はあまり騎士という存在を快く思っていない。


 しかも今は連合国も少しでも軍備を増強しようと有力な冒険者を騎士団にスカウトしているので、家柄も無い者が騎士団に入り面白く思わない騎士が多くいるのだ。

 それに加えて冒険者は叩き上げの実力者でありそれなりに高い地位にも就いて高待遇なので、より騎士たちは不満を持っているのだ。


 今回のように冒険者たちと一緒に戦闘するなど、現場の者からしたら不満タラタラだろう。

 本来であればセレノアも騎士の一言など気にも留めないのだが、今は少し酔っているので堪えが効かなかった。

 互いに引かぬ状況に、見えぬ火花が飛び散る。


「貴様、冒険者の分際で我等を犬と罵るか。ここで斬られても文句は言えないぞ」

「やれるものならやってみな。逆にそっちが黒焦げになっても知らないよ」


 剣呑な空気となり、一触即発の事態になった。

 セレノアは魔力を滾らせていつでも魔法を発動できるように準備をし、騎士の男もいつでも剣をぬけるように構える。

 一つ間違えば冒険者組合(ユニオン)と連合国との戦争に発展しかねない危機的な状況下に、ぺちぺちと足音を立てて新たな闖入者が現れた。


「……グエ、グエ、グ、グエエ」


 それは、子供くらいの大きさをした一羽の鳥であった。

 濡れているようなみすぼらしい羽に、顔に比べて異様に大きくて飛び出している眼球、そして聞く者を不快とさせる鳴き声は、とても不気味な生き物であった。


 突然現れた不気味な鳥に騎士やレイルは眉をひそめるが、セレノアだけは顔を青褪めてあきらかに警戒していた。


「あれはグラジバード(怨み鳥)!? 皆離れるんだよ! あいつはSランク指定の魔物だ! 手を出すんじゃないよ!」

「あんなみすぼらしい鳥がか? 冒険者は随分と軟弱なのだな。あの程度の魔物、一太刀で切り伏せてくれる」

「馬鹿手を出すんじゃ──」


 必死に止めるセレノアの声も聞かず、騎士は腰に差した剣を抜き放つと、真空の刃がグラジバードに襲いかかり紫色の血液を飛び散らした。

 片翼は落ちて体に刻まれた傷は深く、絶命は免れない致命傷だ。グラジバードは目を飛び出すのではないかというくらいに剥き出し、不気味な嗚咽を漏らしている。


「グ、エ、エグ……──グゲャアアアァアァァア!!」


 まるで、耳をつんざくような鳴き声であった。

 まるで大気を震わせるような不快な悲鳴に、皆は耳を抑える。

 やがて叫ぶだけ叫ぶと、グラジバードはぱたっと倒れて絶命した。

 その死体を見つめて、セレノアは青褪めら顔のまま呆れたような溜息を零した。


 ──グラジバード。またの名を怨み鳥。冒険者組合(ユニオン)が定めた危険度ランクは最高のSランクであり、冒険者の中では最も忌み嫌われている魔物の一種である。

 特に強い力を持つわけでもなく、Eランクの魔物にも劣るといわれるこの魔物だが、最も厄介な能力がその死に際に発する金切り声。

 その悲鳴は周囲の魔物を凶暴化させ、多くの魔物が大挙して押し寄せてくる。


 その能力が怨み鳥と言われる所以であり、過去には冒険者で最強とされるSランク冒険者も敗れ、いくつかの国も滅ぼされたとの記録も残っている。

 これが魔王軍による策略なのかは分からないが、セレノアは頭痛のする思いに悩まされた。


「……冒険者組合(ユニオン)から、Sランク冒険者の招集を要請するべきかね」


 漏らしたその言葉に、誰も答える者はいなかった。

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