二人だけの秘密とアミナの説明
部屋の時は完全に止まってしまうほど、アミナの発言は強烈だった。
頼人も優理もどう反応したらいいのか、分からないほど。
――なんで、アミナがそれを知っているんだ!?
アミナが今、言った発言は家族だけの秘密だった。
頼人と優理の違いは髪の明るさ、そして瞳の色のみ。しかし、その瞳の色も偶然というべきか、それぞれの親の特徴を受け継いでいる。つまり、家族写真を見られたところで本当の兄妹として見られる事の方が自然なのだ。
もし、血が繋がっていないことを知っている人がいたとしても、本当にごく少ないレベルでしか知らないはずだった。なぜなら、頼人の父親の職業が転勤の多いものであり、優理の母親と結婚した直後にすぐに転勤してしまい、初めての土地で家族として暮らす事になったからだ。
しかも、両親が亡くなった後、頼人と優理はこの家に再び引っ越している。
祖母も保護者として一緒に暮らしてはいるけれど、迷惑をかけてしまっているという負い目から、自然と遠慮する生活を送ってしまっていた。
だから、『家族』として遠慮なく言い合えるのは二人だけなのだ。
『家族』として過ごすためにも、そのことは誰にも言わない秘密として約束し、二人は過ごしてきた。
なのに、アミナがそのことを知っている。
故に驚きを隠しきれなかった。
「し……、信じるしかないってこ……と……?」
優理の漏らした呟きに、
「――みたいだな」
と頼人は返すことしかできなかった。
頼人と優理がお互いに、「誰かに話したか?」と聞かなかったのは、尋ねる必要がないほど信頼し合っているからだ。
「すいませんでした。二人だけの秘密を話してしまって……」
「う、ううん。仕方ないよ、優理たちがそう促しちゃったんだし……」
「ああ、その通りだ。誰かが知っていると思ってなかったから驚いてしまった。それだけの話だ」
テーブルから離れて土下座までし始めるアミナに、頼人と優理はそう言ってフォローすることしかできなかった。
その様子だけでアミナの気持ちが伝わったからである。
「この話はもういいよ。これからがようやく本題なんだろう?」
「今度こそはちゃんと……っ!」
「聞くから安心しろって。もう疑う余地なく、アミナの話を最後まで聞くから」
「はい!」
アミナも安心したようにため息を漏らす。
そんなアミナの様子を見て、
「ごめんね? なかなか信じることができなくて……」
優理が申し訳なさそうに頭を下げる。
頼人もその行動につられて頭を下げると、アミナは慌てた様子で、
「あのっ……気にしないでください! むしろ、それぐらい疑っていただけるとあたしとしてもちょっと嬉しいんです」
とフォローを入れてきた。
その言葉の真意を二人が尋ねる前に、アミナは説明を始める。
「これから現状を説明するにあたって、お二人には色んな意味で警戒してもらいたいのです。なぜなら、お二人はあたしの世界では『勇者様』と『お姫様』なのですから。あ、ちなみに異世界=パラレルワールドという認識してください。パラレルワールドっていうのは――」
「ま、待て待て!」
アミナは構わず話を進めようと口を開いていくけれど、いきなりの爆弾発言が投下されたことに頼人は頭が付いていけなかった。
優理も同じらしくポカーンとした表情で口を開いている。
「俺が勇者で、優理が姫って言うのか?」
「はい、そうなんです。驚きました?」
「驚くレベルって超えてるんだが……なんで、そんなことになってるんだ?」
「そう言われましても……。じゃあ、質問に質問で返すようで非常に悪いと思いますが、なんでお二人は普通の人間なんですか?」
「え……?」
アミナにそう質問されて、頼人は答えに困ってしまう。
生まれた時からそう決まっていた。
アミナの質問に対する答えはそうとしか答えられない。それ以外の回答が一切なかったからだ。
つまりアミナに質問した答えを、アミナにされた質問の答えそのままである、と頼人自らが回答を出してしまった。
「すまん。ちょっと混乱してた」
「いえ、お構いなくです。というより、あたしもちょっと興奮してたのかもしれません。順番に説明いたします。それでよろしいですか?」
「あ、あの……敬語じゃなくていいよ? 優理たちは普通の人間だから」
優理の言葉に、アミナは即座に首を横に振る。
「そこも後で説明させていただきます。ひとまずとしましては――あたしたちの世界は、この世界で言うファンタジーというものになります。魔法とかそういうものがバンバン飛び交う世界です。そして、よくある展開よろしく魔界の住人が攻めてきたんです。撃退自体は勇者様のおかげで成功してましたが……」
「ありきたりな話だな、それ」
「それは運命みたいなものです。どこの世界も大して変わりません。それで魔界の住人は勇者様たちが邪魔になりますよね? そこでどうするか? と考えた結果――この世界の二人を殺すことに決めたらしいのです」
「話が飛躍しすぎじゃね? 流れが全く見えないんだけど?」
アミナの話が突然分からなくなった頼人は突っ込みを入れた。
優理も「うんうん」と頼人の突っ込みに同意するように、首を縦に振っている。それ以上に命を狙われていることに対して恐怖が芽生えたのか、優理は頼人のジャージの端を摘んでいた。
「もしかして、さっき言ってた『異世界=パラレルワールド』が関係してるの?」
「さすがです、優理さん。その通りなんです。パラレルワールドってどんなのかご存知ですか?」
「それってあれだよね、お兄ちゃん」
「平行世界。つまり、あるタイミングで分岐が生まれた結果、それに平行して存在する別の世界」
頼人は優理に振られて、そう答える。
中二病発症時期にそういうことを調べたことがあり、今頃役に立つと思っていなかったため、少しだけ複雑な気分になってしまう。
アミナは頼人の答えに満足そうに頷く。
「パラレルワールドって言っても、そっちに住んでいる人はこの時間帯に住む人と変わらないんですよね。あっちの世界でAという人が死ねば、こっちの世界のAという人も同じタイミングで死んでしまうんです。ここまで言えば分かると思いますけど……」
これ以上はさすがに口にしたくないのか、アミナは頼人と優理に理解を促した。
二人とも最後まで言われなくても、アミナの伝えたい事が分かったため、困ったような表情を浮かべる。
優理に至ってはさすがに震えてしまっていた。
――当たり前だな。俺も想像するだけで怖いし……。
優理の様子に気付いた頼人は優理を抱きしめる。こうやって恐怖を共有し、半減までとはいかなくても軽減させてあげることが、今の頼人に出来ることだった。