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それぞれの秘密

 優理の帰りを待つ間、二人は結局喋ることはなく、気まずい雰囲気がずっと流れ続けた。

 頼人は苛立ちから無視を続け、その様子をアミナがチラチラと見つめる状態。

 時々、アミナが話しかけようと口を開くが、言葉が思いつかなかったらしく、すぐに口を閉ざしてしまう。

 その空気を破るかのごとく、優理が急いで部屋に戻ってきたのは説明するまでもない。優理にはこういう状態になるのが目に見えていたからだ。


「ごめんね、アミナちゃん。これしかなかったよ」


 トレイに乗せてきたコップの一つをアミナの前に置く。中身は誕生パーティで残ったオレンジジュースだった。


「あの、気にしないでください」

「お客様だから、アミナちゃんこと遠慮しないでね? まぁ、時間も遅くなっても親が心配するだろうし……って、アミナちゃんって小学生だよね? 親の人には――」


 優理は残りのコップを頼人の前に置き、残り一つを自分の前に置きながら、アミナの容姿から思い出したように質問した。

 アミナは首を横に振ると、


「あたしにそういう年齢という概念は関係ないです。というか、身長や見た目とかは魔法によって調整できますから」


 頼人と優理が驚くような発言をあっさりと呟く。

 二人の反応を見て、自分が言ってしまった発言に対し、「しまった」という表情を浮かべ、アミナは慌てて言い直す。


「あ、あの……一応、その頼人さんの同級生という形にして入れてもらいました……。これぐらい身長が低い人もいますよ……ね?」

「あ……うん。いるよね、お兄ちゃん?」

「いるのはいるけどさ。……まぁ、入れてもらったってのは間違いない事実だから、否定しようがないか」


 優理に振られて、頼人は疲れたように頭を掻く。

 正直な話、苛立ちは消え去っていた。

 頼人は怒りがそこまで長続きするタイプではなく、どちらかというと一気に噴火し、一瞬で燃え尽きるタイプだからだ。だからこそ、すでに冷静になれていた。


「そんなことよりも、なんで俺たちのことを知ってるんだ?」


 優理も知り合いではない相手が、どうやって自分たちの名前を手に入れたのか、それが頼人にとって一番の質問だった。

 優理も頷いて、アミナを見つめる。

 しかし、アミナは少しだけ戸惑った表情を見せていた。説明しても信じてくれない、と目で物語っている状態。


 ――魔法がどうとか言ってたから、それで信じてもらえないって思ってるのか?


 その顔を見て、頼人はそう考えた。

 優理の顔を見てみると、同じ考えに至っているらしく、「任せて」というようにウインクを頼人に向ける。


「じゃあさ、優理たちのこと、どこまで知ってるの? それを教えてくれたら、アミナちゃんの話を聞いて、無条件で信用する」

「あー、それなら納得だな。名前なら簡単に手に入れることができる。もし、それ以上のことを知らないなら、俺たちはアミナちゃんの話を聞かない。それでいいだろ?」

「あの……それでいいんですか?」


 頼人と優理の発言に様子を伺いながら、アミナは二人に尋ねた。

 『全部、知ってるんですよ?』と少しだけ恐ろしい雰囲気を出している。

 しかし、頼人と優理は自分から言い出した手前、引く事は出来ず、


「いいよ。知ってるならな」

「うん、覚悟はできてる」


 と強がることしかできなかった。

 アミナは少しだけ悩んだ様子を見せた後、ゆっくりと口を開く。


「まずはご両親を十年前に失くしていることですかね?」

「それは知ってる人が多いから駄目だよ」

「じゃあ、頼人さんは優理さんから貰ったネックレスを付けて、学校に通ってることはどうですか?」

「あ、そうなんだ♪」

「なんで知ってんだよ!」


 喜ぶ優理とは反対に頼人は驚いてしまう。

 アミナの言う通り、肌身離さず、学校にも付けて行っているからだ。もちろん、堂々と見せびらかしているわけではなく、カッターシャツの下に着ているTシャツの下に入れて、厳重に隠している。

 さすがに何人かにはバレているが、親の形見ということで同情をもらい、他言無用にしてもらっているほど。


「――それはなしだ。知ってる友人がいるからな」

「お兄ちゃん、そういうことはちゃんと言ってよー。優理も明日から付けて行こっと♪」

「そういう話じゃないからな、優理」

「分かってるよー♪」

「嘘付くな。この話は終わり、次は?」


 頼人がアミナに話を振ると、アミナは少しだけ天井を見上げて悩み始める。そして、ちょっと迷った様子で優理を見つめた。

 その様子に気付いた優理は、


「ちゃんと言ってくれないと分からないでしょ? ある程度のプライバシーに踏み込まれることは覚悟してるから、ちゃんと言って?」


 先ほどの余韻のせいか、笑顔のまま答える。


「じゃあ、遠慮なく言わせてもらいます。優理さんって問題の解き方が分からないフリして、頼人さんにワザと教えてもらってる時ありますよね?」

「ひうっ!」


 優理は笑顔から引きつった顔へと変わる。

 そして、空笑い。


「優理、後でゆっくりと二人で話し合おうか?」

「話し合いはなしという方向はない……かな?」

「こういう優しさって必要だよな?」

「うぅー、最悪な誕生日だよー」


 優理は少しだけ半泣きになりながら項垂れる。

 頼人自身、誕生日に優理を叱らないといけなくなると思わず、少しだけ憂鬱な気分になってしまった。


「それよりもこのことを知ってるのは?」

「友達何人かは知ってるかも? ほら、優理ってブラコンでしょ?」

「それはどうでもいいから。じゃあ、次の質問だな。これで最後にしよう。異世界の話云々を信じるしかなくなるようなことを言ってくれ」


 頼人と優理は、今までの話を聞いて、ある程度までは信用する事ができていた。今までの情報を他人から入手するには、かなりの労力が必要になる。その労力の大変さを引き換えに得た信用であり、異世界の話を信用するまでには達していない。なぜなら、初めて会った時にアミナから言われた話は、『命』そのものが関わる話だったからだ。


「あの……本当にいいんですか?」

「ああ。これ以上のことを知ってると思えないからな」

「魔法とか出てきたしね。お兄ちゃんはともかくとして、優理はそういうのがないと思ってるから」


 と優理が横から口を挟んできた。

 頼人はちょっとだけ優理を睨みつけると、その視線に気付いた優理は慌てて口を押さえて、「失言でした」と態度で示す。

 その様子にアミナは申し訳なさそうに笑った後、真面目な顔つきになる。


「分かりました。じゃあ、遠慮なく言わさせてもらいます。本当は言いたくなかったんですが……」

「いいから言えって。俺たちがそう言ってるんだから遠慮なんてするな」

「はい。では――」


 アミナはゆっくり息を吐いた後、


「頼人さんと優理さんは、本当の兄妹じゃないですよね? 血の繋がってない兄妹。頼人さんのお父さんと優理さんのお母さんが再婚して出来た兄妹です」


 と迷うことなくはっきりと言い切った。

 

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