プレゼントと来訪者
誕生パーティが終わり、片付けなどすることが全部終わった頼人と優理は、頼人の部屋で勉強をしていた。
基本的に二人が一緒に勉強する事はあまりない。
しかし、今日は優理から誘ってきたため、それに頼人が応えて、一緒に勉強する事になった。
大き目の折りたたみのテーブルを出し、二人は向かい合うようにして宿題をこなしているのだが、優理はあまり集中力が持たないらしく、首元にかけられたハートが付いたネックレスを弄んでいる。
その様子を見ていた頼人は、
「いつまでそれを触るつもりだよ」
呆れた様子で注意すると、
「だって、お兄ちゃんがプレゼントしてくれたんだよ? 嬉しすぎて♪」
全く反省の色なしの笑顔と共に返事が返ってきた。
このネックレスは、頼人が今回プレゼントした誕生日プレゼントである。
ちなみに頼人が貰った物は、携帯につけるストラップだった。
値段が安かったにも関わらず、ここまで喜んでもらえるのは頼人からしても嬉しい。のだが、いつまでもこのままでは良くないと思い、少しだけ強めに注意する。
「そんなこと言ってると宿題手伝ってやらないぞ? 俺は教えなくても困らないしな」
「ちょっ、それは卑怯だよ!?」
「どうする?」
「分かったよ! ちゃんと集中するから、そんなこと言わないで!」
「それでいい」
「……さっそくだけど、ここの解き方教えて? ここが分からなくて止まってたんだ……」
「はいはい」
優理はシュンとした様子で、今解いている数学の問題書を頼人へ差し出す。
頼人はそれを受け取ると、簡単にその問題を見て、問題書を返した。そして、身体を乗り出すようにして、この問題で使う公式とコツを教え始める。
頼人は数学が得意科目なのに対し、優理は数学が苦手な科目だった。だから、こうして頼人はよく教えている。教えていると頼人も復習になるので大変ではないのだが、いつまでも頼られっぱなしでいいのだろうか、と不安になってしまう。
「ありがとう! こうやったらよかったんだ!」
「どいたま。つかさ、そんなんで大丈夫なのか? 俺の通ってる高校に行きたいって言ってるけどさ」
「あと一年あるから大丈夫だよ。それにさ、優理がそんなに馬鹿じゃないの、分かってるでしょ?」
「馬鹿とか、そうじゃないとか、関係ないからな? そろそろ、自分で解く方法を見つけないといけないぞ? そういうわけで、一緒に勉強はしても教えないようにするからな?」
「えー! お兄ちゃんの意地悪!」
「妹を想う兄心だ」
「むー!」
頬を膨らませる優理。
しかし、頼人は優理の反応に対し、反応しないように心がける。こればかりはしっかりとしないといけないと思ったからだ。
――一緒に勉強することを禁止にしてない時点で甘いのは変わらないか。
しっかりとしないといけないと思ってはいても、そこまで厳しく出来ないのが頼人の甘さでもあった。
そんな頼人の気持ちを知ってから知らずか、
「そういえばさ、お兄ちゃんは優理があげたネックレス、付けてるの?」
と無理矢理話題を変えてきた。
頼人は付けている事を教えるために、服の中から剣のモチーフが付いたネックレスを取り出す。
それを見た優理は満足そうな笑みを頼人へと向ける。
「良かった! ちゃんと付けてくれてるんだ!」
「優理に貰ったプレゼントだからな」
「いつあげたんだっけ?」
「今の優理と同じ年齢の時。だから、俺もネックレスにしたんだよ」
その発言に優理はちょっとだけ驚いた表情を浮かべた後、頬を緩めて、ニヤけ始める。頼人がその上げた日のことを覚えておいてくれた事、そして同じ年齢の今、同じ事をしてくれたことが嬉しくて、我慢できなかったのだ。
優理にとって、もう勉強どころではなくなっていた。
「ニヤけすぎだろ。落ち着けって」
「しょうがないじゃん! だって、本当に嬉しいんだもん!」
優理はそのまま顔をニヤけさせていると、家のチャイムが鳴り響く。
二人ともその音に反応して、来客へと意識を自然と集中させてしまう。
が、頼人はすぐに勉強へと戻る。
「珍しいね。こんな時間帯に……」
「ああ。つっても、まだ九時半前だからおかしくはないけどさ」
「誰だろ?」
「町内の組合とか何かだろ。うしっ、宿題終了!」
頼人はそう言って終わった宿題をテーブルから片付け始める。
「え! はやっ!」
「最初から少なかったんだよ。ほら、あと少しだろ? 頑張れ」
羨ましそうに見てくる優理の視線を無視して自分の机に教材を運んだ後、頼人はベッドに横たわる。そして、横を向いて優理の姿を見守ることにした。
しかし、それもすぐに阻まれる。
頼人と優理の耳に二階に上ってくる時の独特の廊下の軋む音が入ってきたからだ。二人は自ずとドアを見ることになった。
案の定、ノック音と珠子の声。
「頼人、お客さんが来たから連れてきたわよ?」
「客? 分かった」
優理が「誰?」っていう顔で頼人を見てきたが、頼人もそんな約束をした人物はいないため、首を傾げて知らないことを示す。
ドアを開けると、まずは珠子、その後ろに頼人のよく知った人物の顔があった。
忘れるはずがない。
忘れる事が出来ない相手だった。
なぜなら、今日出会った人物――アミナなのだから。
「こんばんは、頼人さん! ちょっとお話があってきました!」
アミナは頼人の反応を無視し、珠子に招かれるように部屋の中に入る。
その行動を頼人は阻止する事が出来ず、自然と招き入れる形になった。
「じゃあ、飲み物持って来るわね。ゆっくりして言ってね」
「おかまいなくー」
珠子はそれだけ言って、部屋のドアを閉めて、一階へと向かい歩き出す。
優理はその様子を見て、気を利かせようとしたらしく、
「じゃあ、優理は自分の――」
と教材をまとめようとしていると、
「あ、気にしないでください。優理さんにも話したいことがありますから?」
アミナは優理の服の袖を掴んで、引き止められる。
優理も知らない相手の言葉に少しだけ戸惑いを隠し切れないのか、目を泳がせながら、アミナにされるがまま、再びその場に座らされた。
「どういうつもりなんだ、アミナちゃん? どうして、この家を知ってるんだ? いや、それ以上に話すことって何だよ!」
「本当は迷惑ってことは分かってるんです! だけど、本当に大切なことなんですよ! っていうか、二人の今後を左右することだから!」
「異世界がどうとか、命がどうとか、って話を聞けってことなんだろ? 嘘もほどほどに――」
「お兄ちゃん!」
押しかけてまで厨二全開の話を聞かせようとするアミナに、苛立ちを隠しきれなかった頼人が文句を言っている中、優理が頼人を呼んで止めた。
頼人とアミナは自然と優理を見ることになる。
「アミナちゃん、でいいんだよね?」
「はい」
「とりあえず、話を聞いてあげるね? 何か理由があるみたいだし、これも優しさでしょ?」
「あ……ありがとうございます!」
「優しさに理由なんていらない。そういうことだよ! あ、お婆ちゃんが邪魔しに来ないように飲み物を優理が取ってくるね? その間、ケンカしないでよ、お兄ちゃん」
優理は頼人にそう忠告すると、返事も聞かずに部屋から出て行く。
部屋に残された二人は気まずい空気の中、静かに優理の帰りを待つことになった。