vsサキュバス(6)
沙希はそんなサキュバスの様子など全く気にしていない様子で、地面に突き刺さった十束剣に近寄る。そして、剣を躊躇うことなく抜き取り、
「これでいいですか?」
頼人へ向かい、剣を見せた。
「ありがとう。っと、こっちも痛みがなくなったな。サンキュ、アミナ」
ゆっくりと立ち上がり、アミナに感謝の言葉を述べると、アミナは「いえいえ」と軽い返事が返ってくる。
頼人は次に沙希へ近づく。
「はい、どうぞ」
そして、持っている十束剣を沙希が差し出してきたので頼人はそれを受け取る。
「じゃ、もう終わらせるか」
「はい、任せてください! 頼人さんのご要望通り、その翼破壊して。左翼は捻じれちぎれなさい! 右翼は自分の腕でちぎって!」
頼人は沙希の発言に驚いてしまう。
翼の破壊そのものは頼人の願いではあったが、まさか沙希がここまで酷い破壊方法を言い出すとは思ってもいなかったからだ。
遠慮のない命令にサキュバスの身体は素直に従い、左翼は根元からグルグルと捻じれ始める。そして限界以上捻じった結果、鈍い音を立てて地面へと落ちる。右翼も命令の通り、ちぎりやすいように腕の近くまで持ってくると両腕で掴む。
こちらは左翼以上にブチブチという音を立てながら、サキュバスは自らの右翼を引きちぎる。
そして、二つの翼は落ちた場所で魚のようにピチピチと何回か跳ねた後、動かなくなる。
口の方も大きな口を開けていることから悲鳴を上げているのだろうが、沙希の命令により声すらも出させてもらえないため、何も聞こえない。
悲鳴が終わった後も口をパクパクと開閉していることから、何かの呪いの言葉を言っているらしい。それは表情――目から真っ赤な血を流しながら、憎悪が含まれた視線から頼人は察することが出来た。
「え、えげつない方法……取られましたね……」
アミナもここまで酷い状況になると思っていなかったらしく、少しだけ引いた言葉で漏らした。
「ちょっとはすっきりしたかな。本当はもうちょっとボロボロにしてやりたかったんですけど、あいつの姿を見るのも嫌になってきたので、お兄さんそろそろお願いします!」
沙希はアミナとは正反対につまらなさそうな声で漏らす。
――女の子の恋心を弄ぶってのは、こんなに大変な状況になるのか……。
意図的にはからかうのは止めよう。
頼人はそう心に誓いながら、ゆっくりとサキュバスの元へと近付く。
さっきまでとは違う余裕のない視線が突き刺さり、機会があれば手元に残っている手で頼人の身体を貫こうとする意志さえも感じてしまう程の殺意が頼人へ襲いかかる。
そのことに気付いた沙希は容赦なく、
「その両手、自分から捻じ切れろ」
命令した。
サキュバスの腕はその命令に再び従い、捻じれ始める。
筋肉と骨が捻じられる際に発される音に、頼人は思わず目を逸らしてしまう。聞きたくない音を無理矢理聞かされたため、吐き気さえ催しそうになった。しかし、頼人には沙希を叱る気にはなれない――いや、叱れなかった。この行動の意味、『頼人を護るため』という気持ちがあったことを知っているから。
視線を戻した先には、両腕から血を流し、地面に落ちた両腕をその血で濡らしているサキュバスの姿。
少しだけ躊躇ってしまったが、なるべくその姿を気にしないようにして剣の間合いまで近寄ると、頼人は同情の言葉をかけた。
悲惨な姿に対し、言葉をかけたくなってしまったから。
「全部、お前が招いたことだから、怨むなら自分のしたことを怨むんだな。俺がこれで楽にしてやるから」
「―――――」
文句を言っていることは間違いない。
しかし、頼人は迷うことなく剣を振り上げ、口を開いている最中にも関わらず、振り下ろす。
頭から両断されたサキュバスは、しばらくの間左右の口をパクパクしていたがすぐに砂となって霧散。
そのことを確認した頼人は十束剣の刃を消失させ、後ろを振り向きながら、三人に向かって力のない笑みを浮かべ、戦闘が無事に終了したことを伝えた。




