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vsサキュバス(3)

 サキュバスの一撃が迫ってくる中、頼人の視界に透明なドームのようなものが張られる様子が太陽の光によって映し出される。それを認識し、その結界を張った人物を確認しようと振り向く前に、勢いづいたサキュバスの一撃がそのドームに接触。軽い金属音に近い音が周囲に響き渡り、結界が破壊される。


「大丈夫でしたか、頼人さん!」

「いやー、危なかったね。あと少しで心臓が抉られるところだったよ」


 二人がいる入口方向へ顔を向けると、そこには来たことを示すように手を振りながら、頼人に近づくユリとアミナの姿。


「サンキュー、助かった! っていうか、姫、一言多すぎ」


 わざわざ言われなくても分かっていたユリの一言に、頼人は少しだけげっそりしながらお礼を述べた。こうやって助かったものの、さっきの攻撃が本当に危ないと実感させられてしまい、身体が竦んでしまいそうになってしまったからだ。しかし、そんなことを言っていられない状況であることは、何も変わっていない。

 それどころか、ユリが来た所で守らないと人間が増えてしまったことにより、状況は悪化してしまった可能性だってあった。


「間に合ったみたいね、姫様」


 再び上空に上がるサキュバスはほんの少しだけつまらなさそうに唇を尖らせる。姫が近くまで来ていたことに気付いており、頼人へのトドメを少しだけ急いだかのような言い草。

 そのことに関して頼人は少しだけ何かの違和感があったが、その違和感に対する答えが見つからないため、気のせいだと流し、改めて向き直りながら剣を構える。


「姫、悪いんだけど、魔法であいつの翼を破壊できるか?」

「破壊? できないこともない……けど……」

「ん、どうした? できるなら、早くしてほしいんだけどさ。空中に飛べる手段なんて持ってないし、何より地上の方が勝てる確率上がるし……」

「あー……じゃあ、動き止めるから、あなたが破壊してくれる?」


 家にいる時とは違い、歯切れの悪いユリの言い方に頼人は首を傾げてしまう。「何かあったのか?」と振り返りたい気持ちはあったが、サキュバスからなるべく目を離したくない頼人からすれば、それは無理な話。

「破壊できるなら、それでいいさ」


 何があったのか分からない頼人にとって、その提案に乗ることが唯一できることだった。


「アミナ、手伝ってね。悪いんだけど」

「はい、位置の把握は任せてください!」

「じゃあ、やるぞ!」


 頼人は剣の刃を改めて鞭へと切り替える。

 ぶつぶつと唱え始めるユリとアミナ。

 その様子を見守っていたサキュバスが笑いを堪えきれなくなったかのように、急にお腹を押さえながら笑い始めた。クスクスなどではなく、大笑。

 笑い始める理由が分からない頼人にはそれに対し、苛立ちが一気に溢れ出した。


「何、笑ってんだよ!!」

「ご、ごめ……ごめんね! ぷっ、だ、だってさ……、そんなに、ひ……ひひ……必死に隠そうとして……くくっ……るんだよ? わ、笑いを……我慢……できないよ! あはははははははははははは!」

「隠す? 何のことを言ってるんだ? アミナ、何か隠してるのか?」


 アミナはその問いに対し、呪文を唱えることを止めてしまうほど動揺した雰囲気で反応した。

 そのアミナの反応を叱るかのごとく、ユリは舌打ちを漏らす。


 ――やっぱり、何かあるのか……。


 さっき流したはずの違和感が再び蘇ってくる頼人。

 そのことを尋ねようと口を開け、言葉を発しようとした前に、


「余計なことに気を使わないで、サキュバスの翼を破壊することに集中しなさい! いちいち敵の言葉に耳を傾けてたら、また惑わされるだけよ! アミナもいちいち反応しない!」


 ユリがわざわざ声に出して、頼人とアミナを叱りつける。

 さっきまでの弱々しい発言とは違い、サキュバスが発言した『隠し事をしている』、そのことを裏付けてしまうような迫力のある喝だった。


「す、すいません。もう少しだけお待ちください!」


 アミナは不安そうな、叱られてしょんぼりしたような声で慌てて答えるが、


「姫こそ、何ムキになってんだよ! 嘘なら無視すればいいだけだろ!」


 頼人はユリへの不満を口に出した。

 そのことが癇に障ったらしく、ユリはアミナの呪文が終わる前にサキュバスへと開いた手を向ける。

 家と同じようにサキュバスの背後に魔法陣が展開され、背後から光る紐のような物がサキュバスへの身体へと巻き付き始める。


 ――避けないのか?


 攻撃を今まで受け続けていた頼人にとって、あれぐらいの魔法陣ならば避けることぐらい簡単なことは分かりきっていた。それぐらいのスピードを出せるのに、動かないということは何か裏があると踏み、行動に出ないでいると、


「早く行きなさいよ! チャンスなんだから!」


 と、ユリが再び文句を漏らし始めたため、ユリへと向き直り、


「あんなのどう考えたって罠って分かるだろ! 何をそんなに焦ってるんだよ! アミナだってそう思うだろ?」


 頼人がアミナへ尋ねると浮かない様子で「はい」と小さく答える。

 アミナの様子が気に食わないとでも言いたそうにユリはアミナを睨み付けた。そんなアミナは首を横に振ってどうしようもないことを伝えると、頼人へ視線を向けて、


「頼人さん、話が――」


 そう言いかけたところで、


「ちょっと待ってよ。それは私が話してあげるからさ♪」


 身体に巻き付いていた紐を無理矢理引きちぎりながら、アミナの言葉を遮った後、嘲笑しているサキュバス。

 頼人はサキュバスの方へ向き直りながら、心の中に現れた不安感が一層強くなってしまう。

 悪い予感しかしなかったからだ。


「アミナはともかくとして、お前が姫の何を知ってるって言うんだ?」

「知ってるも何も、あんただって何かあるって気付いてるんでしょ?」

「……まぁな。お前のその馬鹿にした笑いと姫とアミナの様子を見てたら、嫌でも気付くさ」

「っ! それ以上は言うな! わ、私が言うから何も言うな!」


 サキュバスにそのことを伝えられることが恥だと言わんばかりの雰囲気で言い放つユリ。悔しそうに握り拳を作っていた。


「ひ、姫様……」


 アミナも同じように握り拳を作り、唇を噛み締める。


「ふーん。姫様から言うのも面白いかも……。じゃあ、言ってもらおうかな。『もう魔法を使う体力がない』ってことを……あ、ごめーん、言っちゃった……」


 サキュバスは悪気もなさそうな笑顔で舌を出して、軽い口調で謝罪をした。


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