アミナ救出 【優理視点】
その頃――。
目を閉じて意識を集中させていたユリはゆっくり目を開けると、箪笥の上に飾ってある両親の写真立ての裏を外し始める。
優理にはその行動の意味が分からず、慌てて止めようと声を荒げた。
『ちょっ、何をしてるんですか! 止めてください! 優理がお兄ちゃんに怒られるじゃないですか!?』
「まぁまぁ、ここにちょっとした物が隠してあるんだよ」
『そんなはずないですよ!』
「でも、あのサキュバスの顔、見たらわかるでしょ?」
ユリは優理の顔だけをサキュバスの方へ向ける。
明らかに気まずそうに顔を逸らしているサキュバスの姿。言葉に出さなくても分かってしまうような態度だった。
その様子が気に入らなかったのか、ユリは再び手を向けて握りしめると、サキュバスがさっきと同じように悲鳴を上げる。
「何とか言いなさいよ。ここにアミナを隠してるんでしょ?」
『え、そうなの!?』
まさか、こんな所にアミナが隠されているとは思っていなかったため、びっくりしてしまう優理。
サキュバスの方は痛みに耐えながら、必死にユリへ反論。
「っ……、分かってるくせに……」
「見つけられて自白しても遅いでしょうがっ!」
『お、落ち着きましょうよ! それよりも早くアミナちゃんを出してあげないと!』
優理の一言に、ユリは頷き、
「そうだね。このまま封印されてるのも可哀想だし」
と、再び分解し始める。
写真の裏側に入っていた一枚のカードを指先で掴むようにして、上へと向けた。すると、それを待っていた、とでもいうようにボンッと音を立てて、アミナがカードから飛び出してくる。
そして、ちょっとだけ涙ぐんだ様子で優理の胸に顔を埋めるような形で抱きつく。
「姫―! ありがとうございますー! どうしようもなくて、大変だったんですよー!」
「あー、もう……少しは落ち着きなさい」
「だって! あたしが封印されてしまったせいで姫と勇者様の命令が……下手したら、今回の件で二人は死んでたのかもしれないんですよー!」
「そのことを考えて、ユリがここにいるんでしょ? 少しは泣き止みなさい!」
アミナはそう注意され、グズグズとしながらも涙で濡れた顔を腕で拭く。
こんな風にアミナが泣く姿を始めてみた優理はちょっとだけ意外に思ってしまった。
今までのアミナは結構口がうるさいタイプで、いくら姫がご主人である使い魔だとしても、バシバシと注意をしていくと思っていたからだ。もちろん、今回のことも助けるためとはいえ、姫自らがこんな危ない場所に来ているのだから、封印から脱出したら、すぐに文句を言うと優理は思っていたぐらいだった。
「って、なんであたしにまで黙って、こんなことをしてるんですか! 勇者様にはともかく、あたしにはちゃんと教えてくださいよ!」
前言撤回。
やはりアミナはアミナだと改めて思う優理。
ユリの方もアミナのその質問が飛んでくることは分かりきっていたらしく、両耳を手で隠すようにして、話を聞く気がないことを示す。
その態度が気に入らないらしく、アミナの攻めはまだ続く。
「そうやって都合が悪くなったら、人の話を聞かないようにするのは悪い癖ですよ! だいたい、今回の件で勇者様に怒られても知りませんからね! おやつ抜きとかありえますよ!」
『お、おやつ抜きって……』
意外とレベルの低いお仕置きに優理は空笑いをしてしまう。もうちょっとしっかり怒られると思っていたにも関わらず、意外にもレベルの低いお仕置きだったからだ。
アミナのその言い方に対し、さすがのユリも聞き流すことができなかったのか、噛み付き始める。
「あー、そんなこと言うんだ? せっかく今回のピンチを助けてあげたのに! さっきまでボロボロ泣いてたくせに!」
「それはそれ! これはこれです!」
「だから、論点のすり替えしないでよ! 助けてあげたってことは褒められることはあっても、怒られる筋合いはないでしょ! っていうかさ! こっちの世界の勇者様もユリのおかげで助かったようなものなんだよ? おやつの増量はあったとしても、おやつ抜きなんて絶対にありえない! そんなこと絶対に認めないもん!」
「でも、勝手に魔法を仕込んでたのは事実なんですよ!? もし、姫様の身に何かあったら、誰が一番悲しむと思ってるんですか!」
「それ言ったら、こっちの世界に来ても来なくても一緒でしょ!? だったら、ユリは戦いの中で死にたいの!」
「戦士でも魔法使いでもないんですから、そういう戦いの中に身を投じなくていいんです! 今回は仕方ないですけど、この戦いが終わったら、この能力は封印させてもらいますからね!」
「いいもーんだ! こっちの世界のユリに頼んで、キーワード言ってもらえばいいし! ね、こっちの世界のユリ!」
『えー……』
いきなり話を触れて、優理は困ってしまう。
ユリの言い分も分かり、アミナの言い分もどちらも優理には理解できていた。その中で、気持ち的に考えてもどうしてもユリの側へと寄ってしまっている。
優理の場合は、ユリのように戦いの中で死にたいというわけではなく、何もできない自分が嫌なのだ。だからこそ、戦える手段があるのならば、それにすがり、頼人の手助けになりたい。守られてばかりでは嫌だ。その気持ちは隠してはいるけれど、今も変わっていない。
きっと、それはユリも同じなのだと思った優理は、
『ここはアミナちゃんの言い分に乗るだけ乗っときます。もし、本当に必要になった時に優理の判断で呼べるように封印だけは避けてください。じゃないと、今回みたいに危なくなった時に呼べなかったら大変ですから』
そう言って、ユリの機嫌を取っておくことした。
ユリも最初は不満そうな顔を浮かべつつも、最後は不満ながらも納得したような顔を浮かべてアミナを誤魔化す。
「優理さんに説得されたみたいですね。良かったー。本当に気を付けてくださいよ?」
アミナは少しだけ安心したように小さく息を吐く。
そんなアミナを騙してしまっている優理は、心の中で「ごめんね」と謝っておいた。
「はいはい、分かった分かった。今回はこのサキュバスの最期を見るまでは残っててもいいよね? アミナの言うこと聞くんだし」
「ですよねー。そう言うと思ってましたよ。姫なら自分の身ぐらいは守れると思うので、問題はないと思いますけど、油断とかしないでくださいよ?」
「それ、サキュバスにも言われたんだけど……。そんなに油断してるように見えるかなー」
サキュバスを指差しながら悩み始めるユリ。
その余裕を持った態度をしているから勘違いされるんだ。優理はそう思ったが、あえて黙っておくことにした。
そうなったらそうなったで、また荒れそうな気がしたからである。




