姫の考え 【優理視点】
「あんたみたいに他人の身体を乗っ取る場合は意識を沈めないといけないんだろうけど、こっちの世界のユリとユリは似てる確信があったからできた、ってことが答えかな。確信って言っても、あんたらがこっちの世界のユリを狙う理由が原因を逆手に取った手段ではあったけどさ」
ユリはサキュバスの企みに気付いているのか、それとも気付いていないのか、まったく気にしていない様子で説明をし始める。
優理はその説明を受けて、少しだけ納得することが出来た。根本的な物が一緒であるからこそ、行うことで来た方法と認識したためである。
しかし、サキュバスの方は優理と違っていた。
「そんな賭けみたいな方法で、こんな手段を使っていうのか? 下手をすれば、失敗して死んでたのかもしれないんだぞ!」
「タイミングが悪かったって言ってくれるかな? こっちの世界のユリのことだから、ユリと一緒で『こっちの世界の勇者様と戦いたい』とか言い出すかなって思って仕組んでたんだよ? それでも拒否されることが分かってたから、こっちの世界の勇者を護るために防御魔法を使うと考えて、『ユリの出番!』的な感じで助けに入ろうって思ってたんだから。こんなピンチになってるとは思ってもみなかったけど」
『あ、バレてる……』
アミナの言っていた通り、思考が似ていることに気付かされる優理。
「でしょー! やっぱり、こっちの世界のユリもそう言うと思ってからこそ、アミナには嘘を吐いて、こんな魔法を仕込んでたんだよ! 勇者様もアミナもユリに過保護だからさ、絶対に許してくれるなんて思ってもなかったし……」
『やっぱり、こんな危険が伴う方法を独断で準備してたんだ……』
「そうそう! 一応さ、この身体はこっちの世界のユリの身体だけど、意識はユリが支配してるから、傷つくのはあっちの世界にあるユリの身体も傷付いちゃうんだよね。死ぬような下手な真似はしないけど……。そのために、アミナに最初に説明してもらった魔法も仕込んでるし。あくまでキーワードが違うだけの話」
『本当に仕込んでたのは、仕込んでたんですね』
優理がアミナから聞いていたのは、防御魔法と回復魔法を使えるようにネックレスに仕込んだ、ということだった。
キーワードに関してはこれ一つしかなく、想いでそのイメージをしたら、想いで魔法が自動で判断して発動する。
そう教えられていた優理にとって、アミナもまた姫に騙されていた被害者の一人なんだ、と少しだけ可哀想になってしまう。このことを知ったら、絶対に怒り出す姿が目に見えるようだった。
「ちなみに二つのキーワードは別々に設定してあるよ」
『じゃあ、今教えてください』
「防御魔法は『ディファー』、回復魔法は『イラージュ』だから、ちゃんと覚えておいてね」
『はい、分かりました!』
優理は頭の中でその二つを反復する。
本当だったらメモ帳にでも書きたかったが、意識だけの状態ではそんなことはできないので、こうやることが精一杯だった。
「なんだ、所詮偶然の話か」
サキュバスは冷めた目でユリを見つめる。
これを実力でさせられていたら困っていた。
それを口に出さずとも、サキュバスを見ていたら自然と分かるような態度。
「偶然だろうが奇跡だろうが、神様はユリの味方をしてるってことだけでも勝算はあるようなものじゃない? 負け惜しみを言わないでよ」
「やはり勇者と違うのはそこか」
「どういうこと?」
「勇者なら、私を拘束したぐらいでは油断しないということさ!」
サキュバスがそう言うと、今まで倒れ込んでいた頼人がいきなり起き上がり、ユリへと手を伸ばし襲いかかる。
『まだ操ってたの!?』
見破った段階で操ることを止めたと思っていた優理も驚きの声を上げてしまう。
これではユリと頼人が戦ってしまうのではないか、と予想してしまう優理だったが、そんなことはなかった。
襲いかかってきた頼人は優理の身体に触れる前に見えない壁に弾かれ、バランスを崩して、その場に尻餅をつく。
「よ、読んでたのか!」
サキュバスの問いにも答えず、ユリは頼人へと手を向け、地面に現れた魔法陣が沙希と同じように拘束する。
「誰が油断してるって? あんたらが卑怯な手を使うことぐらい分かってるつもり。だからこそ、こっちの世界の勇者様がこんな風になった時のことを考えて、ユリも戦闘に参加しようと決めたの。アミナが役立たず、って言うわけじゃないけど、ピンチになる可能性を考えたら独断も必要でしょ?」
『うわー! お姫様かっこいいかも……』
「な、なんかこっちの世界のユリに言われると自画自賛してるみたいになる。ちょっと恥ずかしいかも……」
『ご、ごめんなさい。恥ずかしいよね……』
ユリの言い分を理解し、優理もなぜか少しだけ恥ずかしくなってしまう。
「ま、まぁ、それはいいとして! とりあえず、こっちの勇者様を救わないとね!」
「ふん。救う? そいつはすでに私の虜だぞ? ユリ王女が精神世界に入れば、こちらの世界が無防備になる。それにいくら優理が結界を張ろうと、それを破るまでにユリ王女が戻ってくるには時間がかかるだろう。その間に結界を壊せばいいだけの話だ!」
サキュバスは無謀なことは止めろ、とでも言わんばかりにユリに向かって言い放つ。
ユリは何も反論はしない、そのことがちゃんと分かっているかのように。
その代わり、サキュバスを一瞥した後、拘束した頼人の頭に手を置き、ぶつぶつと何か唱え始める。
「そこまでして頼人を救いたいのなら、そうすればいい」
サキュバスは沙希の身体に力を入れていく。
魔法陣から出ている紐が緩むのを待ちきれず、最初から力を入れることで解放までの時間の短縮を図っているようだった。
しかし、それはいつまでも経っても訪れず、最終的にユリの呪文らしき言葉は唱え終わる。
「はい、あっちはあっちでなんとかするでしょ。っていうか、本当にあんた、頭悪いよね。『あんたらの考えをある程度読んで行動してる』って、さっき言ったばっかりでしょうが」
「な……っ、いったいどうやったんだ! 精神も送らずにどうやって頼人を救うと言うんだ!?」
「良いから静かにしなさいよ。こっちはこっちですることがあるんだから」
ユリはそう言って目を閉じる。
優理の目が閉じられたせいで、優理の視界も真っ暗になってしまう。しかし、それに対しての文句も状況説明を聞くこともしなかったのは、サキュバスにそのことがバレては駄目だ、と直感で悟ったためだった。




