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仕組まれた罠(1) 【優理視点】

 翌朝。

 優理はゆっくりと身体を起こす。

 時計で時間を確認するとまだ午前六時。

この時間に起きたのは特に意味はなく、学校に行く延長で目を覚ましたに過ぎない。二度寝しようと思えば出来たのだが、沙希が来ていることを思い出したため、朝食の準備をしようと考え、ベッドから降りる。


「あれ、沙希ちゃん?」


 沙希が寝ているはずのベッドを見つめるもその姿はなく、もぬけの殻。


 ――トイレ……かな?


 普段から沙希は早起きだと知っている優理は気にせずに自分の部屋から出る。

 一番奥にある部屋を自室として使っている優理は一階へと下りる際に、必然と頼人の部屋の前を通ることになってしまう。そのため、今日は部屋の扉が少し開いていることに気付いた。


 ――閉め忘れるなんて、珍しいなー。


 頼人が部屋のドアを閉め忘れることは滅多になかったため、優理は欠伸交じりにそう思い、まだ寝ている頼人に気付かって静かにドアを閉める。

 そして、一階へと階段を下りて、洗面台へと向かう。

 朝の歯磨きや顔を洗うためである。

 トイレに入っているであろう沙希が出てくるのを待つ間に出来ることがそれぐらいしかなかったからだ。

 しかし、優理が歯磨きや顔を洗い終わっても沙希が出てくる気配はなかった。というより、手を洗いにここに来るしかないのに全然来ないことを不思議に思った優理の頭の中に、トイレで倒れている沙希の姿が思い浮かんでしまう。


 ――倒れたりしてないよね?


 トイレ自体はまだ大丈夫だったが、そのことが心配になった優理はトイレをノックすることにした。

 トイレまで移動し、トイレの鍵の色を確認してみる。ロックされている様子はなく、青のまま。外と違い、家の中ということでロックをしてない可能性があり、入っていないとは確信を持てないため、次は声をかけてみた。


「沙希ちゃーん、入ってるー?」


 同時にノックもしてみる。

 返事どころか物音一つ立たず、再び静けさが周囲を包む。

 さすがに様子がおかしいと思った優理は、


「ごめんね、開けるよ!」


 再び声をかけた後、勢いよくドアを開ける。

 しかし、そこには誰もいなかった。


「あ、あれ? じゃあ、沙希ちゃんは?」


 優理はどこにもいない沙希の姿を探すことにした。

 台所、居間、珠子の部屋を見回るもどこにも姿はなく、最終的に玄関の靴も確認する。当たり前とでも言うように靴は来た時と同じ場所に行儀よく並べられていた。

 この時点で探していないのは頼人の部屋だけになる。


「そ、そんなことはないよね」


 優理は頼人の部屋へと向かいながら、最悪な考えを排除しようと試みる。

 今まで探し回った部屋にいないことは最初から優理の中で分かりきっていたことだった。昨日の夜、沙希と話したことを考えれば、容易に想像できることだから。しかし、行動に移せなかったのは、昨日今日で沙希が大胆な行動に出るとは思ってもいなかったからだ。

 それに、頼人に限って他人と一緒に寝る可能性はない。だから、沙希がいるとしても寝ぼけて入ったに違いない、と理想的観測を必死に頭の中で作り上げることが、現在いまの優理の精一杯だった。

 頼人の部屋に辿り着いた優理は妙に緊張してしまい、ドアを開けることに少し躊躇ってしまう。

 考えないようにしても、つい考えてしまう最悪な予想を必死に否定しながら、頼人の部屋のドアを開ける。

 そこには、優理の考えないようにしていた姿以上の様子があった。


「う、うそ……な、なんで……」


 頼人が沙希を腕枕して寝ていた。

 沙希は胸から下をタオルケットで隠すようにしているが、二人とも裸であることを隠すつもりがあまりないのか、肩から上は見えている。

 その声に気付いたのか、二人ともまだ眠たそうに眼を擦りながら、ゆっくりと目を開け、


「優理、朝っぱらからうるさいぞ」


 と頼人が少しばかり不機嫌な様子で優理に文句を漏らす。


「お兄さん、あまり動かないでください。身体が見えちゃうじゃないですか。さすがに優理ちゃんにこんなはしたない格好、見せたくないですから」


 沙希は胸を隠していたタオルがずれたため、改めて身体全体を隠すために巻き付けながら、頼人に対して注意。


「そ、そんなことより二人は何してたの?」

「何って……一つしかないでしょ。分からないの、優理ちゃん?」

「そうだぞ。野暮なことを聞くな」


 優理の質問に対し、二人は悪びれた様子もなく返事をする。

 まるで、その行為そのものが当たり前であるかのように。


「お兄さんが激しいから、優理ちゃんが起きる前に部屋に戻れなかったじゃないですか」

「悪い悪い。沙希の身体が気持ち良すぎたんだから仕方ないだろ? っていうか、終わったら終わったで、沙希も力尽きるように寝ちゃったんだからどうしようもなかったって」

「そういう恥ずかしいこと言わないでくださいよ! お兄さんの馬鹿!」

「そうやって照れる沙希が可愛いから、ついからかいたくなるんだよ」


 優理が固まってしまっている間に二人は自分からネタ晴らしをしていく。

 妹がいるにも関わらず、行為をしたことをアピールする頼人の思考にも戸惑ってしまう。

 今までの話ではあったが、そういう話を頼人から進んですることがなかったからだ。この部屋にそういう本が隠されているのは気付いていたが、わざわざ探す行為もしなかった。男として当たり前のことであり、そこまで頼人のプライバシーに入り込もうとも考えたこともなかったから。

 だからこそ、沙希と付き合い始めた途端、ここまで変わるとは考えてもいなかった優理は思わず、


「本当にお兄ちゃんなの?」


 そう尋ねてしまっていた。

 頼人は「はあ?」と言いたげな表情を作る。


「馬鹿かよ。俺が優理のお兄ちゃんじゃなかったら、誰のお兄ちゃんになるんだよ?」

「あ、これからは私のお兄ちゃんでも良いですよ?」

「やめてくれよ。俺は沙希の彼氏だろ?」

「そうでしたね♪ あ、優理ちゃんに手伝ってもらわなくても、お兄さんと付き合うことができたよ。実は相思相愛だったんだって。変な頼み事してごめんね?」

「う、ううん。相思相愛……だったんだ。し、知らなかった……」


 優理はそんなこと一切信じることができないまま、頷いてしまう。

 そんなことよりも、優理がいる前でわざとらしくイチャつこうとする二人を見ていられなかったのだ。


「そっか。こんな恥ずかしい姿を見せてごめんね。最初に言った通り、本当は秘密にする予定だったんだけど……。それにお兄さんに求められたら、彼女として断れなかったの……」

「う……うん。仕方ないよね。付き合ってるんだし……」


 優理はもうこの場にいること自体が苦痛に感じ始めたため、部屋から出ようとふらふらと振り返り、ドアノブに手をかける。


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