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敵の作戦(2) 【アミナ視点】

「サキュバス!」


 アミナがそう言うと、沙希は腰に手を置いて答える。


「正解。今頃、気付くなんて馬鹿ね、妖精さん――アミナって言った方がいい?」


 その名の通り、沙希の頭の両端から角が生え、口元の犬歯が軽く伸び、背中には折りたたまれた翼が現れていた。

 容姿は沙希としての原型を留めた状態でサキュバスの角や翼が生えているのだが、さっきまでの沙希特有の雰囲気やオーラはなくなって、魔物としての雰囲気が強くなっている。


「本物の沙希さんの居場所を教えてください!」

「本物? あれ、まだ疑ってるの? だから、この身体そのものはその子の身体だって」

「そんなわけないです! だって、あたしはそんな方法知りませんもん!」


 魔物がこんな風に人間と同化するなど、あちらの世界では見たことがなかったアミナは驚きを隠すことが出来なかった。


「そんなに驚く必要ないでしょ? この世界に来るのは誰もが初めてなんだからさー。私も下級悪魔の部類に入るわけだし、長時間こちらの世界に現存する力がないから、それなりに色々考えた結果が……これってわけ」

「下級のくせによく思いつきましたね」

「あっれー? 少し馬鹿にしてる? まぁ、いいんだけどさ。っていうか、方法そのものは簡単だったんだよ? この子のちょっとした淡い恋心を利用しただけだしね。こいつへの恋路を邪魔する存在を殺す夢を見せてあげたら、簡単に心が荒んでいって、私がこの身体を乗っ取ることが出来た。ね、簡単でしょ?」


 サキュバスは沙希の髪を手で梳きながら、呑気そうに答える。

 その方法にアミナはショックを受けてしまう。

 『なるべく』の話ではあったが、頼人や優理の関係者を巻き込ませるような真似はしたくなかったからだ。そんな方法なんて思いつきもせず、封じる手段すら考えてもいなかった。

 そのせいで優理の一番の友達の沙希を精神的に傷つけてしまった自分の愚かさが許せなくなってしまい、思わず歯ぎしりをしてしまう。


「あ、ついでに魔法のことも教えてあげる」

「教えてもらいましょう。今後の勉強になりますし……対策が打てるようになりますから」

「私たち淫魔――今回は夢しか弄ってないから夢魔の方がいいかな?」

「んなのどっちでもいいです」

「そ。長くなるのも嫌だし、最初さえ介入できれば夢なんて弄り放題なんだよね。感知できない程度の魔力使うだけだし……。だいたい、あっちの世界で感知魔法にバレてたのも、精液を絞るためにそうせざるおえなかったからなの」

「なるほど。だから、あたしを寝かせたわけですね」

「そうそう、寝てる間に介入できたしね。アミナが来た時にはすでに手遅れ。残念でしたー」

「いえいえ、まだまだこれからです、よっ!」


 アミナは頼人に向かって魔法を放つ。

 攻撃魔法ではなく、強制的に夢から覚まさせる魔法。いくら、夢に取り込まれたからと言っても起きてしまえばその効力はなくなり、立場はこちらが有利になる。

 そして頼人の持つ勇者の剣の特性の一つである『精神への直接ダメージ』で沙希の身体からサキュバスを追い出そうと考えたのだ。


「なっ!」


 アミナの迷いのない頼人への攻撃に驚きを隠せず、慌てて自らの手で防ごうと手を伸ばす。

 しかし、それはアミナの誘導により、サキュバスの手をかわし、頼人の身体に接触するも、バチンと弾かれて消え去る。


「――んてね。そんな魔法の対策は考えてるに決まってるでしょ?」

「っ!」

「っていうか、そんなことより自分の心配をしたら?」

「え?」


 その瞬間、アミナの前後に現れた透明な板に挟まれる。そして、それはそのままカードのような状態になり、地面へと落下。

 何とか脱出しようとアミナは暴れるも、そこから抜け出せる気配は一切ない。


「邪魔者その2の排除完了」


 アミナは「どういうことですか!?」と叫ぶ。

 しかし、サキュバスは首を傾げながら、


「防音の魔法も備わってる封印だから何を言ってるのか、わかんなーい」


 とアミナに向かって、勝ち誇った笑みを向ける。


「でも、言いたいことは分かるから教えてあげる。私の目的は優理が絶望する姿を見たいだけなの。んで、最終的に自殺するのか、それとも身も心もボロボロになりながらも必死に生きて私に殺されるのか、どっちを選ぶのかなって。大切な頼人を私に奪われてね。だから、その邪魔になるアミナは封印させてもらったってわけ。大丈夫大丈夫、ちゃんとアミナがいなくなる理由も考えておいてあげるから。だから安心して、その中で見守っててね」


 そう言い終わった後、サキュバスはさっきとは逆回転して沙希の姿へと戻る。

 アミナが封印されたカードをどこに片づけようか、と考えているのか、周囲をキョロキョロと頼人の部屋を見回し始める。


 ――早く脱出しないと!


 その間もアミナは必死に攻撃魔法などをカードの中で繰り広げるも壊れる様子は全くない。


「あ、いいところ見つけた」


 沙希がそう言って近づいたのは両親の写真立て。

 写真立ての蓋を開け、写真の裏側にカードを入れると再び蓋を閉じ、元の位置に戻す。

 最初は写真の裏に入れられたこともあってアミナの視界は真っ暗だったが、急に部屋の外の景色が見えるようになる.

 サキュバスが透視魔法をかけたことを理解する。


「ほら、これならよく見えるでしょ? あ、ちなみに攻撃魔法してそのカード壊してもいいけど、頼人が両親の写真を壊されて悲しむことを考えてね。じゃ、私のゲームを楽しんでね、観客さん♪」


 アミナの全てを封じるような発言を全く悪気のない笑顔で語る沙希。

 その言葉通り、アミナは行動を完璧に封じられてしまったのだ。

 攻撃魔法だけでなく、封印解除魔法も。

 封印解除魔法が成功したとしても、その場から飛び出すような形でアミナの身体から排出される=写真立てが壊れ、下手をすれば写真までもが破れる可能性に気付いたからだ。

 それだけは絶対に避けたいアミナは何もすることが出来ず、優理を絶望させようと行動しているサキュバスの姿を大人しく見つめることしかできなかった。

 己の無力さを痛感しながら……。


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