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敵の作戦(1) 【アミナ視点】

「ん……なんかおかしいですね」


 アミナは姿を隠したまま、廊下の隅でうたた寝をしてしまっていた。

 本来、アミナは眠くなることはない。というよりも栄養も摂取しなくても生きていけるはずだった。しかし、この世界に来たことにより、主人である姫との繋がりが低くなってしまったのか、魔力の供給が上手くいかないことがたまにある。そのせいで普通の人間のように軽い食事からの摂取、または睡眠などを摂り、本来の世界へ意識を集中させることで魔力供給を成功させていた。

 しかし、今回は今までの睡眠とは違い、自分からではなく他人から強制的に睡眠に就かされてしまったような感覚。

 アミナはその状態に初めてなってしまったため、首を傾げながら、「もしかしたら」と思い、周囲に魔力感知の結界を張る。


 ――んー、異変はないんだけどなー。


 感知をしてみても変な魔力を感じることはなかった。

 いつも通りの深夜の状態。


 ――念のために確認しようかな?


 アミナは最優先である優理の部屋の中に壁をすり抜けて入り、ベッドで寝ている優理を見下ろす形で様子を確認する。

 こちらもいつも通りに、規則正しい寝息を立てながら寝ていた。

 それでも暑かったのか、身体にかけていたタオルケットが落ちかかっていたので、それを優理の身体に沙希に気付かれないようにおそるおそる優理の身体にかけ直す。


 ――沙希さんがいなかったら楽なのになー。


 こういう時は実体化と人間並みの身長に変身してかけ直していたので、改めて妖精状態のメリットとデメリットを痛感するアミナだった。


 ――あれ?


 沙希が寝ている布団を見たアミナは何かがおかしいことに気付く。

 優理と同じようにタオルケットをかけて寝ているのだが、優理の寝ている気配は違い、沙希の気配は希薄に近かったのだ。

いくら寝ていようが、その人の雰囲気やオーラというものは軽く薄くなるものの、その人特有の雰囲気やオーラは変わらない。影が薄い人でもその人にふさわしい薄さへと変化するものなのだ。

 しかし、沙希はそんなタイプではない。

 どちらかというと明るいタイプであり、寝ているからといっても影が薄い人レベルにまでは達するはずは絶対にありえないことだった。


 ――もしかして……っ!?


 頭によぎった考えを確認するべく、アミナは沙希に触れることにした。

 もし、沙希が目を覚ましてしまい、そのフォローで大変な思いをする頼人と優理に怒られたとしても、それだけの価値があると思ったから。

 指先だけを実体化させ、沙希の頬を軽く突いてみる。

 アミナの指が沙希の頬を突いた瞬間、沙希の身体は音もなく風船から空気を漏れるように縮み、抜け殻だけが残った。

 優理が寝起きで沙希の姿を見たぐらいでは分からないほどの高性能な擬態。

 その時、自分がなぜ眠くなってしまったのか、その理由もアミナは気付く。


 ――頼人さんが危ない!


 アミナは優理の部屋の壁から頼人の部屋へとすり抜けながら、実体化を同時に行いつつ、頼人の部屋に入る。

 すると案の定、沙頼人のベッドの横に立ちながら妖艶な笑みを浮かべる沙希の姿。


 ――さ、沙希さんじゃない?


 アミナが知っているようなお淑やかな沙希ではなく、そこには全ての男性を誘惑して、虜にしてしまうような雰囲気の沙希がそこにいた。


「意外と早く気付いたんだ、妖精さん」


 アミナの気配に気付いたのか、沙希はアミナの方へ顔を向ける。


「沙希さんじゃないですよね? 一体誰なんですか!?」


 指を突き付けて、アミナは敵意むき出しで尋ねるも、


「何言ってるの? 私は沙希よ。江藤沙希。他に誰がいるの?」


 と、呆れたような返事がアミナに返される。

 しかし、ここで「はい、そうですか」とアミナは言えない。というより、自分の存在を見て驚かない人間などいないことを知っているからだ。

 だからこそ、はっきりと目の前にいる人物が沙希でないという自信があった。


「そんなことはどうでもいいんですよ! 頼人さん、起きてください! 敵襲です!!」


 アミナは頼人の心に直接呼びかける。

 心に呼びかけたのは変に大声を出せば優理を起こしてしまい、状況がさらに悪化すると踏んだからだ。それに心に呼びかけることで事態の深刻さがより一層伝わるから、という理由もあった。

 が、頼人は起きる気配一切ない。

 それどころか、沙希はアミナを見ながら、クスクスと口元を押さえて笑っていた。


「無理よ。心に呼びかけたぐらいじゃ起きないわよ」

「っ!? どういうことですか!」

「どういうことって……一つしかないでしょ? 私がお兄さんを虜にしたからよ」

「と、虜に……した……?」

「だよね。妖精さんでも気付かなかったぐらいだから、お兄さんはもっと気付かないよね。うん、ちょうど上手くいって気分がいいから、今回の作戦を教えてあげる」


 沙希はアミナのことを完全に見下したように笑い、自分の髪を撫でる。


「妖精さんがどこまで見てたのか、私には分からないけど、実は優理ちゃんがお風呂に入っている間に誘惑してたの」

「知ってますよ。命令されて見張ってましたから。頼人さんには頼人さんの人生があるんで、いちいち報告はしませんでしたけど……。いえ、語弊がありますね。危なくなりかけた時に急かして、お風呂から出せましたから。急かした理由は違いますけどね」

「そ。その時のことだけど……あれって成功してもしなくても、実際どっちでも良かったの。あくまでお兄さんの心に罪悪感を抱かせる布石だったんだ。だってさ、お兄さんのことだから、絶対に抱くでしょ?」

「そうですね。『面倒を引き連れてくるな』とか言いながら、意外とそれに巻き込まれるタイプですから」

「だよね。だから、今の方が私からしたら本番なの。夢の世界では誰にも咎められることはない。何をしても自由。現実では優理ちゃんのことを大切にしないといけないけど、夢の世界なら私を大切にしてくれるでしょ?」

「……っ! そういう意味で罪悪感を持たせたんですか……。最低ですね。まぁ、最低だからこそ魔界の住人ってことなんでしょうけど……? でも、どうやって沙希さんに成り代わったんですか? それに魔法もですか? 感知させない魔法なんて聞いたことがないです」


 アミナの疑問はそこだった。

 目の前にいる沙希は本物の沙希であることは間違いない。ただ、雰囲気やら様子がおかしいことを除けば、の話ではある。表と裏があるにもしても、その領域を超えたものだった。

 それに頼人にかけた魔法。

 本来、魔法は使えば何かの形跡が残るはずなのだが、沙希が使った魔法はそんなものが一切感知できず、あるのは使ったという結果だった。アミナはあっちの世界でも色々な魔法を見てきたが、こんな魔法を見たことがなかったのだ。

 アミナがそのことが分からないように失笑し始める。


「何が面白いんですか? こっちとしては大真面目なんですけど……」

「ごめんごめん。いやー、意外と妖精さんも突発的な問題には対処できないんだなって分かったら面白くてね。うん、ちょうどいいから……私の正体を教えてあげるね」


 笑いが一瞬で消え去り、緊迫した雰囲気が部屋を包み込む。

 それに合わせて、沙希は身体を一回転させる。

 一回転が終わると、そこには変身し終わった沙希の姿があった。


「あ、あんたは……!」


 その姿を見て、アミナは正体に気付く。


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