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夢の中での告白(2)

 一瞬、何が起こったか、頼人は分からなかった。

 何をされたのか、それを理解したのは頼人の唇から柔らかい物は離れており、頼人の視界に沙希の真っ赤な顔全てが映り、


「えへへ、キスしちゃいました……」


 と言われてからだった。

 その行為そのものが気持ちを伝えるものとして利用され、さっきまでの余裕が頼人から消え去ってしまう。


「びっくりしました? 成功ですね♪」


 にっこりと笑う沙希の言葉によって、立場が逆転しました、と伝えるには十分だった。


「いやいや、それはびっくりするって! なんで、いきなりキス――」

「好きだからですよ。大好きだからです。お兄さんのことを考えるだけで、毎日が辛くて、胸が苦しい日々が続いてました。それが叶うんだったら、私、なんでもしますよ? 今みたいに不意打ちのキスでも……、襲うチャンスがあったら襲ったかもしれません……」

「お、襲うってさ」

「本気ですよ。お兄さんにだけですけど……。あ、あの、それで返事は……聞いちゃ駄目ですか……?」

「そうだな。沙希ちゃん、頑張って告白したんだもんな。ちゃんと答えないといけないよな」


 内容はともかくとして、沙希の表情は真剣そのものであり、頼人のためならばなんでもする。その言葉に疑いの余地がないほど、目は潤んでいた。

 ずっと一緒に居たい。

 それだけの覚悟が含まれているもの。


 ――夢の中なのに、なんてリアルなんだよ。


 自分の夢の中なのに、かなりのご都合主義が働いてしまっているこの状況に呆れてしまいそうになる。

 まるで、現実でもこうなることを望んでいるかのように夢の展開が素晴らしかった。内容としては二流の恋愛ドラマに近いものだが、ここまで恥ずかしい展開を作り出す自分の脳に拍手を送りたいぐらいの気持ちになるほど。

 主役としても、沙希の気持ちに答えるためにも、頼人の答えは決まっていたようなものだった。いや、決められていた。


「俺も沙希ちゃんのことが好きだよ」

「ほ……本当ですか!?」

「このタイミングで嘘吐く奴なんているの?」

「そ、それもそうですね」

「沙希ちゃんに告白されることも驚いたけど、一番驚いたのはさっきのキスかな……。いきなりすぎてびっくりした」


 頼人がちょっとだけ意地悪を言うと、沙希は今まで以上に顔を真っ赤にして、頭から煙を噴き出す。

 表現ではなく、本当に。

 夢の世界なので、頼人の感じた通りの表現が露骨に表現されていた。


「だ、大丈夫か!?」


 慌てて、頼人が心配するも沙希は、


「だってお兄さんと付き合おうとしたら、生半可なことじゃ心を許してくれないじゃないですか。いつも優理ちゃんのことばかり見てるから。だから、私なりに頑張ったんですよぉ……」


 とちょっとだけ怒ったように拗ねた。


「ごめん。まぁ、これからは沙希ちゃんのことも見るようにするよ。彼女なんだし、それぐらいは当たり前だろ?」

「当たり前というか常識です」

「だよなー」


 頼人は少しだけ不安があった。

 確かに彼女となった沙希をこれからはなるべく気にかけないといけない。しかし、それでも優理の方を一番気にしてしまいそうな気がしたからだ。癖と言われれば、思わず頷いてしまえるほど癖の領域に入っている。そのシフトを上手く切り替えられないかもしれない可能性もあったからだ。


「やっぱり優理ちゃんには敵わないみたいですね」


 沙希は頼人の様子から、そのことを見透かしたように肩を落とす。さっきまでの雰囲気とは違い、どんよりとしたものを頼人は感じ取ってしまう。


「いや、そういうわけじゃないけど……さ……」

「兄妹ですからね。仕方ないとは思ってます。こうなったら――」


 沙希はここまではしたくなかった、そんな雰囲気を出しながら、さっき以上に顔を真っ赤にして俯く。

 頼人はその意味が分からず、恥ずかしそうにする沙希を見つめるだけだった。


「あ、あの……そんな、まじまじと見られると恥ずかしいんですけど……」

「え、あ……ごめん……。でも、何をするつもりなんだ?」

「……秘密です……」


 沙希はそう言って、服のボタンを外し始める。恥ずかしさから、手を震わせながら。

 頼人はその手を掴み、止める。


「な、何してんだよ!?」

「しょっ、しょうがないじゃないですか!」

「何がだよ!」

「こうでもしないと優理ちゃんに勝てないんですから! お兄さんがそうやって優理ちゃんばかり見るせいで、私は二番目になる。兄妹に勝てるほどの絆を、他人である私が簡単に奪えると思ってるんですか!? だったら、私だけを見てもらいたいなら、こうやって私から心を開くしかないじゃないですか!? 本気で私の気持ちを理解したなら止めないでください!!」


 泣きながら、必死に歌える沙希。

 その言葉に頼人は息が止まってしまう。

 『夢の中でも……』という思いからやってきたにも関わらず、どっちみち沙希を傷つけることしかできていなかったことにショックを受けてしまったからだ。


 ――俺は……馬鹿かよ……!


 頼人は泣いている沙希にキスした。

 夢の中だからとか、明日が気まずくなりそうだとか、そんな考え自体がどうでもよくなってしまったのだ。こうやって頑張ってくれている沙希を見ていると、頼人自身も頑張らないといけない。そんな気持ちにさせられた結果――沙希の服に手をかけてボタンを外し始める。


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