優理に届いたメール
頼人に冷たい視線をぶつけられていることに気付いたアミナは、ムスッとした様子で文句を言いだす。
「あたし、関係ないじゃないですか! というより、二人が無事ならあたしの任務はそれで終わりなんですから! いくら、姫様がお二人をくっつけようが、策略しようが、命令だから実行するだけで、あたしは乗り気じゃないんです! そこのところをちゃんと理解してくださいよ!」
それが本音らしく腕を組んで、不機嫌な表情で頼人を睨み付ける。
頼人はアミナがそこまで怒り出すとは思わなかったため、「ごめん」と謝った。
「分かってくれたならいいです。でも、巻き込んですいません。ただ、あたし個人としましてはさっき言ったことが本音なので、それだけでも理解して頂ければ問題ありません」
「そうだな。ったく、姫様は面倒を引き連れてくるのが好きなんだな。こっちは魔物の件で大変だっていうのに……」
「あ、実は気になったことがあるんですよ!」
思い出したようにアミナは深刻な表情になる。
今まで見たことがないような表情に、頼人も自然と鼓動が激しくなってしまう。嫌な予感しかしなかったからだ。
「もしかしたら、今日の襲撃はただの様子見かもしれないってことです」
「様子見? 確かに小説の展開からすれば、最初の敵としてはよくあるパターンだけど、そう思う根拠は?」
「あいつらでは、あんな結界を張れないからです。そもそも、今日の敵は下級中の下級です。あたしたちの世界ではまともな武器を買えば、誰でも勝てる相手ですから」
「なるほどな。ってことは、上の奴に今日の戦闘を見られて実力を探られてる可能性があるわけか。そうは言っても、実力という実力は何も発揮してないけど……」
「それが唯一の救いですね。このことも優理さんには――」
「言えるわけがないだろ? 余計に心配するからな」
「ですね。不意打ちで襲われないとも限らないので、それなりの対応をしとかないといけません。と言ってみても、あちら側の住人の種類も分かっていないので、こちらも手の打ちようがないんですけどね。だから、状況的にはお互いイーブンなんでしょうけど、こちら側が不利なのは否めません」
そして、二人は沈黙した。
この事実を知ってしまった以上、どうしたらいいのか、とお互いに考え始めたからだ。しかし、いくら考えたところで、こちらが不利な立場なのは変わらない事実だった。
――せめて、魔物の種類が分かればな……。
頼人がそう思っていると、ドアがノックされる。
ノックして入ってくる人物は優理だと分かっていたものの、魔物の件について考えていたせいで、『もしかしたら……』という思考が頼人を襲い、思わず心に恐怖が生まれてしまう。
アミナを見ると首を横に振ったので、頼人は安心してドアを開ける。
「あ、ごめんね。アミナちゃんと大事な話してたのに邪魔して」
少しだけ申し訳なさそうに入ってくる優理。
優理は優理で気を使ってくれていたことに頼人は少しだけ感謝した。
「あの剣の使い方を教えてもらってただけさ。ちょっとした隠れ技とかな。な、アミナ」
「はい。念のために防音の結界を張らしていただきましたけど」
頼人に振られたアミナはこくこくと頷く。
「そっちは優理に関係ないからね。んでね、沙希ちゃんからメールが来たんだけど、内容はお兄ちゃん宛なんだよね」
「俺に? もしかしてあの件かな?」
「あの件? たぶん、そうだけと思うよ。内容は、『お兄さん、日曜日に買い物付き合ってください』だって。あの件って分かってるみたいだけど、優理にも分かるようにちゃんと説明してもらっていい? いいよね? ううん、いいに決まってる」
優理は少しだけ不満そうな顔を浮かべていた。
――あ、これ、下手したらやばいかも。
本能的に悟った頼人は素直に沙希と約束したことを話すことにした。包み隠さず、全て。
それを聞いた優理はあまり面白くなさそうに、
「日曜日は優理がお兄ちゃんと出かけようと思ってたのに……」
とわざと聞こえるような独り言を言った後、呆れたようにため息を漏らす。
頼人は「ごめん」と謝ることが精一杯だった。
「分かった。じゃあ、沙希ちゃんに返事しとくね? これ、貸しだから。再来週ぐらいには返してもらうから!」
「分かってる。携帯自体にはすぐ連絡できるようにしとくから、優理の身に何かあったらすぐ連絡するんだぞ? すぐに駆けつけるからな。家族なんだから遠慮なんてするなよ? 事態が事態なんだし」
「もー、分かってるよ。遠慮なんかしないから。じゃあ、お休みー」
優理は少しだけ不機嫌なような、それでいて気を使ってもらって嬉しいような、そんな微妙な顔をしながら部屋を出て行った。
頼人はそれを見ながら、大きくため息を一つ溢す。
――どっちみち機嫌を悪くしたかなー……。
こればかりはどうしようもできない状況だったため、仕方ないと思い、アミナを見つめる。
頼人の視線の意味に気付いたのか、アミナは、
「はい、任せてください」
とフォローについての件を了承してくれるも、頼人と同じように疲れたため息を漏らした。




