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風呂場(2)

「ねぇ、改めて言いたいことがあるんだけど」


 優理は少しだけ躊躇ったような感じで、頼人の方へ顔を向けた。

 頼人に向ける優理の顔は紅潮しており、それがお湯に浸かっているせいなのか、それともこれから言うであろう発言に対し、顔を赤くしているのかまでは頼人にも分からなかった。


「なんだ?」

「ごめんね、意地張っちゃって……」

「ああ、そのことはいい。俺も優理の気持ち考えてなかったからな」


 しかし、優理は首を横に振り、自分の気持ちをゆっくりと話し出す。


「優理はね、お兄ちゃんに優理のことで怪我して欲しくなかったんだ。それなら、自分の身は自分で守りたいと思ったの。でもね、そのことを言う資格がないって、今日初めて知ったんだよ」

「は? なんでだよ。そんなことない――」


 「――だろ?」という前に優理が頼人の方へ身体を向ける。そして抱きつくような感じで、頼人の背中と浴槽の隙間に無理矢理ねじ込ませると、頼人の背中の傷に触れた。

 少しだけ敏感になっている部分のため、頼人は身体を少しだけピクッと跳ねさせる。


「この傷のこと。お婆ちゃんに教えてもらっちゃった」


 悲しみに似た小さい声で優理は呟く。


 ――あのババアめ。


 頼人は思わず心で毒を吐いた。

 このことは絶対に言わないように、と約束していたはずなのに、優理に教えた罰としてそう言ったに過ぎない。

 そして、頼人の想像通り、優理はショックを受けていた。


 ――どうしたものかな……。


 なんてフォローすればいいのかも分からない。

 下手なことを言えば、優理は傷つくだけ。

 いくら悩んでも、どう考えても、答えは今すぐに出そうになかった。

 だから、頼人は優理にお湯をかける。

 浴槽に置いてあった洗面器ですくって、勢いよく。

 案の定、優理はいきなりのことに対応しきれず、ゴホゴホッと咽てしまう。


「な……げほっ、何するの!?」

「そうやって落ち込むの分かってたから、俺は嘘を吐いとくしかなかったんだろ?」

「そ、それはそうだけど……っ!」

「だから言わなかった。それにお婆ちゃんがこのタイミングで優理に教えたのは、それを受け止めることができると思ったからなんじゃないか?」

「うん。そうかもしれないね……」

「妹を守った勲章としては良い傷だろ?」

「……」

「おい」

「……」


 優理は冷めた目で頼人を無言で見ていた。

 馬鹿なこと言うな、という感じの空気が周囲に流れる。


「ったく、なんでそんな反応になるかなー」

「罪悪感に包まれてるのにフォローになってないからじゃない?」

「思いつかなかった結果が、さっきのお湯だ」

「なるほどね!」


 優理はそう言って、頼人の顔にお湯をかけ始める。

 どうやら仕返しらしい。

 頼人は、反撃はしなかったものの、手で顔を防御して被害をなるべく減らした。

 それがしばらく続いた後、優理はそれに飽きたのか、思い出すように話し出す。


「アミナちゃんがお兄ちゃんのペンダント、借りるって言ってたの、伝え忘れるところだった!」

「ペンダント? なんで?」

「さあ? 優理のも貸してほしいって言ってたから渡したけど……」

「あー、そういうことか」

「お兄ちゃん、分かったの?」

「分かるも何も一つしか考えられないだろ」

「え?」

「俺たちのペンダントに勇者たちから渡された物をインストールしてるんだろ?」

「ああ、そういうことか!」


 頼人の説明に納得したように優理は何度も頷く。

 家に帰ってから、アミナは動きまくっていた。

 今までは珠子が家に居たから下手に動くことができなかったらしく、居なくなった今だからこそ、この家にいろいろと防御魔法みたいなものをかけて、唯一の逃げ場として確保しているようだった。

 本当は頼人や優理も手伝うつもりでいたのだが、アミナ曰く「頼人さんたちは今日の件でお疲れでしょうから、ゆっくりしてください」とのこと。遠回しに言えば、頼人たちにできることがないから、邪魔しないでくれと受け止めることができた。

 だから、頼人たちはこうやってのんびりしているのだ。


「本当にアミナちゃんって良い子だよねー」


 優理はポツリと呟く。


「それが仕事でもあるんだろうけど、やりすぎのレベルではあると思うな」

「ねー、何かお礼でもしようかな?」

「お礼?」

「うん。絶対に嫌がると思うけどね」


 優理はアミナの返答が分かっているのか、苦笑いで答える。

 頼人も同じくアミナの返答内容をすぐに思いつく。

 優理が頼人の顔を見つめながら頷いてきたので、その意味を察した頼人はタイミングを合わせて、


「「あたしは当たり前のことをしてるだけなんで、気にしないでください」」


 と二人同時にアミナの返答を口にする。

 そして、二人して笑った。

 お互いが同じ内容に至ると思っていなかったからだ。


「ま、でも……なんかお礼はしないとな」

「だね。好物とかあるのかな?」

「さあ? 聞いてみるか?」

「物よりはそっちの方がいいかなって思うんだよね。物によっては透明になる時に邪魔になるかもしれないし」

「あー、そうだな。それとなく聞いてみるしかないか……」

「それが難しいんだけどね」


 二人は風呂場で悩んだ。

 その結果、頼人は優理が入ってくる前から風呂に入っていたこともあり、解決する頃には上せてしまいそうになっていた。


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