鬼・ゴブリンと戦闘?
しばらく、待っていると鬼とゴブリンたちは頼人たちの前にやってくる。表情は怒りに満ちた顔になっており、「絶対に殺す」という意思さえも感じ取れてしまうほど、オーラとして出ていた。
「人間、お前許さん! キキッ」
「待て、あいつは使い魔でござるぞ!」
「しかも、あそこにいるのは横山優理じゃないですか?」
一番頭に来ているゴブリンに聞かせるように赤鬼がアミナを、青鬼が優理をそれぞれ指差す。
そして、ゴブリンも頼人の持っている武器を見て、
「そ、それはまさか――」
驚いた声を出した。
頼人からすれば自慢したいわけではないけれど、それを鬼とゴブリンが見やすいように側面からそれを見せる。
「なんでお前がそれを持ってるですか!?」
「使い魔もいるなんて……キキッ……」
「お前はまさか……」
「ああ、騙してて悪かったな。俺の名前は横山頼人だよ。んで、こいつは妹の優理だ。それで、この使い魔はアミナ。ちょっとの間だけどよろしくな」
頼人が改めて自己紹介すると、優理も横から呑気そうに手を振ってアピールし始める。さっきまであった怖さは全くなくなっているらしく、笑顔を見せていた。
アミナはそんな優理を見て少し呆れているらしく、顔を左手で隠してため息を吐いている。
「優理、少しは緊張感を持てよ」
アミナの代わりに頼人が注意するも、
「えー、だってあんなのじゃ、怖いどころか全力の蹴りで倒せそうな感じじゃん。それにお兄ちゃんがなんとかしてくれるって信じてるから、怯える必要もないし」
優理は期待外れと言わんばかりの言葉を口にする。
頼人自身、そう思ったからこそ迎え撃とうとしたので、反論できず、口を閉ざした。
――やっぱり一緒に育っただけのことはあるな。
頼人は空笑いしながら、再び剣を構える。
「ま、そろそろお前たちとの追いかけっこもこの戦いも終わりにしようぜ。俺は腹が減ってきたしな」
「勇者の武器を持ったぐらいで調子にのるな、人間風情が! こっちの世界にそんなものを持ってきたところで上手く使いこなせないのが、自然の理なんだよ! キキッ! いけっ、お前ら! キキッ!」
ゴブリンは頼人を指差し、鬼に偉そうに指示を出す。
鬼は「はあ!?」みたいな呆気に取られた表情をして驚いていた。そして、遠慮なくゴブリンの頭を二体で殴りつける。
まさか殴られると思っていなかったゴブリンは、バランスを崩して地面に倒れこんでしまう。
「な、何をするんだ! キキッ!」
「お前が偉そうにするなでござる! この足手まとい!」
「そうです! お前がいないだけで、あの人間は簡単に倒せるはずだったんです!」
「ふざけんな! キキッ! この中で種類が違うオレが選ばれたのは、お前たちのリーダーをするためなんだ! キキッ!」
「んなわけあるかです!」
「お前みたいな知能が低い奴に使われたくないでござる!」
いきなりケンカをし始めた鬼とゴブリン。
頼人たちは「……」と無言でその様子を眺め続けることしかできなかった。
頼人とアミナに至っては、ついさっき仲直りをしたばかりなので、目の前でケンカしている三体の様子を見ていると恥ずかしくなってきてしまったのだ。
アミナに至っては、反応に困っており、この状況どうしたらいいか、頼人に尋ねる。
「頼人さん、どうします? あのままケンカさせておいて逃げますか? あたし、結界に干渉できるので、ここから簡単に脱出できますけど……」
「逃げたところで追いかけてくるだろ?」
「それはありますね。下手したら、今日中にでも襲ってくるかもです」
「だったら倒すしかないだろ?」
「じゃあ、あのケンカが終わるのを待つの?」
二人の会話に優理が口を挟んできた。
早くこの場を何とかしてほしい、という気持ちが頼人にも伝わってくる。
「まぁ……、不意打ちになるけどしょうがないよな……?」
「あの状態じゃあ……ね……」
優理は仕方なくという感じで同意を示してくれた。
次に頼人はアミナに視線を移してみる。
アミナの方はあまり納得していない様子だった。
――仕えてたのが勇者と姫だからなー。
不満に思う理由が分からなくもない頼人。
ちょっと考え込んだ後、仕方ないと思ったのか、最終的にアミナもしぶしぶ納得してくれた。
許可を貰った頼人は、未だにケンカしている鬼とゴブリンに近寄る。一応、不意打ちということで、なるべく足音を立てないように。立てたところで気付きそうになかったけれど、念のためだった。
そして鬼とゴブリンが剣の間合いに入ったところで、
「人間、少し待ってろ! あとで相手しやる! キキッ!」
「そうでござる! 今はこの馬鹿にどっちが上か、教えるのが先でござるよ!」
「そうなのです! だから大人しく待っておくのです!」
と近寄って来たことに気付いた鬼とゴブリンは、視線も合わせようともせずに言ってきたので、
「悪いな。さすがに時間切れだ!」
そのまま無慈悲に鬼とゴブリンの身体をまとめて横薙ぎに剣を払う。
鬼とゴブリンは何が起きたのか、全く分からなかったらしく、頼人の方を驚きの表情を向ける。
が頼人は、用事は済んだ、と言わんばかりに背中を向けて、刃を消失させる。いや、刃は決着が着いたということで頼人の意思を読み取って自動で消したのだ。
「ひ、ひきょうです……」
「ゆ、ゆうしゃの……ぶんしんの……くせに……」
「く、くされ……げどう……がっ……ききっ……」
各々が頼人に対する文句を言うも、言い終わる前に風船が破裂するような音と共にその場から消滅。そして、その鬼とゴブリンの媒介になったであろう鬼の人形とゴブリンが描かれてあるカードが地面に残されていた。
「知るかよ。俺はあいにく勇者じゃないから、卑怯だろうが不意打ちだろうが、勝てばそれでいいんだよ」
残された物に向かって、鋭い眼光と共にきっぱりと言い放つ。
――決まったっ!
内心、そう思ってしまったのは言うまでもない。
黒歴史とは違うリアルな体感に、心がまた打ち震えてしまうほどの快感が頼人を襲った。
「お兄ちゃん、また厨二病が再発してるよ?」
「それ、完全に悪役じゃないですか」
その余韻も優理とアミナの冷たい一言により、現実に引き戻される。
途端に恥ずかしくなってしまった頼人は、
「それで結界は――」
とアミナに尋ねようとする前に周りの景色がぐにゃりと歪む。
今度はガラスが砕け散るように周りの景色が砕け散り、今までとは違う夕焼けに染まった空が三人の前に現れた。さっきまでとは違う、温かさに満ちた世界。つまり、結界から脱出できたことを知らせるものだった。
同時にタイムリミットがきたのか、頼人の持っていた柄も透けるように消え、最初から何もなかったような状態になる。
アミナも急いで、その場から姿を消す。
「ん、家に帰るか」
頼人の一言に優理も頷く。
「そうだね。帰ろうか。色々と伝えないといけないこともあるし」
頼人と優理は今まで起きたことを外で話すつもりは一切なく、ケンカする前と同じように学校で起きた他愛ない出来事などを話しながら、二人は横一列に並んで歩いた。




