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勇者の剣

「大丈夫? どこも怪我してない?」


 優理は頼人の胸から離れると、身体を確認し始める。


「大丈夫だ。ギリギリのところでアミナに助けてもらったからな」

「そっか! 間に合ってよかった! でもさ、沙希ちゃんの家から離れ過ぎじゃない? ちょっとだけびっくりしたじゃん。アミナちゃんが感知できたからちゃんとここまで来れたけど、いなかったらどうなってたことか」

「悪い悪い。逃げ出せないって言われたから倒すしかないと思ってな。っと、優理ごめ――」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ? 優理も悪かったんだから。とりあえずどうするの?」


 優理は頼人の唇に人差し指を置いて黙らせると、頼人の後ろにいるアミナに向かって話しかけた。

 二人の様子を確認しながらアミナは、


「仲直りしたってことでいいんですか?」


 と尋ねた。

 その答えに達していいのか、と頼人は優理を見つめる。

 優理も頼人を見つめて苦笑い。


「仕方ないじゃん。現時点ではどうすることもできないんだし……。それにさ、本当のことを言えば、今怖いんだよね。お兄ちゃんみたいに家族だから守りたいで動けるほどの勇気もなかったんだ。ここに来る時までは大丈夫だったんだけどね。ここに魔界の住人がいるって考えると、怖くなった。だから、優理ではお兄ちゃんを守るなんて出来ない」

「優理……」


 頼人は優理の名前を呼ぶことしかできなかった。

 その言葉に嘘はないと分かったから。

 さっき抱き締めた時、確かに優理の身体は震えていたのだ。今では少しだけマシになっているようだが、それでも鬼やゴブリンを目の前にして再発するかもしれない。

 優理はそのことを自分で判断したのだ。


 ――成長したってことなのかもな。


 頼人はそう思うと、少しだけ嬉しくなり、思わず優理の頭を撫でた。

 いきなり頼人に頭を撫でられたことに優理はちょっとだけ驚いてしまう。


「どうしたの?」

「いや、なんでもない」

「うん。あのね、お兄ちゃん」

「なんだ?」

「優理を守って」


 その言葉に頼人は何かで衝撃のようなものを心に受けた。

 まさか、その言葉が優理の口から発されるとは全然考えていなかったからだ。

 喜びを超越した何かで頼人の心は一瞬にして満たされる。背中も少しだけくすぐったくなってしまったが、そんなことどうでもよくなってしまうほど、頼人の心はぐちゃぐちゃになっていた。


「分かった、任せろ。アミナ!」

「はい! 武器の譲渡許可、確かに確認しました。ほんの少しだけ待ってください。本来の授与とは違う特殊な出し方をしますから!」


 アミナも頼人と同じく笑顔でそう言って、次の行動を始めた。

 結界に侵入したときのように何かを呟き始める。


「ごめんね、優理のせいで」


 状況が状況なので、優理は目を伏せて誤ってきたが、


「いや、大丈夫。倒せる武器さえ手に入れば、そんな強い敵でもないんだ」


 と頼人はすぐにフォローを入れた。


「そ、そうなの?」

「魔物だから実際、現在いまの俺なら勝てないだろうけどな。というか、武器次第による。俺たちの世界の武器じゃ、魔法で弾かれてダメージが与えられないってだけだ」

「そっか。結構大変だったんじゃない? 逃げるにも結界のせいで逃げることもできないし……」

「そうでもないぞ。あいつら、馬鹿だし。逃げ切ることはできなくても、逃げ続けることならできたと思う」


 我ながら的を射た発言をしたと思う頼人。

 確かに結界を張られているせいで逃げ切ることは絶対にできないだろう。しかし、隠れながら体力を回復し、追いつめられないように逃げ続ければ、問題はなかったはずだった。その中にさっきのような行動を含めなかったら、の話にはなったが……。


「ふーん。もしかしたら、こんなに怯える必要なかったのかな?」


 優理は赤紫に染まる空を見ながら、少しだけ肩の力を抜いた。

 頼人の言い方に緊張感が全くなかったため、どうやらその言葉を信じたらしい。


「はい、終わりました。あ、ちょっと頼人さん移動してください」

「え? おう」


 アミナに言われた通り、頼人が移動すると、真上から剣の柄の部分だけが落下し、乾いた金属音を立てて地面に転がる。落下というより、二階からゴミを投げ捨てられたような落ち方。

 頼人と優理はその様子をポカーンとして見つめていた。


「え、どうかしたんですか?」


 二人の間抜けな反応に意味を分かっていないのか、首を傾げている。


「この剣、元勇者の物なんだよな?」


 頼人の質問にアミナは「はい」と頷く。


「なんで、ゴミでも捨てたみたいに落ちてくるんだよ?」

「あー、それはちょっと予想外でした」

「え? どういうこと?」

「本来の譲渡方法じゃないんですよ! だから仕方ないんです! って、そんなことよりも大切なことがあるんですから、ちゃんと聞いてください!」


 珍しくアミナがプンスカと怒りながら、頼人を指差す。


「まぁまぁ、アミナちゃん落ち着いて。それより大切なことって何?」


 優理が怒るアミナを宥めながら、説明を促す。


「本来の譲渡方法ではないということで、色々な制限がかかってるんです。というより、三十分で消えるようになっているので急いでくださいってことです!」

「って、そういうことは先に言えよ!」


 頼人は時間制限があることを聞いて、びっくりして慌てて、拾った。

 刃の部分が付いていないせいか、想像以上に軽く、カッター程度の重さに近い。


「それで刃の部分は自分の精神力か何かで取り出すのか?」

「よく分かりましたね! 使い方ってわけではないですが、刃の形状を頭の中でイメージしてください。刃の長さによって精神力を吸収して刃を形成するわけですが、一番重要なのは『戦う意思』ですから、脅しとかでは使えません。気を付けてください」

「オッケー。分かった」

「お兄ちゃんの得意分野だね!」


 アミナの説明を一緒に聞いていた優理がにっこりと笑って、茶々を入れて来る。


「そういう茶々入れんな」

「ごめんごめん」


 アミナに言われた通り、頼人は頭の中で刃のイメージを想像し始める。刃と言っても、色々な形状がある。簡単に思いついたものが、剣の柄の形状に合いそうな両刃の刃と日本人らしく日本刀の刃だった。


 ――んー、やっぱりここは……。


 少しだけ悩んだ結果、ここは定番の両刃の刃をチョイス。

 そして柄の部分から黄色い光線のようなものが出てきて、両刃を形成した。

 しかし、頼人はここで首を傾げる。

 その様子を見ていたアミナが、


「どうかしましたか? 何か不都合でもあります? 刃は形成されてますけど……」


 と尋ねたため、


「いや、精神力使うって言ってたのに、そんな疲労感とかこないなって思って」


 頼人は感じた違和感に対して、説明する。


「常時消費ってわけじゃないですから。戦闘終了後に刃を消してからまた出したり、その刃が折られたりなどしてもう一回再形成するとか、そういう時に消費するんですよ。あ、ちなみに威力的な話ですけど、本来の譲渡じゃないせいとあたしの能力のせいで、本来の二十パーセントしか出力ないので」

「え、それ、大丈夫なのか?」

「あの程度の雑魚なら、それでも余分なぐらいですよ」


 アミナは平然とした様子言うため、頼人もその言葉を信じることにした。


「じゃあ、行くか!」


 頼人がそう言って、なかなかやって来ない鬼とゴブリンの元へ向かおうとした時、氷が砕ける独特の音が聞こえてくる。

 そして階段を下りる音。

 ここにやってくることが分かった頼人は剣を構えて、ここで出迎えることにした。


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