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絶体絶命

「そうだ、人間! 死ぬ間際に良いことを教えておいてやろう! キキッ!」


 何を思ったのか、ゴブリンがそう頼人に話しかけてきた。


「何をだよ?」

「なんで、さっきの攻撃が効かなかったのか、についてだ! キキッ!」

「そんなこと言う必要もないでござるよ」


 赤鬼が説明しようとするゴブリンの肩を叩いて掴んで止めようとするも、


「恐怖に怯える顔を見るのも楽しみの一つだ! キキッ!」


 ゴブリンはすぐにその手を弾き飛ばして、嫌らしい笑みを頼人へと向ける。

 赤鬼は青鬼を見つめて助けを求めるも、首を横に振った。言い出したら聞かない、ということを伝えるかのように。

 その仕草を見た赤鬼も呆れたため息を吐いた。

 そんな二体のことを関係なしに、ゴブリンは説明をし始める。


「オレたちが人間の攻撃を防げたのは障壁によるおかげなのさ! キキッ! オレたちの世界ではそれをなんとかする術はあるが、この世界ではそんな術はない! キキッ! 最初からオレたちを倒すなんて無理な話だったんだよ! キキッ! キキッ!」


 最終的にゴブリンは頼人に向かって指を差しながら、馬鹿にした笑いがこの建物内に反響していく。


 ――だから弾かれたのか。


 障壁というのは、お馴染みの黒歴史中に読み漁った本の中にも書いてあったことなので、頼人はもちろん知っている。それ故に理解が早く済んだおかげで、下手に攻撃なんて考えるものじゃない、と少しだけ後悔した。もし、逃げることだけに集中していたなら、こんなにも窮地に陥ることはなかった、と自信を持って言えるからだ。

 少しだけ頼人はやけくそになり、最後の武器であるレンチを高笑いしているゴブリンに投げてみた。

 ゴブリンの方は未だ笑いが止まらないらしく、天井を見上げるような笑い方をしているため、頼人がレンチを投げたことに気付いていない。

 鬼たちは頼人の攻撃に気付いているが注意する様子は一切なかった。

 そして、そのレンチはゴブリンの顔面に直撃。


 ――やっぱりか……。


 頼人の予想通り、ゴブリンに当たったレンチはそのまま跳ね返り、適当な場所に落下する。ゴブリンもそれに気付いていない様子で「キキッ」という声と共に笑い続けていた。


「そろそろ覚悟してもらいます!」

「いくでござるよ、ゴブリン!」

「分かってるぜ! さっさと殺してやる! キキッ!」


 ジリジリ寄ってくる鬼とゴブリンに対して、頼人はゆっくりと立ち上がる。

 ゴブリンのおかげで体力も手の痺れもマシになってきていた。

 ただ、反撃しようにも障壁のおかげで攻撃そのものはできない。つまり、選択出来るのは回避しながら、逃げるということのみ。

 失敗すれば死んでしまうという状況にも関わらず、さっきとは違う感情に頼人は包まれていた。


 ――なんか逃げ切れる気がする。


 その思いに当てはまる理由は一切ない。けれど、その気持ちの方が一段と強くなっていくばかりで、詰め寄る鬼とゴブリンが怖いとさえ思わなくなっていた。


「ほらほら、逃げてもいいんだぜ? キキッ!」

「馬鹿ですかっ! そんなことを言って煽らなくていいんです!」


 ゴブリンが頼人の気持ちを知らずに煽る発言をするが、すぐに青鬼に注意される。再び、追いかけっこをするのが面倒だ、と言いたいのが頼人にはよくわかる。


「ジッとしてれば、すぐに終わるでござるよ」


 赤鬼も二体に同調するように漏らし、ピッケルと棍棒の間合いまで一足分というところまで近づいていた。

 頼人はそれに合わせて、賭けではあったが中央にいるゴブリンに向かってジャンプし、踏みつけて飛び越えようと考えたが、それは実行せずに終わりを迎える。


「悪いな、援護が来たみたいだ」

「へ?」

「はいです?」

「意味が――」


 頼人の言葉にそれぞれが反応し、赤鬼が言い切る前に三体の後ろの背中に爆炎が広がる。

 背後まで障壁を展開していなかったのか、それとも攻撃が障壁を貫通したのか、そこまでは分からなかった。

 ただ、その攻撃は通じたらしく、熱そうに悲鳴を上げながら、周囲を転がり始める。

 それに紛れて、頼人は三体の背後に回り込み、その人物に近づく。


「アミナ、遅いぞ!」


 アミナは苦笑いをしながら、


「すみません。ちょっと結界を張られているとは思っていなかったので。それよりも無事で何よりです!」


 申し訳なさそうに少しだけ頭を下げた。


「それはいい。優理は無事か?」

「はい、そこは問題ないです。というか、一緒に付いて来てるんで、急いで――」

「連れて来たのかよ! 危ないだろっ!」

「大丈夫ですから! むしろ置いて来るよりも連れて来た方が安全なんですっ!!」

「あ……、それもそうか……」


 頼人は即座に反省した。

 アミナの方がどうやら一枚も二枚も上の考えをしていたことに思い知らされてしまったからだ。


「反省とか後でいいんで、下にいる優理さんに早く合流してください。あたしではこいつらでさえ倒せないんで!」

「お、おう! 分かった!」


 頼人は素直にアミナの言葉に従い、一階へと下りる。

 アミナも付いてくるが、そのまえに鬼とゴブリンに向かって、追加で炎の攻撃魔法を放つ。そして階段のところまで移動すると、入口を封鎖する感じで氷の魔法で壁を作り、すぐに頼人の後を追った。

 頼人は急いで建物の入口前まで走っていると、舗道に自転車を止めて、心配そうに二階を見つめている優理の姿を見つける。


「優理!」


 走りながら、名前を叫ぶ。

 すると、優理も頼人を視認したらしく、


「お兄ちゃん!」


 と声を上げて、駆け出す。

 そして、二人はお互いの無事を確認するかのように抱き締め合う。

 今までケンカしていたことさえ忘れてしまったかのように。


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