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窮鼠猫を噛む

 その頃――。

頼人は近くにある廃工場の中に逃げ込んでいた。


「あいつらが足遅くて助かったな……」


 まだ頼人に追いついていない鬼とゴブリンの様子を少しだけ確認しながら、物陰に隠れつつ、ゆっくりと奥に移動する。

 足が遅いだけならば逃げ切る自信があったが、先ほどの赤鬼の発言から「逃げられない」という言葉を聞いた以上、頼人の中では倒すしかないと思ってしまったのだ。

 だからこそ、この場所を選んだのである。


「もしかしたらと思って来てみて正解だった。つか、これは武器として使える、よな?」


 この場で作業していた従業員が残したであろうレンチを手に取る。

 さすがに鬼の持つ棍棒を受け止めることはできないだろうが、少なくともゴブリンのピッケルぐらいなら受け止めることができると思い、片手に再びこそこそと歩く。


 ――あの機械が万全ならよかったのに……。


 この工場で使っていたであろう鉄筋を動かす機械が使えないことが頼人の中で一番悔やまれるものだった。

 それさえ動けば、あの三体をどうにかできるはずだったからだ。

 いくら動かし方が分かったとは言え、電源が生きてるかも分からない機械をあてにし、それが誤作動を起こして、自分が怪我をする可能性が怖かったので、頼人は無理な行動ができなかったのである。


「ここから、あの人間の匂いがするぞ! キキッ!」

「ここに逃げたでござるな」

「さっさと殺して、横山頼人を殺しに行くです!」


 鬼とゴブリンの声が聞こえた頼人は小さく舌打ちをした。

 まだ十分に戦えるような武器も集まってなかったからだ。唯一ある物は先ほど拾ったレンチとまた手元に落ちていた刀ほどの長さがある鉄パイプだけ。他にも色々と落ちているものの、投擲に使えるような道具しか見つかっていない。


 ――絶体絶命だな。


 鬼とゴブリンはそこらへんにあるものを叩きながら、どんどん奥に入ってきているらしく、鈍い金属音などを立てている。


「人間出てくるでござる!」

「面倒をかけるなです!」

「早く人間から血が噴き出すところを見せろ! キキッ!」


 鬼とゴブリンは口々に勝手なことを言っていた。 


 ――くそっ、なんで血なんか噴き出さないといけないんだよ!


 声に出すわけにも行かず、こっそりと三体が歩いている横をすり抜けるような感じで回り込むと、容赦なくテーブルを蹴飛ばす。


「なんでござるか!?」

「人間の仕業です!」

「こしゃくな! キキッ!」


 まさか攻撃を仕掛けてくると思っていなかったのだろう。

 鬼とゴブリンはそのまま台と共に舞い上がった埃に紛れて、姿が一切見えなくなる。

 そして、そのまま一時離脱し、再び頼人は距離を取ることにした。

 本当は追撃したかったのだが、埃のせいで頼人自身やみくもに攻撃しない方がいいと判断したからだ。


「くそっ、埃すご過ぎだろっ!」


 服の袖で口を覆いながら二階へと上っていると、下からものすごい音が頼人の耳に入ってくる。

 頼人の予想通り、先ほど蹴飛ばしたテーブルを鬼とゴブリンが退かした音だった。


「くそっ、人間が! 許さんでござる!」

「どこにいるですか!」

「あそこだ! キキッ! あそこにいるぞ! キキッ!」


 階段を上っている頼人を見つけたらしく、ゴブリンが指差すのが見えた頼人は急いで二階に上がる。

 階段を上がっている最中に段ボールによって部屋側が見えなくなっていることに気付いた頼人は、階段を上りきると部屋側の手すりに持たれるようにしてしゃがみこむ。

 ここでやろうと考えているのは、洋画などでよくある階段を上ってきた相手に不意打ちを食らわして、階段から落とさせることで逃げる時間稼ぎをしようというもの。


 ――一回ぐらいはやってみたい行動だな。


 頼人は少しだけこの状況を楽しんでいる自分に少しだけ嫌気が差しつつも、息を潜めた。

 案の定、鬼とゴブリンは鉄でできた階段を上ってくる独特の音が聞こえ始める。

 まさか待ち伏せされているとは思っていないらしく、


「逃がすな! キキッ!」

「絶対に殺すでござる!」

「八つ裂きです!」


 完全に殺る側だと認識しているようだった。

 その甘さの隙を付いて、階段の一番上から一番下まで叩き落とした後のことを考え始める頼人。

 流れ的に二階に上がってしまったが、本当は上がるべきではないことも分かっていたため、どうにかして一階へと下りる階段を探さないといけなくなっていた。つまり、簡単な話、階段から突き落とした後、鬼とゴブリンが持っている武器を一つでも奪い取るためにも、この階段を使い、そのまま下まで下りたらいいということに気付く。


 ――気付いたところで、この不意打ちを成功させないといけないか。


 もうすぐ上がってくると音で判断した頼人は、素早く立ち上がるとバットを振るうかのように鉄パイプをスイングした。

 すると先頭で上がってきたゴブリンの顔面にヒット。

 そのまま、階段を下りようと鉄パイプを手放そうとした――がそうはならなかった。

 なぜなら、ゴブリンにヒットしたもの、ゴブリンの顔面の固さが頼人の予想を超えていたためである。

 フルスイングした影響で頼人の手にゴブリンが食らうはずだった衝撃が全部跳ね返り、その勢いは手だけで吸収できなかったのか、頼人は身体も捻らせる羽目になった。


 ――何が起きたっ!?


 頼人はそのことを把握できずにそのまま床に倒れこむが、すぐに立ち上がり、距離を取った。

 先ほどの攻撃の失敗で両手とも痺れていたが、それを気にしている場合ではなく、隙を作ることの方が嫌だったからだ。


「とうとう追いつめたです!」

「覚悟するでござる!」

「キキッ! こんな鉄パイプごときでオレを倒せると思ったのか! キキッ!」


 ゴブリンは鉄パイプを持つと放り投げ、武器のピッケルでそれを易々と切り裂く。

 頼人の思った以上の切れ味を持つピッケルに、鬼の持っている金棒も同じような攻撃力を持つと頼人は想像させられてしまった。


 ――こ、これはまずいかも……。


 金棒とピッケルによって殺されるイメージを想像してしまった頼人は、恐怖から湧き出た唾を飲み込んだ。


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