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その頃…… 【優理視点】

 頼人が鬼とゴブリンとの追いかけっこを始めた頃、優理たちは沙希の家の前にやって来ていた。


「そっか、ありがとう」

「ううん、またね」

「うん!」


 優理は沙希と軽く挨拶をかわした後、歩道に止めてある自転車を押しながら、ゆっくりと歩き出す。

 アミナはすでに透明状態になっており、歩道ということでそのままの状態で優理に話しかける。


「やっぱりもういないみたいですね」


 姿と同じく、声も優理だけにしか聞こえないようにしてあるため、優理も小声で返事をした。


「時間的には分かってたんだけどねー。携帯の方も出ないし……」

「おかしいですね、すれ違ってもいないですし……」

「うん」


 二人は自分の家から沙希の家までの中で頼人と思わしき人物と出会わなかったのだ。

 そのため、優理はまだ沙希の家に居るのか、と思って、沙希の家に行ったのがついさっきのことである。


「他の道から帰ってるって可能性ないんですか?」

「んー、あるとは思うけど……、最短がこの道なんだよね。優理の場合、そんな遠回りして帰るなんてことしないんだけどなー。というよりも、さっき沙希ちゃんから聞いたんだけど、お兄ちゃんに優理と早く仲直りできるようにわざわざ助言してくれたんだって。お兄ちゃんのことだから、そんな寄り道するようなことしないと思うよ?」

「あ、そうなんですか! いいご友人ですよね」

「でしょ! 優理の一番大切な友達だから! って、そんなことは後でいいとして、もう一回家まで帰ってみる?」

「そうですね」


 優理とアミナは不安に満ち溢れた表情のまま、周囲をキョロキョロと見ながら歩いた。しかし、頼人らしき人物の姿は一切なく、あるのは学校帰りや仕事帰りであろう人たちのみ。しかも、優理たちの視線に気付き、一瞬優理たちの方に反応を示している。


 ――気まずいなー。いったいお兄ちゃん、どこにいるんだろ?


 優理を襲った虫の知らせは未だに消えていない。

 それどころか、さっきよりも警報がなっている。

 何かを見逃しているから気付け!

 そんなことを言っているようにすら感じ取れるのだが、その見逃していることが全く分からず、再び焦りが少しずつ強くなってきている最中のことだった。


「あー! もしかしてー!」


 アミナが突如、大きな声を出した。

 その大声に優理の身体は反応して、ビクンと跳ねさせてしまう。

 身体を跳ねさせたことにより、優理の前方から来ている会社員の人が訝しげに優理のことを見ていた。

 そのため、携帯を取り出してバイブに反応して驚いてしまったように見せて、誤魔化す。出したついでに頼人の携帯に電話をかけてみるも、留守電の方ではなく電源が切れている案内の方へと繋がってしまう。


「それでどうしたの? いきなり大声なんてあげたりして」


 会社員の人が優理とすれ違い、ある程度の距離を作ってから、優理は改めてアミナへと尋ねた。


「すいません。とっても重要なことに気が付きました! というより見落としてました!」

「見落として……た……?」

「はい! 魔界の住人がこちらの世界のことを気にしていないと思っていたので、『結界を張ってる』ということを頭から切り離してました!」

「結界?」

「あれ、知りません?」

「知ってるけど……。それって誰も入れなくしたりする魔法でしょ? だったら、優理とかさっきの会社員の人たちとか、この道に入れないと思うんだけど。っていうか、沙希ちゃんの家にも辿り着けないんじゃないの?」

「そういうのもあります。たぶん、今回はそのタイプじゃない結界ってだけの話です」


 優理は訳が分からず、首を傾げた。

 あくまで優理の知っている結界というのは、『防御結界』『人除けの結界』ぐらいだったからである。それも頼人が持っているライトノベルを少しだけ読んで得た知識であり、あまり興味を惹かれなかったため、そこまで詳しくないのだ。

 アミナはそんな優理に説明し始める。


「今回の結界というのは閉鎖空間タイプってやつです。つまり、沙希さんの家からどの範囲までかは分かりませんが、その場所と時間を固定化して違う空間として存在させているんです。なので、こちらで頼人さんとすれ違うわけがなかったんですよ!」

「なるほど……、って、それ、やばいんじゃないの?」

「はい、やばいです。逃げようと思っても、逃げられないわけですから」

「ど、どど、どうするの!?」


 優理は慌てた。

 その結界が発動されてから、すでに三十分は経過している。下手をすれば、頼人はすでに死んでいる可能性がある。

 そう考えると、優理はいてもたってもいられない状態になったにも関わらず、アミナは平然としていた。


「落ち着いてください! 頼人さんのことなのでちゃんと逃げているはずです! 信じてください」

「で、でも……!」

「焦ったところで仕方ないです。今、やれることをしましょう。これからあたしが結界に入れるように干渉します。なので、優理さんは近くの人気が少ない場所に移動してください」

「ん、分かった」


 優理は言われた通り、なるべく人が来ない方向へ移動を開始する。

 その間、アミナは日本語でも英語でもない言葉の羅列を呟き始めた。


 ――結界の解析してるのかな?


 いくら言葉が分からなくても、行動自体の意味は分かったため、なるべく静かに動くように心がけた。

 そして辿り着いたのは家と家を境に作られている通路である。近隣住民や小学生が好奇心でしか通らないような場所であり、もしかしたら不法侵入になるかもしれないようなギリギリのところ。

 優理がこの道を知っていたのは、頼人に連れられて通ったことが何回かあったからだ。


「ここでいい?」


 優理の質問に対し、アミナは姿を現すと、優理の自転車のカゴの上に器用に立った。


「はい、大丈夫です」

「それでどうするの? 解析してたんでしょ?」

「いえ、もう入口をいつでも開ける状態にしてあります。ただ、開いたとしても長時間は持たないので、躊躇わずに入ってください」

「分かった」


 優理は素直に頷く。

 最初から躊躇うつもりはなかった。

 なぜなら、頼人の身の方が心配だったからだ。


「じゃあ、開きます!」


 アミナは正面を向き、空間を引き裂くように両手を広げると、それに従って空間が開かれる。

 入口の先には見える景色は、全体的に少しだけ色が暗いこちら側の世界の続き。

 そこで、優理はアミナの言っていた、『躊躇わずに』という意味を改めて理解する。色が違うだけで、少しだけ恐怖らしきものが優理の中で芽生えたからだ。


「今です!」

「う、うん!」


 優理は自転車を全速力で押して、中に入る。

 二人が中に入ったことを確認したかのように、その入口は自然に閉じた。


「あ、入口が……」


 そんな心配をしているとアミナが、


「頼人さんを狙っている敵を倒せば結界は解けます。だから、大丈夫ですよ!」


 と笑顔で説明してくれたおかげで、優理は少しだけ安心する。


「早くお兄ちゃんを助けて、こんな気持ち悪い世界から出ないとね」

「はい、急ぎましょう! あ、この結界の中ではあたしが魔力感知できるので付いて来てください!」

「分かった!」


 優理は赤紫になっている空を一瞥した後、先行するアミナを自転車に乗って追いかけた。


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