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遭遇

 優理とアミナが頼人の元へ向かう数分前。

 頼人は沙希を無事に家まで送り届け、帰宅しようとしていた時のこと。

 一瞬だったが、変な違和感が頼人の身体を貫いた。所詮感覚の問題のため、気のせいだと思って歩いていると、少しだけさっきまでと何かが違うことに気が付く。


 ――空が赤紫になってる?


 一番に気付いたことがそれだった。

 しばらくは太陽が雲で隠されたことによって薄暗くなっているのかと思っていたのだが、周囲に停滞する空気そのものからピリピリとしたような雰囲気が頼人を襲い、周囲を見回してみた結果、そのことに気が付いたのである。

 赤紫になった空は、アニメなどでよくある何かに包まれた状態だった。

 元厨二病発症者である頼人にとって、それはあくまで昔の黒歴史を思い出す一つの影響に過ぎず、魔界の住人が襲ってくる恐怖よりも羞恥心の方が最大の敵となり、頼人を襲いかかってくる始末。


「アミナの奴、本当に面倒を引き連れて来てくれたよ」


 少しだけ警戒心を持ちながら、頼人は足を止めずに進み続ける。

 その結果、不自然なほど周囲を確認してしまう。

 命を狙われているのだから、当たり前の行動ではあるのだが、他人から見れば怪しいこと間違いない。

 そこで、またおかしいことに頼人は気付く。


 ――人が誰一人いないな。


 時間帯的には仕事帰りの人が通ってもおかしくない。なのに、反対側から誰か歩いてくるような様子も周囲の家から話し声が聞こえてくる様子すらない。

 この世界に一人ぼっちにされてしまったかのように。

 頼人はそれだけで急に心に恐怖が芽生えてしまった。

 今までの余裕だったのは、誰かに助けを求めることができると思っていたからだ。他人だろうが、アミナだろうが、誰かに助けを求めればなんとかなる。

 その甘さが裏目に出てしまったことを、頼人は心の中で悔いた。

 そして、その焦りは行動となって現れる。

 さっきまで歩いていた頼人はいつの間にか早足になっていたのだ。

 しかし、それは目の前に現れた小学生程の身長ほどの人物――魔界の住人らしき者の通せんぼによって、強制的に足を止めることになった。


「……おいおい、マジか。魔界の住人って、俺の知ってる奴らだったのかよ。魔物で分かりやすい説明だったな」


 頼人をちょっとだけ興奮気味になってしまう。

 頼人の目の前に現れた住人は二本角の赤鬼に、一本角の青鬼、もう一人は角さえ生えていない緑鬼だった。

 アミナの説明ではもう少し違う何かの生き物かと思っていた頼人にとって、こういうのは異世界共通ということを知り、嬉しくなってしまう。

もちろん、そういう感情が芽生えてしまったのも黒歴史が原因でもある。


 ――喜んでる場合じゃないな。


 三体の手に持っている武器を見て、頼人は気を引き締める――が、違う少しだけ一体だけ違う武器を持っている魔物が目につく。

 赤鬼と青鬼は定番の棍棒を持っているに変わらず、緑鬼だけはピッケルを持っているからだ。というより、緑鬼なんてものがいたっけ、と頼人は考えてしまった。

 しかし、それは魔物たちから話しかけられてしまったことで中断させられてしまう。


「お前、横山頼人でござるか?」

「お前、横山頼人ですかな?」

「貴様、横山頼人だな! キキッ!」


 三体それぞれに質問される。

 緑鬼に関してはほぼ確定されている言い方だったが……。


「いや、人違いだ」


 頼人は嘘を吐いた。

言い終わる前に被せる感じで。

そもそも、そう答えることが頼人の中では決まっていた。

 アミナに教えてもらった時から、知らない人に話しかけられたらこういう風に返事をして警戒しよう、と考えていたからだ。

 案の定、三体は相談し始める。


「でも勇者に似てるでござるぞ?」

「他人の空似というものですかな?」

「そんなわけない! あいつは本物だ! キキッ!」


 二人に突っ込みを入れる緑鬼。

 しかし、二人は即座に言い返す。


「間違いだったら、どうするのですかな?」

「怒られるのでござるよ?」


 緑鬼はそう言われて、口を閉ざした。

 どこでもそうなのだが、怒られるのは嫌なのだろう。


「ったく、ゴブリン殿は考えが単調すぎますです」


 青鬼がちょっとだけ不満そうに緑鬼に悪態をつく。


「鬼じゃなくてゴブリンかよ! 和洋折衷か!」


 そんな流れをぶった切るように頼人は緑鬼に突っ込みを入れた。

 その突っ込みに自然と三体は頼人を見つめてくる。


 ――あ、しまった。


 突っ込みを入れるほどの余裕があるせいで、嘘に気付かれた、と思ってしまう頼人。


「よく言われるでござるな」

「もっともな反応です」

「ゴブリンであるオレが混ざってるだけで、そんなにおかしいのか! キキッ!」


 一緒にいるゴブリンを見て、呆れたようにため息を吐く二体。

 ゴブリンに関しては、頼人の言葉に不満を現すように地団太を踏んでいる。そして、何回か踏んだ後、その部分に凹みを入れた。


「しかし、人間違いである場合どうす――」

「殺すに決まってるだろ! キキッ! あいつはオレを馬鹿にした! 殺すには十分な理由だ! キキッ!」


 赤鬼が二体に質問しているにも限らず、ゴブリンは言い切る。

目は血走っていることから、相当頭に来ていることは簡単に予想できた。

その言葉に赤鬼は悩んでいるみたいだったが、青鬼は、


「なるほどです。そもそも人間違いだろうが、ボクたちの姿を見られたからには殺すしかないのです」


 とあくまで冷静に言い放つ。


 ――あ、やっぱり?


 そのことが分かっていた頼人はゆっくりと後退り、少しでも距離を遠ざける。そして、頭の中ではどういうルートで家に帰るか、について考え始めた。

 三体によって通せんぼされているこの道は、家に帰る最短ルートではあるのは事実だったが、遠回りのルートを使えば帰れないわけではない。しかも、地の利もこちらに分がある頼人にとって、勝ったも同然だった。

 赤鬼の方も青鬼の言い分に納得したのか、頷いている。


「そうでござるな。結界も張っているので逃げることもできないでござるし、殺すのはたやすいでござろう」

「は? け、結界?」


 頼人は予想外の単語に驚いてしまう。

 それは逃げ切れないことを示した単語だった。

 つまり、自力ではアミナとさえ合流できないことを示している。


「見知らぬ人間覚悟しやがれ! キキッ!」


 そう言って、三体は頼人に近づいてくる。

 頼人は反転すると、その場から全力で駆け出す。

 後ろを振り返るとか、煽るとか、そんなことすら余裕もなく全力で――。


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