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少女との出会い(1)

 学生にとって帰宅とは、学校から下される最後の砦でもある。

 砦と言いながらも、多少のお茶目は許されるという砦としてほぼ機能していない砦だ。それが高校生ともなれば、あってもないようなもの。

 しかし、今日は違っていたのだ。

 高校二年、帰宅部所属(そんな部活はない)の頼人も友達と別れ、帰宅している最中のこと。


 肩より少し長い緑の髪を持ち、左だけ軽く髪を結い、右の前髪にはヘアピンを付け、目は琥珀色に光り、身長は小学生程度の女の子が頼人の前に仁王立ちをして、道路の真ん中に立っていた。

 念のために言っておくが、ここは歩行専用道路のため車の往来がない住宅街。いくら、道路の真ん中に立っていようとも安全は保障されているが、通行の邪魔なのは間違いない。


 ――だ、誰だよ……。


 頼人に小学生の知り合いはいない。

 もしかしたら、妹の優理の知り合いなのかもしれないが、紹介されてない子は知らない子なので自然と警戒してしまう。

 警戒してしまう理由は最近の日本を考えれば分かるだろう。


 こうやって小学生と向かい合っていれば、いきなり現れた他人に変な人扱いされて通報されてしまう謎システムが存在するせいである。そのせいで、なるべくは接したくないと思ってしまうのは当たり前の心理なのだ。なぜなら、本当のことを説明しようが通報した奴がそれを認めない限り、警察行きは免れない。しかも、高校生である頼人にとって、それは将来にも関わりかねない結果をも生み出してしまう。

 だからこそ、本当はご遠慮願いたいのだが、その子の瞳にはしっかりと頼人が捕らえられており、逃げ出すことは不可能に近かった。


「横山頼人さんですよね?」


 しばらく見つめ合った結果、痺れを切らし、最初に話しかけてきたのは少女だった。


「うん、そうだけど……何か用かな?」

「あ、やっぱりそうだったんですね! 他人の空似とかありそうでちょっと不安だったんですけど、やっぱり間違いなかったんだ!」


 少女は一人で嬉しそうに笑顔を作る。

 話しかける人物を間違えてなくてよかった、と言わんばかりに安堵した息も漏らしていた。

 この様子だと優理の知り合いで間違いないだろうと思い、


「優理なら家にいると思うぞ。俺はちょっと用事があって寄り道しないといけないから、また後で」


 頼人は素早くこの場から脱出をしようと、その子の横をすり抜け、歩き出す。

 しかし、その行動は少女が頼人のズボンを掴む事で阻止される。


「逃げないでくださいよー! 優理さんにも話さないといけないことはありますが、順番的には頼人さんが一番なんですー!」

「俺は話すことも、話したくもないんだよ! ちょっ……マジで離してくれ!」

「話を聞いてくれるまで離しません! 結構、大事な事なんですからー!」

「面倒を引き連れて来るなって! あいにく、俺は面倒な事に巻き込まれるのは遠慮してるんだ!」


「あー、それは否定しません。ううん、否定できないんです!」

「やっぱりか!」

「その面倒事に巻き込むことは謝ります! だからこそ、話を聞いてもらわないといけないんですよ!」

「意味が分かんないから!」

「そのために説明するんじゃないですか! 本当にこの話は聞かないと後悔します! というか、死亡フラグってやつが勝手に立ちますよ! いいんですか!?」


 少女の言葉に頼人の動きは止まる。

 それ以前に引きずるような真似はせず、その場で立ち止まり、ちょっとだけ足を動かす程度にとどまっていた。

 その動きさえも止めてしまうほ不吉な五文字の言葉に、頼人は背筋が凍るような感じを受けてしまったのだ。


 ――小学生が言うぐらいだから、それほどの重要なことなんだろう。


 最近の小学生が、どれほど口が悪いのか、頼人は知らない。それでも、他人に向かって死亡示唆的なことは言うはずがない。

 あくまで、「死ね」や「殺す」などの発言はあったとしても。

 だからこそ、頼人は少女の話を仕方なく聞くことにした。

 くだらない内容だったら、即打ち切りなのは確定だったが……。

 話を聞くにあたって頼人は通路の端まで移動し、少女と視線を合わせるようにしゃがみ、手招き。

 少女は頼人が手招きする仕草から、話を聞いてくれると分かったらしく、小走りで頼人に近寄る。


「分かった。そこまで真面目に言うなら話を聞くよ。まず、名前を教えてくれ。俺の名前は知ってるみたいだけど、俺は君の名前を知らないというのは不公平だから」

「もちろんです! 私の名前はアミナって言います。よろしくお願いします!」

「オッケー、アミナちゃんね。それで大事な話ってのは?」

「耳の穴かっぽじって聞いてくださいね?」

「大丈夫。昨日、掃除したし」


「じゃあ、言いますよ? あ、茶々とか入れないでくださいね?」

「分かってるよ。最後まで聞くよ」

「ではでは、説明開始です。実は、この世界に別の世界の生き物が攻めてきます。なんで攻めてくるのかって言うと、頼人さんと優理さんを殺しにやってくるんですよ! なんで、殺しに来るのかっていうと――って、ちょっと! どこに行くんですか!? まだ話は終わってないんですよ!!」


 アミナは、この場から立ち去ろうとした頼人の足にしがみついた。

 しかし、頼人はそんなことを関係なく歩く。


 ――真面目に聞いた俺が馬鹿だった。


 小学生のくせに中二病全開だったせいである。

 というか、マセすぎなのだ。

 頼人もそんな風に中学生頃はアニメや漫画・ライトノベルなどの影響を受け、そういう黒歴史的発言をしたことがある。しかし、あくまで自分の世界のみであり、他人に迷惑をかけるようなことまでは言わなかった。

 なのに、アミナは見知らぬ人の生死まで口を出したのだ。

 怒るには十分な理由。


 ――くそっ、中学生ぐらいなら本気で怒ったのに……っ!


 小学生だから頼人は怒れなかった。

 もし怒ってしまえば、アミナの両親に知られた時に分が悪いのは頼人自身だからだった。

 まともな親だったらいいのだが、毒親だと最悪な展開にもなりかねない。だから、我慢する事しかできなかった。

 それ以前に現時点でも結構危ないのは事実。

 だからこそ、頼人はこうやって無言で歩く事が精一杯なのだ。


「ほ、本当に話を聞いてくださいよ! お、怒りたい……気持ちは分かりますよ! あたしだって、こ……こんなことを知らない人から、聞いたら怒りますか……ら……!」

「……」

「お、お願いしますよー! ちょっ……な、泣きますよ! あ、あたし……この、世界では……こ、子供の言い分の方が……つ、強いの……知ってるんですからー!!」

「……」


 頼人は構わず歩き続けた。

 それは口からの出任せだと思ったからだ。

 アミナの容姿は小学生程度ではあるが、中二病を発症してしまっているほど精神年齢は上。だから泣くわけがない。しかも、話を聞いてもらいたい立場の人間がそんなことをしてしまえば、どうなるか分かっていると高を括っていたのだ。

 そんな頼人の思惑を裏切るようにアミナは泣いた。

 大声を上げて。


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