虫の知らせ 【優理視点】
台所へ向かい、夕食の準備をしようと冷蔵庫を開き、中を物色している最中に優理は不思議な感覚を感じた。
いきなり心臓がドクンと跳ね上がり、何とも言えないような不快感に襲われる。
――なにこれ?
急に息が荒くなり、胸を抑えるもその不快感は増すばかり。治まる気配は全くなく、ジッとはしていては駄目だ、そんな感情が優理の中に生まれる。
「優理さん、沙希さんの家分かりますか!?」
それに呼応するようにアミナが焦った声で優理に尋ねる。
優理はアミナの様子を見て、この感覚がさっき話していた虫の知らせであると理解した。
「もしかして……?」
「はい、奴等が来ました。でも、そこまで強くないです。異世界なので何かが干渉して、総合能力自体は弱体化しているみたいですけど、あくまであたしたちの世界と比べたら、の話です!」
「ん、案内する。優理も虫の知らせが来たから。お兄ちゃんが危ないんだよね?」
「はい、その通りです」
優理は冷蔵庫を力任せに閉めると、一度居間に寄り、自転車の鍵を入手する。そして、玄関へ急ぐ。玄関を出た後、慌てながらも先ほど珠子に言われた通り、玄関の戸締りをしっかりとし始める。
しかし、優理が急いでいるため、鍵は閉まらなかった。
それは家が昔のスライド式のドアになっているためである。昔はあっさり閉まったであろうドアも、長い年月のせいで立てつけが悪くなっており、ドアのレールが歪んでいるのが原因だった。
そのため、丁寧にドアを揃えて、鍵を差し込まないと施錠できないほどデリケートになっている。
――あー、もう! 急がないといけないのにっ!
優理はそう思いつつも、手の動きを止めて、何回か深呼吸をした。
そうでもしないと落ち着けないと感じたからだ。
そうやって気分を落ち着かせることで、優理は今まで感じていた胸騒ぎも少しだけ落ち着けさせることができた。
隣ではアミナがソワソワしている姿が目に入り、気になるほど。
「アミナちゃん、少し落ち着いて」
「え、でも……っ!」
「いいから落ち着きなさい! お兄ちゃんなら大丈夫だから!」
優理がそう命令すると、アミナは言われた通り、気持ちを落ち着かせようと深呼吸を始める。
そして、気持ちを落ち着かせてから改めて優理に尋ねた。
「あの……、なんで大丈夫だと分かるんですか?」
「んー、女の勘かな?」
根拠なんてものは一切なかった。が、それでも頼人は何とかする、という気持ちが優理の中で生まれていた。
玄関の施錠をしたことを確認すると、次は自転車の鍵を外しながら、
「ねぇ、魔界の住人ってさ。生身じゃ勝てないほど強いの?」
と次はアミナへ質問。
アミナもちょっとだけ悩むように空を見上げてから、ゆっくりと説明し始める。
「種類によっては強い者もいますよ? ただ、この世界に来た影響でどれくらい弱まっているかはわかりませんが、それなりに強いとは思います」
「どういうこと?」
「あたしがいた世界とこちらの世界の間には次元の壁が存在するんです。その次元の壁が通ろうとする物に対して自動で干渉します。強くなるのか、それとも弱くなるのか、そこまでは分からないです」
「でも、弱くなるってなんで分かっ……あっ、アミナちゃんの自身の力も弱くなってるってこと?」
「はい、本来の半分以下です。かと言って、魔法自体は使えるので、頼人さんがまともに戦っても勝てるとは思いません。しかも、今回やってきたのがどんな住人かも分からない以上、急いで合流した方がいいです」
「うん、分かった。アミナちゃんは優理の服に掴まって! 飛ばすから!」
優理は家の前まで自転車を出して、自転車に乗った。
そして、アミナが優理の言う通り、肩部分の服を握りしめているのを確認してから全力で自転車をこぎ始める。
そのスピードは、今まで優理が自転車に乗った中で最高速度を叩き出したのは言うまでもない。