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帰宅中(1)

 頼人と蓮が一緒に帰っていると、頼人の目にある二人の姿が目に入る。

 一人は優理。

 もう一人は優理の友達である江藤えとう沙希さきである。男が大好きな黒髪ロングであり、中学生の割には胸もあり、そして朱色に染まった目。雰囲気からも大和撫子に近いものが出ているのは、沙希の実家が華道の影響なのかもしれない。世の中には黒髪ビッチという生き物を存在しているが、この子だけは除外できるほどおしとやかという言葉が似合う女の子なのだ。


 ――タイミング悪いな。


 しかし、頼人は沙希よりも優理の方への意識が強まってしまう。

 理由はケンカの件もあるけれど、一番の理由は隣にいる蓮のことである。

 頼人たちは二人を追いかけるようにして歩いているため、優理たちが頼人たちの存在に気づいていない。もし、頼人一人ならばこのままフェードアウトするのだが、今回は蓮と一緒にいることで蓮が呼び止めてしまう可能性があったのだ。

 そのため、頼人は仕方なく蓮に声をかける。


「おい」

「ん。ああ、優理ちゃんと……誰だっけ?」

「沙希ちゃんだろ?」

「そうそう。前にいるな。心配するなよ、言いたいことは分かってるから」

「本当かよ?」

「オレを信じろって!」

「そこまで言うなら信じるぞ」


 屋上で悩んでたこともあり、蓮もこの状態で話しかけるのは気まずいことを悟ってくれたと思った頼人は、ゆっくりと元来た道を戻ろうと振り返る。

 しかし、その考えは蓮の策略によって阻まれた。


「おーい、二人ともー! 一緒に帰ろうぜー!」


 その声に反応した二人は案の定、頼人たちの方向へ向かい、振り返る。


 ――こいつ、全然分かってなかったのかよ!?


 頼人も仕方なく再び正面を向き、二人に近づく。いや、近づく以外の選択肢がなかったのだ。

 沙希に関しては普通の反応だったが、優理に至っては頼人が背中を向けていた理由に気づいたのか、不機嫌な表情をしている。


「お兄さん、こんにちは。今、帰りですか?」


 二人に近づくと沙希はいつものように礼儀正しく、頼人に対してあいさつをしてきた。しかし、蓮に対するあいさつはない。する様子すらなかった。


「ちょっ、オレに対する言葉は?」

「え? ああ、見えませんでした。すいません」

「ひどっ!」


 蓮への反応はかなり冷たく返す沙希。

 理由はもちろんロリコンに対する警戒心からである。


「お兄ちゃん、忘れ物でもあるんじゃないの?」


 沙希とは反対に、頼人へ冷たく接したのは優理だった。言葉の端に棘のようなものがあるのは断じて気のせいではない。優理からすれば、普通に接すればいいのに、と思っている証拠でもあった。


「いや、大丈夫。そこまで大事なものでもないし……」

「ふーん。そっか」

「なんだよ?」

「別に」


 沙希は頼人と優理の会話を聞いて、困ったような笑いを出していた。

 その様子から頼人は、優理がケンカの件を沙希に愚痴っているな、と気づく。が、それは頼人も蓮に対して教えてしまっているため、どうこう言える立場ではなかった。というより、最初から言うつもりもない。


「相変わらずだなー、優理ちゃんも」


 その場の空気を壊すように蓮が優理に話しかける。

 優理は蓮の言いたいことが分からず、首を傾げながら、


「何がですか?」


 と尋ねざるおえない状況になってしまう。


「なんていうかさ、こいつが嫌になったんなら、オレん家でも来る? 厚いおもてなしするぜ?」

「え?」

「へ?」


 優理と沙希が間抜けな返事を漏らす。

 頼人は反応することに疲れ、無表情で三人の様子を見守ることに決めた。バカだろ、と思っていたのは言うまでもなく本音。


「優理ちゃん、こんな変態の家に行ったら駄目だよ?」

「うん、分かってる。どんなことされるか、分からないもんね」

「ねー、本当に飢えた獣みたいで気持ち悪い」

「江藤ちゃん、それは言い過ぎじゃない?」


 さすがに沙希の言葉にちょっと傷ついたのか、蓮が二人に突っ込みを入れる。

 しかし、二人は気にした様子も見せず、本人の目の前で毒舌は加速していく。


「何か言ってるよ? 優理ちゃん、どうする?」

「んー、一応、お兄ちゃんの友達だから、それなりの対応で今後接しようと思ってる」

「大変だね。お兄さんはかなりいいのに……」

「そうだよね。妹の優理からしてもお兄ちゃんは理想だと思うよ?」

「ほらー、そうやって勝手にのろけ始める。お兄ちゃん自慢しなくていいよー」

「ごめんね。でも、ほら、優理ってブラコンだしさ」

「あ、それで、まだ何か用ですか?」


 蓮に向かって、沙希が冷たく追撃を放つ。

 さすがの蓮も何も言えず、俯いていた。いや、少しだけ涙目になっており、恐怖に満ち溢れた顔へと変わっていたのだ。

 頼人はこの顔を知っている。

 なぜなら、蓮が姉にボロボロに言われ続けていた時に浮かべていた表情だったからだ。つまり、優理と沙希の発言でそのトラウマが発動してしまったのだろう。


「ちょっ、おい、蓮。大丈夫か?」


 さすがの頼人も心配になり、声をかけると、


「……頼人のバカヤロー!」


 と、なぜか頼人が悪く言われたのち、蓮は全力疾走でその場から逃げだしたのだった。

 残された三人は、その後ろ姿を呆然と見つめることしかできず、しばらくの間沈黙が訪れる。


「俺、関係ないんだけどな」

「だね、なんでお兄ちゃんの名前なんだろ?」

「きっとお兄さんが羨ましいんだと思いますよ? 大沢先輩も顔はかっこいいから、普通に接してくればいいのに。ただロリコンって知ってますから、警戒はしますけど」


 沙希は冷静に判断したのち、少しだけ蓮を褒めて、かなり残念そうに息を吐いた。

 その意見に頼人も優理も同意見だった。

 蓮は間違いなくロリコンとそれを隠すこともないような発言のせいで、イケメン度が間違いなく減少している。そのことは頼人も前から言っているのだが、蓮は聞く耳を持たず、「我が道を行くのみ」と言っていた。完全に自業自得なので、どうしようもできない。


「そのことをあまり口外してやらないでくれな?」

「分かってるよ。さすがにお兄ちゃんの友達を売る真似なんてできないから」

「もちろんです。でも、だいたいの人は知ってますけどね」


 優理と沙希は頼人の言葉に頷くも、沙希の発言により、やはり知っていることが多いことを頼人は実感させられてしまう。


「ったく、俺と一緒に素直に逃げればよかったのに……」


 余計なことしやがって、と言わんばかりに頼人は小さく呟いた。


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