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夜空の下で二人(2)

 アミナは急に「あっ」と声を漏らす。

 その声に、頼人も自然とアミナを見つめてしまう。


「そう言えば、まだ説明してないことありましたよね?」

「そうだっけ?」

「ほら、気になってたじゃないですか!」


 アミナはそのことを思い出してほしいらしく、頼人に促す。

 しかし、頼人は思い当たるものがなかった。というより、ケンカの印象が強すぎて、前後の事を多少忘れてしまっていたのだ。


「すまん、思い出せない」

「そうですか。ケンカの後なんで仕方ないですね。剣仕について、ですよ」


 そう言われて、頼人も「あー」と声を出しながら手を叩いて、思い出したことをアピール。


「それか! そういや、気になってたな。って、優理いないけど説明しても大丈夫なのか?」

「それなら問題ないですよ。こちらは頼人さんに関係がある話ですし」

「俺に?」

「はい。頼人さんに渡す剣のことですから」

「そういうことか。じゃあ、改めて剣仕ってなんなんだ?」

「剣仕というのは、字で書く通り、『剣に仕える存在』という意味なんですよね。能力的な話をしますと、頼人さんに渡す剣はかなり力の強いものなんです。選ばれし者にしか使えない的な感じの」

「え、それって大丈夫なのか?」


 頼人はアミナの発言に少しだけ不安になってしまう。アミナの今の説明を聞いていると、使えないことが前提のような言い方だったからだ。

 アミナは頼人のその反応を待っていたように、


「最後まで聞いてくださいよー」


 なんて笑みを浮かべて、説明を再開し始める。


「大丈夫ではないです。ただ、本格的に使うためには、その剣を頼人さんの魂に馴染ませないといけないのです。馴染ませるという行為に至っては渡すときに改めて説明しますけど」

「大丈夫じゃないのに、どうやって――」

「元は勇者様の剣ですから、使えないはずがないんですよ。魂の波長が一緒ですが、ちょっとした違いのせいで最初から上手く使えないってだけですから。そこで、あたしの出番なんです。剣を制御して、頼人さんが扱えるようにする。それがつまり剣仕としての仕事ですよ」

「なるほどな」

「あ、もっと簡単に言うなら剣の精霊みたいなものですね! 使い魔という分類の一つってわけです!」

「名称みたいなもんか」


 頼人の問いにアミナは頷いて、肯定。

 後半、波長云々の話で頼人にはよく分からなくなってしまったが、『剣が使えるようになるまでの制御をしてくれる』と認識するだけで十分だと思い、これ以上追究しないことにした。たぶんの話になるが、これ以上追究しようものなら、もっとよく分からない話に発展しそうな気がしたからだ。


「さ、そろそろ帰るとするか」


 頼人は携帯を取り出し、時間を確認するとちょうどいい時間になっていた。

 ブランコから立ち上がり、身体を伸ばす。

 アミナもそれに同意して、ブランコから立ち上がる。


「そうですね。じゃあ、帰りましょうか」


 その言葉に頼人は少しだけ疑問が湧いてしまう。


 ――アミナはいったいどこに帰るんだ?


 確かに送るという名目で外に出たのだが、最初からその考えを排除してしまっていたのだ。なぜなら、異世界から来たアミナに帰る場所はない、と頭が勝手に判断してしまっていたから。


「悪い、帰る場所なんて、ないって思ってた。本当に送る。どこに住んでるんだ?」


 頼人のその問いにアミナはびっくりした顔を浮かべる。

 何を言ってるんですか? みたいな雰囲気さえ出ていた。


「頼人さんの家ですけど? あたしには優理さんを見守るという仕事ありますし」

「は? そんなの無理に決まってるだろ?」


 その答えに今度は頼人が驚いてしまう。

 そんな言葉がアミナから出てくるとは思わなかったからである。というより、そんなことを許可できるはずもない。

 そもそも家主は祖母の珠子であり、頼人と優理は居候に近い形で住まわしてもらっているに過ぎないのだ。

 突如、アミナは思い出したように「あーっ!」と叫ぶ。


「すいません。確かにこの姿は無理ですよね。忘れてました。これならどうでしょう?」


 アミナはそう言って、ポンッという音ともにアミナの身体から噴出した煙に包まれ、それが晴れると目の前にアミナの姿はなかった。

 正確には小学生程度の身長をしたアミナの姿はなく、手の平ほどのアミナが背中から蝶のような羽を出して、宙に浮かんでいたのだ。

 その様子を見た頼人は、『魔法によって見た目が変えられる』と言っていたことを思い出す。


「そういうことか。それなら一緒に暮らしても問題ないな」

「えへへ、すいません」


 頼人が歩き出すと、アミナも並ぶようにして付いてきた。


「きっと優理のことだから、しばらく俺とは口を聞こうともしないと思うんだ」

「はい、姫様と同じですね」

「……じゃあ、それと同じ対応をしてくれ」

「はい、分かりました」


 頼人が頼もうとしたことを察してくれたように、アミナが言ったので全部を言わなくてすんでしまう。

 それがちょっとだけ寂しい気がした。

 まるでアミナの方が、頼人よりも優理のことを知っていそうな気がしてしまったからだ。

 アミナは再び頼人の気持ちを察したのか、


「あたしは所詮使い魔ですよ? 知ってて当たり前、知らないと使えない使い魔になります。それに、この世界での優理さんは姫様と違います。だから、優理さんのことを一番知ってるのは頼人さんですよ」


 とフォローを入れてきた。

 それでも頼人はちょっとだけ複雑な気分であることは変わらず、少しだけモヤモヤとしてしまう。

 そんな会話をしている間に家が見えてくる。


「じゃあ、あたしは先に行きます」

「壁をすり抜けるとかできるわけか」

「その通りです!」

「そか。プライバシーとかは大切にしろよな? 優理、そういうの気にするタイプだから、下手したら怒るぞ?」

「分かってますよ、任せてください!」


 アミナはそれだけ言い残し、直接優理の部屋の位置へと飛んで行くと、そのまま壁をすり抜けて、優理の部屋の中へ入っていった。

 頼人は、優理の驚く声などが聞こえるかと少しだけ期待していたのだが、そんな様子は一切なく静かな状態が続く。


 ――あ、防音の結界を張れたんだっけ?


 そのことを思い出した頼人は、ちょっとだけつまらなそうに頭を掻いてから、帰宅したのだった。


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