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夢の世界

 目を開けると、そこは不思議な空間があった。

 なんてことは絶対にない。

 そこにはちゃんとした理由があるはずだから。


 ――夢に違いないな。


 横山よこやま頼人らいとがそう判断するには、あまり時間はかからなかった。

 なぜならば、景色がおかしいからである。

 よくゲームであるような、真っ暗な場所に光る水晶みたいなものが浮かんでいるからだ。しかも、その水晶の中には世界の風景の一部が表示されている。

 頼人が夢だと認識するには十分な証拠だった。

 そんな頼人の心の呟きに答えるかのように、


『正解だ、さすがだな』


 頼人の脳内に言葉が直接に入ってきたが、頼人は驚かなかった。

 それどころか、普通に返事。

 会話は脳内でも出来たのかもしれないが、会話しようとすると口が勝手に開き、言葉として発してしまった。所謂、人間の性というやつなのだろう。


「さすがって……、こんな不思議空間、そこら中にあるわけないから。そもそも、夢の中まで面倒を引き連れて来るなよ。ゆっくり寝かせてくれ」

『まぁまぁ、夢の中の戯言だと思って聞いてくれ。それより驚かないのか?』

「何に対して?」

『こうやって、訳の分からない場所に連れて来られて、脳内で会話してる事に』

「夢なら何が起きても不思議じゃないだろ? それだけだよ。それに話を聞いて欲しいなら、まずは姿を見せろって。全てはそこからだ」

『それもそうだな』


 聞こえてくる声の主は否定せず、どこからか靴の音が聞こえ始める。

 頼人も自然とその方向を見つめた。

 靴の音は反響して、この不思議空間に広がっているにも関わらず、頼人がその一点を見つめたのは、そこから声の主がやってくるという確信があったからだ。その理由を聞かれても分からない。あえて説明するならば、直感の一言。


 頼人の目に入った人物の容姿は――暗めの栗色の髪、緋色の目、頭を覗く全身を青く光っているフルプレートアーマーを身に付け、腰には剣を携えていた。

 頼人が驚きすぎて言葉が詰まってしまう。

 反対に、声の主は少しだけ面白そうに笑みを溢している。


『さすがに驚きを隠せなかったようだな。よかった、よかった。何の驚きもなかったら、つまらないからな』

『――い、いや……、普通に驚くだろうよ。ありえなくはないだろうけど、想像したくなかった現象だからさ。っていうか、なんで俺自身なんだよ!?」


 頼人が驚いた理由は、容姿が自分そっくりだったからである。

 他人の空似というには言いすぎなほど似ていた。違いは今着ている服装のみ。

 ちなみに頼人は寝間着として愛用しているTシャツにジャージ姿。

 服装の差が酷すぎて、ちょっとだけショックを受けてしまいそうになる。


『夢だから、自分自身が話しかけに来てもおかしくないと思うけどな』

「――オッケー、それで納得するしか出来ないな。それで、俺が俺に何か用か? 言い方ややこしいな」

『それは今、気にするところじゃない。ちょっと時間がないから手短に話すぞ?』

「おう」

『いつになるか分からないが、お前の世界に敵が現れる。だから、気をつけるんだぞ?』

「重要な箇所が省かれすぎて、意味が分からないんだが?」

『その理由はいつか分かるさ。そんなことは良いから、手を貸せ』

「意味が分からないんだけど?」

『いいから出せ』


 頼人は訳が分からなくて、差し出された手を掴むことを少しだけ躊躇ってしまう。

 ドッペルゲンガー。

 この単語を思い浮かべてしまったからだ。

 ドッペルゲンガーとは、自分そっくりの奴が目の前に現れると死んでしまうと言われている都市伝説の一つである。

 目の前にいる自分自身がその類ではないか、と思ってしまい、恐怖が心に生まれてしまったのだ。


『悪いな。時間がない』

「ちょっ……!?」


 頼人の手を無理矢理掴むと、夢の中の頼人の方から頼人へと向かい、光る何かが流れ込み始める。その光る何かが夢の中の頼人の方から出終わると、それを全部吸収したことを知らせるかのように頼人の全身が光っていた。

 しかし、その光もすぐに消える。


『よし、これで終了だ。すまんな、迷惑をかけるがよろしく頼む』

「だから、意味がわか――」

『色々とあるんだよ。ユリによろしく』

「優理? え? おい!」


 夢の中の頼人はやるべきことは終わった、と言わんばかりの満足した表情を浮かべ、霞むようにして消え去った。

 その空間も夢の中の頼人が居なくなると同時に水晶が消え、その場には暗闇だけが残される。瞬間、頼人は急激に眠くなってきてしまう。


 ――なんで、夢の中の俺が……妹の、優理の……心配を…………。


 意識を必死に働かせて眠気に抗おうとしたが、それは何の意味も成さず、頼人はそのまま眠ってしまった。

 そして、頼人はこのことを忘れてしまう。

 翌朝、変な夢を見たような記憶はあった。が、何を見たのかまでは思い出せず、そのまま考える事を止めた。

 いくら考えても、思い出すことが出来そうになかったからだ。


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