第9話 近未来編4
やろう。
そう決めた刹那はリーマスの座っていたイスに座って集中していた。(リーマスは刹那が座るという理由でクリスに蹴り飛ばされた)最初はただ、手を合わせるようにしてはぁー、と言っていただけだったが、効果がないと判断したクリスは集中してみてからやるのはどうかと刹那に提案した。刹那もその意見に賛成し今に至っている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
無言で目を瞑り、ただ集中する。だが、
「・・・・・・・刹那、まだか。」
かれこれ30分経っている。いい加減痺れの切れたクリスは刹那に話しかけた。
その瞬間、
「はぁ〜〜〜〜〜〜!!!」
突如、刹那は気合の声を出し、最初と同じように手を合わせた。が、
「・・・・・・・・・・・・・・・・何も起きませんね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・そうみたいだね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
何も起きなかった。つまり、失敗ということになる。
「・・・・・・・・・・・・やっぱり無理なのかな」
ふぅ、とため息をつく。三回目を信じてやっているが、いまだに何も起きない。
やる気をなくした刹那にクリスが、
「二回目も出来たんだ、三回目が出来ないわけがない。やり方を変えてみればいくかもしれない。諦めるな」
と、一喝。
{出たよ、姉さんの『やり方を変えてみよう方法』}
この方法を説明しよう。
1、やる気のないやつを説得し、もう一度奮い立たせる。
2、失敗したらやり方を変えてみようと言う。
3、出来るまで繰り返す。
以上である。
{そういえば、小学校の逆上がりもこの方法でがんばったっけな。}
昔の事。あんまりに出来ないので蹴り飛ばされた記憶がある。肋骨骨折で逆上がりは結局出来なかった。
「そうだ、武器である大剣をイメージしてみたらどうだ?」
再び新しいアイディアがクリスの頭に浮かぶ。イメージする。なるほど、新しいことだ。
「わかった。やってみる」
イメージ、そういえば大剣は黒い霧みたいなのから出来てたということを思い出す。黒い霧、黒い霧、黒い霧、
とたん、刹那の手から体から、黒い霧のようなものが、少しずつ、少しずつ、出てきた。
「!!!!!」
一同は衝撃と驚きに包まれた。しかし、一番驚いていたのは刹那自身だった。
{ど、どうしよう!どうしよう!}
しかし、パニックに陥っている間に、黒い霧は刹那の手と体に戻っていった。
「あれ?」
戻ってしまった黒い霧に疑問を覚えたが、そんなことは(とりあえず)どうでも良かった。小さい歩幅だが、一歩前進することが出来たのだから。無理だと思っていたことが、出来たのだから。
「もう少しというところだが、よくやった」
「すごいですよ、刹那さん」
「もう少しですね、でも良く出来ました」
みなに褒められて刹那は、こんなのも悪くないな、と思ってしまうのだった。しかし、喜ぶのはまだ早かった。まだ肝心な大剣が出せていないのだから。大剣を出すこと、これが絶対条件なのだからこれで浮かれてはいけないのだった。
{イメージで黒い霧が出たんだから、霧が出たの後に大剣をイメージすれば出るのかな?}
失敗するかもしれない不安と、成功したらと思う希望、二つの感情に挟まれながら、刹那は黒い霧をイメージする。
{黒い霧、黒い霧、黒い霧。}
すると、先ほどと同じように黒い霧が、少しずつ、刹那から出てきた。刹那がそれを確認すると、急いであの黒い大剣のことをイメージする。闇のような黒い色の刃、しっくりくる持ち手、おぞましい威圧感。最初に見た(感じた)大剣を鮮明にイメージする。
すると、
刹那の体の周りに浮いている黒い霧が、
あの時と同じように、
大剣の形が形成され、
刹那の手に、
あのときの大剣が、
握られていた。
+++++
大剣が出来るや、すぐに歓声が上がった。
刹那はリーマスとロックスに背中をたたかれて、うれしいやら痛いやらだった。(クリスは成功したとたんに刹那めがけてとび蹴りをしてきたが紙一重のところかわされた)
喜ぶだけ喜んだあとは、AIのいる場所の説明と手順のことについて話し合った。
AIはこの町の一番高いビルにあり、見張りのロボットはもちろん、他の戦闘ロボットも蠢いているらしい。戦闘ロボットの武器はビームソードとレーザーガン、いってみれば近距離用の武器と遠距離用の武器だ。だが、ビームは高熱なため触れただけで溶け、レーザーに貫かれるものならば、重傷はまぬがれない。そのため、刹那の出した真正面から、という案は危険すぎるという事で全員に却下された。
リーマスの出した、ばれないように忍び込むという案も、見張りもいるし、そのロボットに温度専用のセンサーがついているということでクリスに却下された。
しかし、入口は一つしかないため、どうしても正面から入らなければならない。
「やっぱり正面から入った方がいいんじゃないか?」
「だから駄目ですってば、危険ですって」
「ふぅ、何とかならないものか」
みんなが話し合っているときに一人リーマスだけが、笑みを浮かべていた。その笑みに、なんとなくむかついたクリスは、
「リーマス、蹴り飛ばされたいのか?」
空気も凍るような声でリーマスに問いかける。いつもならこれで真面目になるはずのリーマスは、
「いい方法があるんだよ」
と、笑みを浮かべながら驚きの言葉を放つ。え、と刹那とロックスは、間抜けな声を上げた。
「言ってみろ」
「はいはい、まずは温度センサーのこと。そのセンサーのついてるロボットはその見張りだけなんだよね。だったら、見張りさえやり過ごせばあとは中に入っても大丈夫、ばれる心配はない。あとはロボットの視界内に入らないようにしてAIのところまで行けばいい」
その意見にクリスはため息をつき、
「見張りをやり過ごすのはいい。だけど、中にはロボットがうじゃうじゃいる。そんな中、ロボットの目をかいくぐって行くなんて不可能だ」
欠点を指摘する。が、
「その通り。だから二人の囮役の人がいるんです」
と自信ありげに答えた。
囮役、言ってみるのは簡単だが、果てしなく危険な役である。敵にわざと見つかり注意を引く。ある意味、乗り込み役よりも危険なのである。
「まずは正面の入口にいる見張りをひきつける役に一人、もう一人は中のロボットをひきつける役の人。刹那さんは論外、ワクチンを扱えるのは僕一人、ということで・・・・・・・・・・・」
ちらと、クリスとロックスのほうを見る。その意図に気付いた二人は、
「おいふざけるな!そんなことできるわけないだろう!」
「そうだよ兄さん、すぐに殺されちゃうって!」
すごい形相で否定する。まぁ、やりたくないというのも、無理だというのも当然といえば当然なのだが。そんな反応を見るなり、
「いくらなんでも生身で行けなんて言わないよ。幸い、ロボットは足も遅い。襲ってくるとしてもレーザーガンを撃ってくるだけ。だからこれを使う」
リーマスは懐からスイッチのついた小さな箱を取り出した。緑の箱に、ピンク色に近い赤色のボタンがついていた。これをどう使えというのだろうか。
「ボタンを押すとレーザーを防ぐバリアが5秒間出る。もし、レーザーがあたりそうだと思ったらボタンを押すこと。ただし、3回しか使えない」
クリスとロックスはそれぞれ箱を手に取りまじまじと見る。唯一の防御壁、唯一身を守るための盾、この小さな箱に自分の命運がかかっている。生きるか死ぬか、全てボタンを押すタイミングにかかっている。少しでも押すタイミングがずれれば、レーザーは自身を貫通し、死に至るだろう。
「僕が中のロボットをひきつけるよ、姉さん」
クリスは驚愕した。何を言っているのかわかっているのか、と心の中で思った。
いや、わかっていて言っているのだ。正面の見張りの注意を引くのは簡単だ。見つかって逃げればそれでいい。だが、中の注意を引くのはそうもいかない。見つかっても外になど逃げれない(例え逃げれたとしても意味がない)、AIがひたすら直ることを信じて逃げ回っているしかない、うごめいているロボットをかわしながら。
それをわかっていて、だからこそ、中のほうを引き受けた。自分の姉にそんなことをさせるわけにいかない。なら自分がやると。
「ロックス・・・・・・・・・・・・・・」
なんともいえない気持ちになる。自分のために危険な方を選ぶ弟に、なんと声をかけたらいいのかわからなかった。ただ、弟が、ロックスが心配だった。
「大丈夫だよ、これでも逃げ足は速いし、ワクチンをAIにいれるのもそう時間はかからないでしょ、兄さん?」
クリスの心配をわざとはぐらかすようにリーマスに問いかけた。
「AIにたどり着くまで5分、入れるのに3分、というところだね。それだけ早くても最低8分はかかってしまう」
事実を伝える。
8分。バリアが使える時間はわずか5秒が3回、つまり15秒。耐え切れるか?いやなに、雨のようにレーザーが飛んでくるとは限らない、節約していけば大丈夫だ。
そんな算段をつけているときに、クリスはロックスに話しかける。
「無理をしなくてもいいんだぞ。私がやっても・・・・・」
しかし、クリスの心配は、
「いいって。大丈夫、足は姉さんより速いし、何とかなるから。心配しなくて大丈夫」
この確証もない言葉によって封じられた。ならばと、クリスは、
「だったら、持っていけ」
自分のもっていた箱を、ロックスに手渡した。
「だったら姉さんが・・・・・・・」
さっき自分がやられたように、クリスはロックスに言う。
「大丈夫、すぐ近くに障害物がある。レーザーガンといっても建物も貫通するほどの威力はない」
その通りである。レーザーガンといってもコンクリートや鉄を貫通するほどの威力はないのである。(大量生産は質の低下につながり、本来の効果の半分以下になってしまった)
直接当たれば死につながるが、物陰に隠れてしまえば(薄すぎると貫通する)死ぬことは免れる。
だが、ビルの中は障害物が少なく、隠れる壁も決して多くない。15秒のバリアではどうがんばってももたない。
「わかった。ありがとう、姉さん」
そのことをわかっていて、だからこそロックスに箱を渡した。30秒のバリアならもつかもしれない、と信じて。血のつながった姉弟に生きて欲しくて。
「さて、役割も決まったことですし、いきますか」
そっけなく言った。
ロックスは、リーマスの言葉にあきれ『ず』、クリスはそのことにむかつ『かなかった』。
二人ともわかっていた、一番つらいのはリーマス自身だということを。表情には出さないが、二人にはわかった。ずっと、一緒に暮らしてきたのだから、顔に出せないこともわかっていた。心の中では悲しんでいることも、わかっていた。
「うん、行こう」
そんな空気をかえるように、刹那は元気良く言った。
それを合図とし、AIのビルへと、一同は向かった。




