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第74話 魔界編9

刹那が再びやる気を取り戻し、メルゼとの訓練を再開して2時間ほど。

いい加減、刹那の体力が限界だと悟ったメルゼは今日の訓練を終わらせ、ぐったりしている刹那を横で支えながら、身動き1つ取らなかったレオと共に城へと戻っていった。


「どうだ? ちったぁ上達したか?」


メルゼが、ふとそんなことをレオに尋ねる。


「いや、悪いがさっぱりだ。突破口が全然見えん」


ふっと笑って、レオはそう返す。


「意外だな。全然不貞腐れてねぇじゃねぇか」


刹那がそうだったように、てっきりレオも同じように不貞腐れていると思っていたメルゼにしてみれば、レオの態度は意外以外の何物でもなかった。

・・・本当は何かコツを掴んだのではないのか?

そう思ってしまうくらい、レオは不敵に笑ってみせたのだ。


「変なやつだな」


「そんなことはないさ。久しぶりなんだよ、こうやって苦労するのは」


そう言って、レオはまた笑う。

似てるな、とメルゼは思った。若い頃のメルゼ自身と、そっくりだった。

無我夢中で訓練をこなしていた日々。つらくても、厳しくても、その結果が自分の力になれば、苦労などいとわなかったあの頃。限界がきた時も諦めず、ただひたすら限界の向こう側へ行こうと必死になって努力をしたのを鮮明に覚えている。・・・結果は散々なもので、結局限界を超えることなどできなかったのだが。


「はは、まぁ頑張れや。若いんだからよ、どんどん力を吸収するのもいいさ」


「あぁ、言われなくてもそうするさ。俺は、もっと強くならないといけないからな」


「目標もあんのか。ますます頑張れ」


メルゼとレオはお互いの顔を見合わせ、そして笑った。

月明かりも何もない夜道を、少しだけ離れた城が放っている光だけを頼りに、2人は歩き続けた。

・・・ちなみに、疲れでぐったりとした刹那は2人の話を聞くことも叶わず、そのままメルゼに引きずられたままだった。





+++++





城の中。3人がやってきたのは食堂である。休憩も何も取らなかった3人だが、城へやってきたことで空腹を思い出し、ここへやってきたわけだ。よくよく思い返してみれば、よくもまぁここまで補給なしでやってこれたものだと溜息が出る。


食堂の中には兵士たちがちらほらと見えており、仲間同士で会話しながら楽しく食事をしていた。ピークが過ぎ、人がほとんどいないといううまい時間帯に来ることができたらしかった。


「あ、魔王様。訓練のほうは終わりましたんで?」


「まぁな。お前らもお疲れ、こっちは気にしねぇで気軽に食っててくれ」


「あいあい、了解です」


「・・・ところでメルゼ様。そのお客人、大丈夫なので? 何だか、ぐったりしてますが・・・」


おそるおそる、兵士の1人が刹那を指差す。

指の先の刹那は非常に疲れ切っており、一時的な睡眠と覚醒を繰り返しており、うつらうつらと船を漕いでいる状態になっていた。休憩もなしにぶっ通しでやれば誰でもこうなる。加えて最後の刹那の居残り時間。限界だったスタミナを最大まで削った直後の激しすぎる訓練。気を失っても仕方がないほどの疲労を、この状態で留めているだけ大したものだ。


「ん、まぁ大丈夫だろ。飯食えば治るって。おら刹那、しっかりしろ。飯だぞ飯」


垂れている刹那の頭をペシペシとメルゼが叩く。刹那はよほど疲れたのか、ただ呻き声をあげるだけで、一向に頭を上げようとしない。無理に起こしたとしても、すぐに眠ってしまうだろう。夕食はなしで、このまま眠らせるのが一番いいのかもしれない。

問題は、誰が寝室まで連れていくかだ。レオは疲れているし、この兵士たちに頼むのも忍びない。となれば、消去法でいっても刹那を運ぶのはメルゼ、ということになる。もちろんメルゼ自身も疲れてはいるが、客人にそんなことをさせるわけにはいかない。


「仕方ねぇ、置いてくるか。悪いがレオ、飯はちょっと待っててくれや。すぐ戻るからよ」


「ん、すまないな。場所がわかってれば俺が行ったんだが・・・」


「はは、客人にんなことさせらんねぇって」


笑いながら刹那を持ちかえ、そのままメルゼは食堂を出ようとした。のだが・・・。


「あ、メルゼ様。やっぱりここにおられましたか」


ようやく見つけた、と言わんばかりに、マリアがやってきた。だが、一緒にいるはずのリリアと風花の姿が見当たらない。


「よぉマリア。嬢ちゃんたちはどうした?」


「2人とも、もう眠っていますわ。もういい時間ですもの」


「まぁな。そういえばお前、俺のこと探してなかったか?」


「えぇ、練習場に行ってからずっと帰ってらっしゃらないので、そろそろかと思ってここに」


さすが夫婦というだけあって、マリアはメルゼの行動を十分に理解しているようだった。


「それで、どちらに?」


「あぁ、刹那がダウンしちまってるから、寝室に運ぼうとしてんだ」


「まぁ・・・でしたら私がやりますわ」


さも当然、と言わんばかりに、マリアは手を叩きながらそう言う。


「は? お前、運べんのか?」


「運べますわ。それに、今日は1日中メルゼ様に刹那くんを取られてしまいましたし、1晩くらいは我が子の寝顔を見ていたいですもの」


心の底から愛おしそうに、マリアは刹那のうな垂れている表情を見つめた。長年会えなかった我が子。異世界のどこかで元気で生きてくれればそれでいいと、1度は会うことを諦めた我が子。それが目の前にいる。血こそは繋がってはいないが、それでも自分の子供だ。マリアがそう主張をするのも、親として当然の権利だった。


「あ~・・・悪かった。じゃあ頼む」


そんなマリアの気持ちを無視して、1日中刹那を独占していたことに罪悪感を覚えたのか、メルゼは大人しく抱えている刹那をマリアに預ける。マリアは本当に嬉しそうに刹那を抱え込み、そして支えた。


「見た目より重いですのね。ふふ、頼もしいですわ」


息子の成長を、自分の手で感じることができるのが嬉しいのか、マリアはそう呟いた。嬉しそうなその表情は幸せそのもので、涙をうっすらと浮かべているほどだった。


「それでは、刹那くんを連れて行きますわね。レオさん、どうぞ遠慮なさらず、ごゆっくりしてくださいね」


「はい。刹那を頼みます」


「息子ですもの、当然ですわ」


マリアはレオとメルゼに深々と頭を下げ、そのまま食道を出て行った。


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