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第73話 魔界編8

魔力のコントロールは、口で言うほど簡単ではない。一般人はその存在に気がつくこともなく一生を終えることもあるくらいだし、気づいたところでうまく操ることができないというのもざらにある話だ。


そんな中、刹那は魔力の存在に気がつき、それをコントロールして結晶である大剣を形成することに成功したわけだが、その大剣を維持したまま、技である『崩天剣』を放つというレベルになってくると、さすがにコントロールできなくなってくる。


先ほどメルゼ相手に放つことができたのも、魔力を大剣に集中する過程でメルゼが邪魔をしてこなかったから成功しただけであって、魔力の集中を邪魔されたとすれば、放つことは絶対に不可能だった。


つまり、今の刹那が『崩天剣』を放つためには、多少の時間と、敵の妨害がない状況が必要なわけだ。


こんな厳しい条件では、実戦で『崩天剣』を使うことはできっこない。強力である『崩天剣』の準備が整うまで待ってくれる敵などどこにもないのだから、そんなことは当然だ。


ならば、刹那が実戦で『崩天剣』を使うにはどうすればいいのか?


答えはシンプルだ。大剣に魔力を込める時間を短くし、さらに集中の際に邪魔されたとしても、それを継続することができればいいのだ。


上記のことが可能になれば、刹那は戦闘中に『崩天剣』を自在に使用することができるようになり、刹那自身の火力も大幅上昇するという寸法だ。


ここで最初の話に戻る。魔力のコントロールは難しい。やろうと思ってコントロールできるものではなく、じっくり時間をかけてやらなければならないものだ。


その点に関しては、神の魂を持った刹那も例外ではなく、メルゼとの訓練中に魔力を大剣に集中しようと試みるものの、攻撃を受け止めるたび大剣に集中していた魔力が分散し、再び集中しなおす羽目になる。


それどころか、大剣に魔力を集中することばかりに気を取られ、メルゼに大剣を弾き飛ばされることもしばしば。これでは、『崩天剣』を使わないほうが遥かにマシだと刹那が思ってくるのも、無理のない話だ。




「・・・・・」




メルゼに完膚なきまで叩きのめされた刹那は、魔界特有の厚い雲で覆われた空を見上げるように背を地につけ、大の字になって転がっていた。


形成したはずの大剣はすでに魔力となって刹那の体内へと戻っており、戦意はもう完全に喪失している様子がうかがえる。


長時間の訓練による疲れと、思うようにならない魔力のコントロールのせいだった。これだけやって、上達の兆しがまったく見えないとなれば、誰だってこうなる。仕方のない話だった。



「おいおい、大丈夫か」



「・・・大丈夫だよ」



メルゼの声に返事をし、刹那はむくりと上体を起こした。

精神的にも、肉体的にも、もう限界がきていることを、メルゼは刹那の表情から受け取った。



「確かになぁ、はっきり言ってちっとも上達しねぇ。

反撃と受けはちょっとずつうまくはなってきてるが、肝の『崩天剣』はまったく使えないままってきたもんだ」



「・・・維持できないんだよ。剣を受けるたびに魔力が散っちゃって、またやり直し。いい加減、やってられないよ」



はぁ、とため息をひとつ、刹那は吐き捨てるように呟いた。

それを見かねたのか、メルゼがちょいちょい、と親指である方向をさした。



「あれ、見てみろよ」



親指の先にいるのは、胡坐をかいて目を閉じているレオだった。


もうずっとあんな感じだ。刹那とメルゼが初めて剣を合わせてから今に至るまで、レオは姿勢1つ崩さず、ただひたすら目の前に浮かんでいる玩具から漂っている微量の魔力を感じ取ろうとしていた。


姿勢を継続しているということは、レオもまた刹那と同様、行き詰っているということになる。



「魔力に関することなんて、本当は一朝一夕でものにできるもんじゃねぇんだよ。

時間だってかかる、根気だっている。魔力を使って強くなるってのは、そういうことなんだ」



「・・・あぁ」



刹那は、結晶である大剣を形成するにあたって、あまり苦労した思いをしなかった。


多少なら時間がかかったものの、この1日中ぶっ続けでやった訓練に比べれば遥かに短い時間でものにできた。


力を手に入れることは時間がかかるということを学ばなかった刹那。今そのときがきているのかもしれない。時間をかけて、じっくり洗練する時が。



「強力な力をすぐ自分のものにできる奴は天才くらいだ。それも、とびっきりのな。

そんなやつはこの世にはいない。だから、俺達は努力をしてるんだよ」



「・・・・・」



「って言っても、誰だってうまくいかなきゃ不貞腐れる。

今日はひとまず切り上げるとするか。暗くなってきたしな」



「・・・いや、もうちょっとだけ、やろう」



「ん?」



「もうちょっとだけやろう。もうちょっと、だけ」



ゆっくりと立ち上がって、刹那は大剣を形成する。

先ほどまでの疲弊しきった表情はどこにもない。目にも生気が戻っている。



「・・・・・」



ふっと笑って、メルゼも剣を構えた。


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