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第72話 魔界編7

「何はともあれだ。ちょいと戦ってみるか。全力で来いよ?」

ふっと笑いながらそう言い、メルゼは魔力を凝縮し、細長い剣を形成する。

刹那も無言で黒い大剣を形成し、そしてメルゼと対峙する。

・・・レオよりも強いメルゼ。今の自分が勝てるわけがない。だから、全力を出す。やるだけやって、そして自分に足りないものを見出す。


「準備ができたらいつでもこいよ」


挑発的な態度でそう言って、メルゼは剣を肩に背負う。

・・・そこまで言うなら、こちらだって黙っているわけにはいかない。やってやる。やってやるさ。

ぐっと足にありったけの力を込め、そして刹那は余裕で剣を構えているメルゼへと突進する。メルゼの目の前に接近すると同時に体を回転させ、そして大剣を横に薙ぐ。


「おっ! そこで横薙ぎか!」


感心したようにそう言い、メルゼは肩に背負っていた剣を縦に構え、刹那の重い一撃を防ぐ。

・・・軽々受け止めるだろうな、とは刹那も思っていた。いくら重い一撃でも、所詮は未熟な刹那の力技。熟練された腕前を持つメルゼなら、止めることくらいならわけない。

だから、刹那は次の攻撃を考えていた。強引に体を前に持っていき、そして今度は縦に振り下ろす。切り返しの速いこの連撃でちょっとでも動揺を誘えたら、という防がれることを前提とした牽制の技だった。


「おぉ、っとと・・・」


瞬時に地を蹴り、メルゼは一旦刹那との距離を取る。

・・・切り返すこともできただろうに、メルゼはそれをしなかった。完全に刹那の力を見るだけの戦い方だった。


「・・・いいな、悪くねぇ、いい太刀筋だ。我流か?」


「いや、仲間に教えてもらってる」


「そゆことか。いい先生だよ、そいつは」


からから、と笑って、剣の腹を再び肩に乗せる。・・・早く向かってこいという、無言の催促だった。

やるのは今しかない、と刹那は感じていた。メルゼは油断している。刹那を格下だと思って気を抜いている。瞬時に懐に飛び込んで、そして技を放てばいい。

雷牙たちの世界で、アビスの人形に放ったあの一撃。刹那は、レナとの訓練で少しだが技を出すコツを掴んでいた。

形成した魔力の結晶に、再び魔力を送り込むのだ。そして斬る一瞬に、帯びた魔力を放つ。

何度も繰り返した行為を頭にイメージしながら、刹那は大剣に魔力を込める。・・・言葉にすれば簡単だが、一瞬でも気を抜けばたちまち結晶が解除されるという繊細な行為だ。刹那はいつも以上に冷静になり、体中の魔力を結晶に集中させる。


「ん? 何だ、そこまでできたのか。どれ、いっちょ見せてみろよ」


刹那の魔力の動きが見えているのか、メルゼは子供のように無邪気に笑いながら剣を構える。

刹那の技がどれほどのものなのか、それを知りたくてうずうずしている。まさにそんな感じだった。

・・・いいさ、それなら、見せてやるっ!!


「っつぁ!!」


気合と共に地を蹴る。

開いていたメルゼとの距離はぐんぐん縮まってゆく。

けれどメルゼは動かない。ただ剣を構えて立っている。

・・・受ける気だ。それも、全て受け流す気でいる。回避されることはまずない。

メルゼの目の前まで接近し、そして刹那は大剣を全力で振り下ろす。

それと同時に、結晶の魔力を全て解放させる。

放たれた魔力は無数の黒い風に変化し、メルゼに襲いかかる。


「っ!?」


驚愕したメルゼは慌てて刹那の大剣を受け止める。

だが、もう遅い。無数に放たれた刹那の魔力はもはや止まらない。

流星群のように降り注ぐそれは、すべてメルゼに命中していた。

当たるたびにメルゼの体は撥ね、それが1発1発の威力の高さを証明していた。


「ぐ・・・ふんっ!!」


切羽詰まったような声とともに、メルゼが剣に魔力を込める。同時に、メルゼの剣が高速で『回転』し始めた。

それを、刹那は見たことがあった。道路の工事でよく使われている、回転しながらアスファルトを粉砕する重量のある道具。それは・・・ドリルだった。

高速回転したメルゼの剣は、受け止めている刹那の大剣を容易に弾き返す。押し返す力も、技術もいらない。純粋な回転の力だけで、メルゼは刹那の大剣を退けた。


「んっく・・・!?」


予想できていなかったことなだけに、刹那は思わずバランスを崩してしまう。弾かれた大剣の重みに振り回されてしまい、無様に尻餅をついてしまう。

すぐさま立ち上がってメルゼとの距離を取ろうとするが・・・もう終わりだった。メルゼが目の前に立っていて、刹那の首元に剣を突き付けていた。剣は回転したままで、戦闘体制だってまだ解かれていない。ここから逃げ出すのも、攻撃するのも、もう無理だった。


「・・・まさか、『崩天剣』を使えるとは、思ってなかったぞ」


不意にメルゼが口を開き、そんな言葉を口にする。


「? 『崩天剣』?」


「あぁ。その技、自力で身に付けたろ?」


「・・・そうだけど、どうしてわかるんだ?」


剣の回転を止め、メルゼは剣を魔力に戻す。

完全に戦闘体制を解いた状態で、メルゼはおもむろに話し始めた。


「2世代前の王が、その技を使ってたんだ。独裁主義のやつでな、歴代最悪の王だった。

止めようにも強くてな、手も足も出なかった。この国は、やつのやりたい放題だった」


遠い目をしながら語りメルゼは、どこか寂しそうで、そして悲しそうだった。


「その最悪の状況を救ってくれたのが、天界さ。見かねたやつらが鎮圧しに来たんだ。

かなりの人が死んだが、それでようやく恐怖政治は終わりを告げた。・・・俺の爺さんの話だ」


・・・それでか、と刹那は思った。

自分の身内の過去。そしてふるまい。死んで当然な行いをしていたとは言え、

自分の祖父が殺されるということは、幼いメルゼにしてみればかなり衝撃的な出来事だったのだろう。

ふと、メルゼは刹那の目を見て・・・ふっと笑った。


「そいつの魂が、今のお前の魂さ。だからだろうな、それが使えるのは。」


「・・・そう、なのか」


ひょっとしたら、自分のメルゼの祖父のようになってしまうのか、などと思ってしまう。

悪い行いをした魂が入っているのならば、そうなってしまう可能性もあるのではないか?

そう思わずにはいられなかった。今の話を聞いただけに、なおさら。


「・・・不安がるこたぁねぇさ。問題は魂じゃなくて、肉体のほうだ。

考えるのは体だ。悪事を働くのだって体だ。お前がそうしようって思わなけりゃ、どうってこたぁねぇ」


にっと笑って、メルゼが頭に手を置いてくる。

・・・父親とは、こんな感じなのだろうか。温かくて、大きくて、頼りがいのある存在。

物心つく前に父親が他界した刹那にとって、『父親』を経験するのは初めてのことだった。


「ま、そんなことはいいか。とりあえず、お前の力はわかった。確認するが、『眼』は使えるか?」


「いや、俺は使えない。どうすれば使えるようになるんだ?」


「人それぞれ、だ。俺にはわからねぇよ」


強くならなければならないこの今の状況。戦闘の力を格段に上げる『眼』を使うことができないというのは、実に歯がゆいものだった。

レオも、雷牙も雷光も使えるのに、自分は使えない。どんどん取り残されていく感じがして、荷物になってしまう気がしてしまう。それがたまらなく、嫌だった。


「とにかく、だ。使えねぇもんを使おうとするより、使えるものをより完璧なものに仕上げたほうがいいと思わねぇか?」


「・・・そうだな。そうするよ」


メルゼの言う通りだ。使える方法をあてもなく模索するよりも、今会得している『崩天剣』を自在に操れるようにしたほうがいいに決まっている。

『眼』に関しては、開眼の方法を模索したところで身につけられるかどうかなどわからないのだから。


「そうと決まれば、だ。お前の使う『崩天剣』、そいつをスムーズに発動させることを重点的にやりつつ、反撃と受けの訓練をやる。

基礎は十分でき上がってっから、あとはお前自身がどこまで実力を伸ばせるかだ。みっちりやるから覚悟しろよ」


無言でこくりと頷き、刹那はそこでやっと立ち上がったのだった。


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