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第7話 近未来編2

暗い空の下、男は刹那の手を引いて自分の『研究所』に向かっていた。


「あ、あの〜・・・・・」


刹那が男に声を掛ける。男は満面の笑みを浮かべながら、刹那のほうへくるりと顔を向けた。


「なんですか?」


「自分で歩けるんで、手を離してもらえないでしょうか?」


なるべく相手の機嫌を損ねないように刹那は用件を述べる。男はその表情を崩すことなく、


「あ〜、すみません。ついつい興奮してしまって」


と、ゆっくりと刹那の手を離す。


「もうすぐ着きますからね」


手を後ろで組みながらうれしそうに刹那に言う。その喜びようといったらまるで子供のようで、さっきまで怯えていたというのが嘘のような喜びようだった。

男はスキップをしながら進んでいた、暗い空の下でするような行動ではなかった。刹那も遅れを取らないように小走りで男についていった。

ルンルン気分で進んでいく男をよそに、刹那は不安になってきた。それもそうである、工場が極端に多くなってきているし、道幅も狭い。こんなところを先ほどのようなロボットに不意打ちされたらやられてしまう。不安に駆られて刹那は男に尋ねた。


「あの、その『研究所』ってまだですか?」


男はやはりにっこりとした顔を刹那に向け答える。


「あれです」


男は右手の人差し指で目の前の廃ビルをさした。男は廃ビルの扉を自分で開け、中へと入っていった。もちろん刹那も続く。

入ってみると、やはりと言うか、ほこりやガラスの破片があちこちに散らかっていた。外見の様子を裏切らない見事な散らかり具合だった。

男はきょろきょろと辺りを見渡す刹那をふふ、と笑いながら奥へと進んでいった。もちろん、


「こっちですよ」


周りを見て、男が行こうとするのにも気がつかない刹那に声を掛けるのも忘れなかった。刹那はあわてて男の後ろに着いていく。

しばらく歩いていくと、ビルの入り口よりもはるかに立派で頑丈そうな扉と、すぐ横の0から9までの数字が書かれたプレートが目に入った。

男はプレートに近づいていき、なにやら慣れた手つきで番号を押した。すると、ガシャーンと音をたて、頑丈そうな扉が開いた。

男は再びスキップをして扉の中に入ったので、刹那のその後に続いた。

刹那が扉に入り、初めて目にしたものは、敷きつめられたおびただしい数のテントだった。体育館並の広さの広間に歩く隙間がないくらい、びっしりと敷きつめられていた。

不意にがさがさと音がする。音した方を見てみると、テントからぼろをまとった子供が出ようとしていた、が、すぐに手をつかまれ、中に引きずり込まれた。(親が引っ張ったのだろうか?)


「何ですか、ここは・・・・・・」


ショックを隠しきれていない声で男に尋ねる。


「・・・・・詳しいことは研究所に行ってからお話します」


男の顔にもう笑顔はなかった。

男はスキップするのをやめ、テントの間を普通に歩いて進んでいった。(おかげで小走りで着いていく必要がなくなった)

テントの一番はじにたどり着くと、そこにはまた鉄の重苦しい扉があった。しかし、番号のついたプレートがない。今度は暗証番号を押さなくても良いようだった。

男が扉に近づくと勝手に扉が開いた。


{自動ドアか}


男は平然と奥へ進んでいく。もちろん刹那も続く。

自動ドアの中にあったものは、大きなコンピュータやたくさんのボタンのついた機械だった。刹那は、こんな設備があるということに驚いたようだった。


「部外者を入れるなと言っているだろう」


不意に、奥から女が出てきて、男に文句を言った。


「そうだよ兄さん、知らない人入れちゃだめだって」


今度は男が出てきた。


「ああ、そんなに怒らないで。今日はすごい人を連れてきたんだ」


「すごい人って、その人?兄さん」


男が刹那を不思議そうな目で見る。当然だろう、見た目はごく一般の青年だ。(妙な服装だということを除けばだが)


「ああ、ぼくがp-8050に襲われたところを助けてくれたんだ。名前は・・・・・あ」


重大なことに気がついたらしい、男はまだ刹那の名前さえも聞いてはいない。


「刹那です。杉本 刹那」


瞬時の判断で男をフォローする。


「いや〜、ごめんごめん。僕としたことが、自己紹介もせずにつれて来てしまうなんて・・・・・」


男は頭を右手でかき、少し照れたように言う。


「申し遅れました、僕の名前はリーマス、ここの研究員です。こちらの女性が僕の姉さん、んでこっちが僕の弟」


「クリスという」


「ロックスって言います。よろしく刹那さん」


一通り自己紹介を終えた後、刹那はリーマスに尋ねた。


「それで、さっきのテントは何だったんですか?人が住んでいるようだったけど」


「うん、それは順を追って説明しましょう」


リーマスは近くにあったいすに腰を掛け、両手の指を絡めさせ語り始めた。


「20年前までは、この町は人間しかいませんでした。食料を作るのも、生活用品を作るのも全部手作業で、効率の悪いことばかりの毎日でした」


リーマスは少し下を向き、話を続ける。


「しかし、一人の男があるシステムを完成させました」


「私たちの父だ」


クリスが話しに割ってはいる。リーマスが少しむっとした顔でクリスを見つめるが、クリスは知らん顔をしている。

リーマスはあきらめ、話を続けた。


「そのシステム正体は、AI(人工知能)を組み込んだ機械、つまり意思を持ったコンピュータでした。父はコンピュータに物を読み取り、情報を映像化するセンサー、音声を聞き取ることのできるマイク、言語を話すための電子式の音声用機械、簡単に言えば目、耳、口を取り付け、自らの意思を的確に他人に伝えることができるようにしました。そしてそのAIは私たちの父が一から教育し、絶対に人を襲うことのないようにしました。その教育というのは・・・・」


「人と機械は同等の『生き物』である、というのを教えることでした」


今度はロックスが話に割り込んできた。リーマスはまたむっとした顔でロックスを見つめるが、ロックスは知らん顔をした。この時刹那は、この兄弟は似ていると、笑いを漏らした。リーマスはため息をつき続きを語った。


「そのコンピュータはすさまじい勢いで学習していき、ついには人をも超えるほどの知能を身に着けました。その時期を見計らって父はあることをコンピュータに教えました。それは・・・・・」


「「基本的な機械の構造と製造方法および複製の方法」」


妨害したのはクリスとロックス。息がピッタリで、言うタイミングも同時だった。

リーマスはさらにむっとした顔で二人を見つめる。二人はというと、肝心なところを言って満足したらしい、笑顔を浮かべていた。

リーマスは残念そうに続きを話す。


「そのことを覚えたAIはたちまちある機械の作り方を紙に書き、私の父に見せました。それは人型のロボットの設計図でした。父はすぐさまそのロボットの設計に取り掛かり、三日で完成させました。それを足がかりに、AIはさまざまな機械やロボットを設計していきました。ロボットの製造機械や無限にエネルギーを作り続けるタンク、農作業に必要な機械から生活用品製造の機械まで、様様な機械を作り続けました。AIの設計したものには一切ミスがなく、機械による事故やロボットが起こす事件などは絶対に起きませんでした」


そこまでの話が終わると、リーマスはふぅとため息をつき、今までの話では見せなかった表情、昔の栄光を思い出すような、そんな顔をして話を続けた。


「さまざまな機械を作っているうちに、AIは人と機械の関係をより友好的なものにしていきました。環境問題も新しく作った機械でどんどん解決していき、人にも自然にも優しい社会を築いていきました。AIは人を愛し、また人々も、人のため、自然のため、そして社会のために尽くし続けるAIに好意を抱きはじめていきました。その姿はまさに機械と人間の理想郷でした。父も、その光景に満足して亡くなりました」


と、リーマスの表情が180度がらっと変わり、悲しい顔をして再び語り出した。


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