第66話 魔界編1
刹那たちはベースキャンプにて、お互いに世界のことを報告しあっていた。
「・・・今回は、お互い納得のいく結果にはならなかったみたいだな」
レオがそう言うと、一同は俯いてしまった。当然だ、お互い納得のいく結果ではなかったのだ。無駄に人の命を失ってしまうという結果を、喜べるわけなどない。
しばらく沈黙が辺りを包み込んでいたが、それを振り払うようにレオが再び口を開いた。
「またくじ引きで組を決める。こうしてる間にも被害が大きくなってるかもしれないからな」
そう言って、レオは前に決めたときのように木の枝をそれぞれに差し出した。決まった組は、以下の通りだ。
第1組、刹那、レオ、リリア、風花。
第2組、雷牙、雷光、レナ、風蘭。
うまく戦力は分散できた、が。刹那はまたしてもレナと離れてしまった。それが何だか残念でならない。・・・・・理由は、わからない。ただなんとなくそう思っただけで、特に意味はない。
「よし、今回はこの組み合わせだ。・・・みんなうまくやれよ。今度こそ、誰も犠牲者を出さないようにだ。これ以上『罠』に好き勝手やらせるわけにはいかないからな」
一同はレオの言うことに強く頷き、異次元図書館へと向かったのだった。
+++++
どんなことがあっても後ろを振り返るな
何が何でも前を向いていろ
誰にも負けない強い心と勇気を持て
・・・大丈夫、お前ならできるさ
なんたってこの俺様の息子なんだからな
刹那たちが向かった世界は、何だか薄暗い世界だった。辺りは何だか知らないが荒れ果てていて、所々地面が抉れているのが妙に目立つ。
植物は木どころか草もほとんど生えていなかった。あるといえば、岩の下のほうにくっついている緑色の苔くらいだ。この荒れ果てた様・・・この世界、もしかして・・・。
「・・・レオ。もしかして、もう手遅れだ、なんてことないよな?」
恐る恐る、レオにたずねる。レオはふっと笑って、心配している刹那に言った。
「それはなさそうだな。見ろよ」
レオが指差した方向には、大きな町があった。その町に人がたくさん住んでいる、ということは、ここまで聞こえる活気あふれる人々の声からすぐ理解できた。
刹那はほっと胸を撫で下ろし、安堵のため息をついた。・・・実に心配症の刹那らしい行動だった。
「それじゃ〜、この世界ってもともとこんな感じだってこと〜?」
「断定はできないがな。とりあえず、行ってみれば全部わかるだろ」
「楽しみですね、どんな町なのかな?」
にこにこと、笑顔で言うリリア。好奇心旺盛の血が騒いでいるのだろうか? またあちこち引っ張りまわされなければいいのだが・・・・。
とりあえず、刹那たちは町へと向かうことにした。リリアがもう町に向かう、ということを前提に歩き出している、ということもあるが、何よりも情報を集めなければ『罠』の存在も確認できない。情報が今一番刹那たちに必要なものなのだ。
リリアを先頭に、刹那たちは町へと歩き出した。町までの距離はそんなになかったから、2、3分で町の入り口へ辿り着くことができた。入り口には、大人の背丈ほどもある大鎌を担いだ門番らしき男が2人立っていたが、旅人です、食料を調達したいので通してもらえないでしょうか? のような嘘をつけばすんなり通してもらえるはずだった。・・・・・が、その予想は見事に裏切られることになる。
「き、貴様・・・・!! なぜ『神族』がここに?!」
「攻め込んできやがった!! くそったれ!!」
男2人が顔を紅潮させ、レオとリリアにかかってきた。まさかいきなり問答無用にかかってこられると思ってもみなかったレオは、きょとんとして動けないでいるリリアを抱き、とっさに男2人から距離をとった。
男の1人が振り下ろした大鎌が、レオの髪の毛を掠った。・・・・・こいつ、本当に殺す気でかかってきている。距離をとっていなければ、大鎌が脳天を貫いていただろう。めんどうなことになったな、とレオはため息をついた。
「お、おいあんたら! 早くこっちに来い! 殺されるぞ!」
「おい待て! 1人は魔族じゃないぞ!」
「神族じゃなけりゃいい! とにかく、早く神族のやつを殺さねぇと!」
男たちはそう言うと、刹那と風花には目もくれず、レオとリリアに襲い掛かっていった。・・・・・おかしい。なぜこの男たちは刹那と風花を狙わず、レオとリリアだけ狙っているのだろうか?
そういえば、神族とか魔族とか口にしていたような気がする。言葉から察するに、おそらくレオとリリアが『神族』だから、という理由で殺しにかかっているのだろう。・・・冗談ではない。なぜそんなくだらないことでレオとリリアが殺されなければならないのだ。
「おい! あんた達! 止めろよ! その2人は俺たちの仲間なんだよ!」
たまらず、刹那が横から口を出す。その必死な声が耳に入ったのか、男たちは顔を向けずに言った。
「んなわけねぇだろ! 何で敵が仲間なんだよ!?」
「お前たち、騙されてるぞ! 殺されちまうぞ!」
「だ、だから何でそうなるんだよ!」
もう、男たちは刹那の言葉に耳を傾けるつもりはないようだった。刹那の言葉を無視し、男たちは再びレオとリリアに襲い掛かっていった。
「リリア! しっかり抱きついてろ! 絶対力を緩めるな!」
「は、はい!」
レオの言うとおり、リリアはレオの首にぎゅっと精一杯の力でしがみついた。さらにレオがリリアの腰に手を回して固定する。これで多少激しく動いても大丈夫なはずだ。あくまで力を緩めなければ、だが。
男たちとレオとリリアの距離は次第に縮まっていき、やがて男たちの持っている大鎌の射程圏に突入した。間髪いれず、男たちは同時に大鎌を振り下ろす!
「っちい!!」
「きゃ・・・・・!」
寸前のところで大鎌を回避し、レオは後ろに跳んで再び距離を取った。
普通ならば、レオのホルスターに入っている神爆銃で足を撃ち抜き、戦闘不能にしてしまうのだが、そうするわけにはいかない。この男たちは操られているわけでも、『罠』による敵でもないのだ。下手に傷つけることなどできない。
だが、いつまでもこうして避けているわけにもいかないだろう。正直、この男たちは戦闘に慣れている。大鎌を振り下ろすスピードを見ればわかる。かなりいい腕だ。今は何とか回避できているが、どれくらい持ちこたえられるかわからない。
それに、回避しているだけでは何の解決にもならない。ここでやり過ごすことができたとしても、結局町に入ればまた同じことを繰り返さなければならなくなってしまう。つまり、情報収集をして、この世界に仕掛けられている罠の有無を確認できない、ということになる。
「ど、どうしよう!? どうすればいい、風花?!」
「う〜ん・・・・・とりあえず、話し合わないといけないと思うな〜。兵隊さんの武器を壊しちゃう、とか〜」
相変わらず間延びした口調だが、風花の表情は真剣そのものだった。この状況がマズイ、ということを風花もわかっているのだろう。
風花の案を聞いた刹那はこくっと一度だけ頷き、意識を集中させ黒い大剣を形成した。
レオは男たちの攻撃を避けるので精一杯だ。リリアがいるため、攻撃に移ることができない。つまり、男たちの武器を破壊することができない。
だったら、刹那がやるしかない。幸いなことに、男たちは刹那を傷つける気は全くないため、刹那にまで気を配ってなどいない。うまくやれば、何とか武器を破壊できるかもしれない。
勝負は一瞬。男たちに気づかれれば、おしまいだ。できるだけ速く近づき、一瞬のうちに大剣を振るって武器を破壊する。・・・やれる、やってみせる。
ぎゅっと大剣を握り締め、刹那は肉体強化を施した足で思い切り地面を蹴った。