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第64話 操り人形編4

「!?」


「くそったれ!! 遅かったか!!」


レオと雷牙がその現場に到着したときにはすでに遅かった。自分たちを襲ってきた男が、パートナー目掛けて銃を構えていて、そのパートナーは地面に倒れて大量の血を流していた。そして、その後ろには見覚えのある姿が、アビスの姿があった。

アビスはやってきたレオと雷牙に気がついたのか、仮面を向けて言った。


「ン? あァ、君カ。ちょッと遅かッたネ。もウその子ハ死ンじャッたよ?」


「てめぇ!! アビス!!」


雷牙は怒声を上げるが、アビスまるで動揺しない。むしろ、激昂している雷牙の反応を見て楽しんでいるようにも見えた。

レオは腰のホルスターから銃を抜くと、静かに、しかし目には怒りの炎を灯しながらアビスに尋ねた。


「・・・聞きたいことがある。お前がこの世界の罠か?」


「ン? そッちノ人は初メましテだネ。ソの通リ、僕ガこの世界ノ罠だヨ」


「・・・その女はお前がその男に殺させたんだな?」


「うン、そうサ。僕ガやらセた。どうシてワかッたノ?」


「男の体から光の糸が出ている。そして、その糸はお前の人差し指に繋がっている。お前がやらせないで、一体誰がやらせたというんだ?」


「くフフフフフ、ちょッとワかリやすかッタかナ?」


アビスは両手の指をレオと雷牙に見せ付けるように広げ、指の先から光を纏った糸を出して見せた。ただ、両方の手が同じ糸というわけではない。右の指、つまり男と繋がっている指のほうは黒っぽい光だが、左の指は白っぽい色をしている。


「これガ、僕ノ結晶サ。右手ノほウの糸ハ神経ニ電気信号ヲ送ッて無理矢理自分ノ脳内で思ッた通リの動キをさセることガ出来ル。タだ、こッちハ人間とカ動物トか、生きテる物ニしか使えナい。物体にハ神経ないカらネ。左手ノほウの糸ハそうイう物体ヲ直接操るこトが出来ル糸サ。例えバ、ほラ・・・・・」


アビスは左手の指の糸を近くの瓦礫に伸ばして繋げた。それを確認したアビスが指をくいっと曲げると、かなりの重量があるはずの瓦礫がいとも簡単に持ち上がった。


「こウいうこトが出来ルんだヨ。でモ、糸1本じャこの程度ノ重量が限界だネ。5本繋げレばもッと重イ物が持テるシ、操りノ精密度も上がル。ドう? 理解しタ?」


「・・・・・とりあえず、お前の能力はとんでもなく卑怯なものだってことはわかった。赤の他人を自分の都合で操って、自分は影でこそこそして戦いを面白半分で見物するっていう姑息な能力だってことはな」


言うと、レオは神爆銃の銃口をアビスに向けた。弾丸はもう装填されている。あとは引き金を引くだけで、弾丸はアビスの脳天目掛けて飛んでいく。


「覚悟はいいな?」


そう言うと、レオは何のためらいもなく引き金を引いた。許せない、こいつは絶対に許せない。その怒りの感情が、レオの人差し指を動かした。


「くフフフフフフ」


「!? 何ぃ!!?」


だが、それが間違いだったということに、レオは気が付く。レオが弾丸を放った瞬間、アビスは男と糸が繋がっている指を動かし、男を自らの盾として弾丸を受けさせたのだ。


「ぅ、ご・・・が・・・・・」


命中部分は腹部、それも限りなく心臓に近い位置だ。神器から放たれた結晶を、生身の人間が耐えられるわけがない。弾丸はまるで粘土でも貫通するかのように易々と男の体を貫いていた。もちろん、アビスへのダメージは皆無。当然だ、当たっていないのだから。


「き、さま・・・・!!」


あまりの怒りに、言葉がうまく出てこなかった。自分が浴びるはずの弾丸を、無関係な男に受けさせ、それを見て笑っている。ふざけるな、こんな手があるものか。操っている男が苦痛で表情を歪めているのに、自分は平気な面をして、まるで劇か何かを楽しむかのような余裕を見せている。・・・・・こいつ、本当に血が通っているのか? 温かい血の通っている人間なのか?

怒りを露わにしているレオの様子を見て、アビスは笑いをこらえるようにして言った。


「何ヲ怒ッていルんだイ? そノ男ヲ傷つケたのハ僕じャなイ。君じャなイか。そレを一方的に僕ノせイにしないデもらイたいネ」


「てめぇ、よくもいけしゃあしゃあとッ!! てめぇが盾に使ったんだろうがッ!!!」


「くフ、でモ傷つケたのハそッちじャないカ。僕ガやッたわけじャなイ」


「う・・・・・あが・・・・・」


男は表情を歪めて苦しんでいた。傷口からは大量の血が出ており、男の顔もだんだん青ざめてきたように感じられる。操られていて身動きがとれないため、傷を圧迫して止血することもできない。

操っている本人であるアビスを倒せば問題ないのだが、おそらくどう攻め込んでいっても男を盾に使い攻撃を逃れようとするだろう。どんな攻撃をしても、男は確実に傷ついてしまう。一体、どうすればいいのだ・・・・・・!!

必死に考えるが、怒りで熱くなっているレオの頭ではいい考えなど浮かばない。落ち着かなければならないということはわかっているのだが、どうも頭に上った血がそれを邪魔する。早くアビスを倒さなければならないのに、その焦りが、レオの精神に揺さぶりをかける。


「くフフフフ。どうシたノかナ? 早く僕ヲ倒サなイと、こノ男ガ死ンじャうヨ?」


「この、下種野郎・・・・・!!」


打つ手がなく、そのまま2人は立ち尽くすしかなかった。苦しんでいる男を救うことなどできず、どうすればいいかを考えていることしかできなかった。それを見て、アビスは笑う。心の底から、本当に愉快そうに、嘲笑う。


「・・・下がってろ」


そのとき、大量の血を流し、激痛に苦しんでいる男が、腹の底から搾り出すように言った。男の言葉には重みがあり、死ぬ覚悟を決めたような、そんな感じの声だった。

言われたレオと雷牙は男の言葉の意味が理解できなかった。下がっていろ、ということはつまり、危険が及ばないよう自分から離れていろ、ということだ。何の危険かは、おそらく男の攻撃によるものだろうということは簡単に予想がつく。・・・それがおかしいのだ。

男はアビスの糸に捕らわれている。身動きどころか、指1本たりとも動かせないはずのに、レオと雷牙を巻き込んでしまうような大規模な攻撃ができるわけがない。

その考えはアビスも同じようだった。首を横に傾け、疑問を抱いているようなポーズを取る。


「? 一体何ヲするつモりだイ? そんナ動けナい体でサ」


「・・・・・動けるさ、動いてみせる」


「動いテみせル? はハは、そンなこト無理ニ決まッいルじャないカ。神経ニ電気信号ヲ流しテ強制的ニ操ッているンだヨ? 動けルわけ・・・・・!」


アビスは、驚きのあまりそれ以上言葉が口から出てこなかった。なぜならば、絶対に動けるわけがないと思っていた男が、ゆっくりとだが、アビスのほう目掛けて歩いてくるのだ。手に・・・・・手榴弾を持って。


「道連れだ・・・・・。死なばもろともってやつだ・・・。貴様だけは、貴様だけは、絶対に許さん・・・・・。ここで、始末する」


「・・・・ッく、言うコとを聞かナい。でモ関係なイ、1本じャ駄目だッたラ増ヤすまでダからネ」


そう言うと、アビスの残りの4本の指の先から新たな糸が伸びてきて男の体にくっついた。男にくっついている糸は全部で5本。つまり、男にかかる負担は5倍に膨れ上がる。

男は腹部に風穴が開いている。体力的にも、そして糸の本数的にも、もう動けるわけがなかった。素直にアビスの人形になるしかなかった。・・・でも、


「!? なゼだ? なゼ動けル? 糸ガ5本も絡ミ付イてイるのニ、何で動ケる?!」


「・・・知るか」


男は盾となるようにアビスの近くにいたため、アビスが手榴弾の射程圏に入るのにそう時間はかからなかった。あとはピンさえ抜けば・・・・・吹っ飛ばせる。こんな大惨事を引き起こしたアビスを粉々にできる。だが、そうなったら男も無傷ではいられない。もちろん、死ぬ。


「レ、レオ!! どうする!!」


「今考えてる!!!」


自分が走って男から手榴弾を取り上げようとしても、もうこの距離じゃ間に合わない。むしろ、もっと離れなければ被爆してしまうくらいの距離だ。

アビスを撃って男より先に殺すことも考えたが、男がちょうど邪魔になっていて撃てない。少し動いてアビスだけ狙ったとしても、たぶん無駄だ。避けられる。

・・・色々考えたが、駄目だった。もう男を救う手段はない。


「こウなッたら、離レるしか・・・・・」


「させねぇよ・・・」


男はアビスの腕を掴み、逃げられないようにした。男の握力は死ぬ寸前だというのに全く衰えておらず、アビスは振りほどけない。

にやっと笑い、男は口で手榴弾のピンを取った。


「は、離セ!! 離すンだヨ!!」


「・・・やなこった。言ったろ? 貴様だけは絶対に、許せんと・・・。許さん・・・、貴様だけは、この俺が死なす・・・。サリアを殺したお前だけは・・・・・!!」







手榴弾が・・・・・光った。







「レオ!!」


「くそったれ!!」


慌てて飛び退いた瞬間、すさまじい爆音が聞こえてきた。同時に、激しい爆風が辺りの瓦礫を吹き飛ばす大爆発が起きた。レオと雷牙も瓦礫に混じって吹っ飛び、辺りの炎さえも吹き飛んだ。瓦礫が砕け、粉塵が辺りを舞った。

しばらくして粉塵のせいで見えなくなっていた視界も落ち着き、レオと雷牙は立ち上がって辺りを見渡した。・・・ひどいものだった。本当にあんな小さな鉄の塊1つでこうなったのか? と思うくらい、辺りの瓦礫は粉々になっていて、男とアビスがいたであろう場所は路面が抉れて土が露出していた。・・・こんな破壊力のある手榴弾の近くにいた男とアビスは、十中八九粉々になっているだろう。生きているなんて、絶対にありえない。


「・・・終わった、のか?」


「・・・たぶんな。一番、俺の気に入らない終わり方だ」


被害にあった男1人助けられず、自分たちは何も出来ず、挙句の果て男の自爆という形で幕は閉じられた。・・・誰かが犠牲になって終わる。レオはこんな終わり方が大嫌いだった。

辺りは静かで、何も聞こえてこなかった。さっきまで燃え上がっていた炎も消え、騒ぎが起こる前の静けさを取り戻していた。

その静かな空気を、1つの声がぶち壊した。粉微塵になって死んだはずのあいつの声が、静寂をぶち壊した。


「・・・危ナかッた。左手ノ糸を総動員さセて無理矢理引ッぺがシてなかッたら、間違イなく死んデたヨ」


「な、に?!」


「生きていただと!?」


アビスの、声だった。男が自爆して、命をかけて殺したはずのアビスの声が、空から降ってきた。

アビスの左手の糸は、右手の神経信号を出す糸とは違い、物理的に物にくっついて動かすことができる。先ほど1本の糸でかなりの重量がある瓦礫を持ち上げるほどの力を持った糸を5本も使い、男を強引に引き剥がしたのだ・・・! 男の死は・・・・・まったくの無駄死にだったのだ・・・・!!


「でモ、腕1本と足1本ハ吹ッ飛ばサれたからネ、今日ノ所は引キ上げさせてモらうヨ。じャあネ、バイバイ・・・・・。ウフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ」


神経を逆なでする笑い声を最後に、アビスの声はしなくなった。


「出てきやがれッ!! これだけのことやっといて逃げんじゃねぇよッ!!! あぁ?!」


雷牙の声は虚しく木霊し、アビスの声はいつまでたっても返ってこなかった。・・・逃げられたのだ。これだけのことをやらせておきながら、逃がしてしまったのだ。


「クソ野郎がぁあああああああああああああああああああ!!!!!!!」


雷牙は激昂し、腹の底から怒声を上げた。何もできなかった無力さと、みすみす人を死なせてしまった怒りの混じった声で、喉から血が出るくらい思い切り叫んだ。まるで、怒り狂った獅子のように。

レオは、食い破って血が出るほど強く唇をかみ締め、必死に自分の感情を押さえつけていた。押さえつけなければ、永遠に冷静でいられなくなるような、そんな感じがしてならなかったから。


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