第62話 操り人形編2
散々話し合った結果、明日に町で話しを聞きこみ、何も情報が得られなかったらこの世界を去ろう、ということになり、レナと風花は隣の部屋へと戻っていった。
「ふぁ〜・・・・・・。夜になると、何もしなくても眠くなるぜ・・・・・」
大きな欠伸をして、雷牙はベッドに潜り込んだ。そんな雷牙を見て、レオは呆れたように言った。
「おいおい、俺たちは図書館の世界が昼のときにこの世界に着いたんだぞ? 寝るのにはまだちょっと早くないか?」
「んなこと言ってもなぁ・・・・・。日が落ちると自然に眠くなるんだよ。それによ、朝にならなきゃどうせ俺たちは動けねぇんだろ? だったらやっぱり寝るしかねぇじゃんか」
「・・・・・まぁ確かにそうだがな」
「だろ? んじゃ、そういうことで俺は寝るぜ。おやすみ〜・・・・・」
「・・・・・呆れたやつだな」
レオがそう言ったその瞬間だった。
ゴォォオオオオオオオン!!!!!
爆薬か何かで爆破し、建物が崩れ落ちるような轟音が町中に響き渡った。・・・・・こんな音、普通出ない。意図的にやらなければ絶対起きない音だ。何かあったに違いない。そう思い、レオは窓から町の様子を窺った。
「・・・・・っち、やっぱりこの世界にもいやがったか」
すでに、町は火の海だった。先ほどまで物静かな町だったと言うのに、こんな短時間のうちに変えてしまうことに驚かされる。警護が回っているというのに関わらず、見つからないままここまでやるなんて、並大抵のやつにはできっこない。十中八九『罠』の仕業だろう。・・・・・今回の罠は相当の『やり手』だ。このまま何もしなければ、きっと町はもっと酷いことになる。せめて、これ以上の被害が出ないように防がなければ・・・・・!
「おい、雷牙!! 起きろ!!」
「んぁ・・・・・? もう朝か?」
「何寝ぼけてんだ!! 戦闘だ!! とっとと起きろ!!」
『戦闘』の単語が耳に入ったせいか、雷牙はぱっとベッドから起き上がり、枕元の小さなテーブルから神裂爪・龍を手に取り、5秒もかからない速さで装着した。・・・どうやら、寝起きは悪くないらしい。
「いつでも行けるぜ」
「よし。あとはレナと風花だが・・・・・来たか」
そう言った瞬間に勢い良くドアが開けられ、戦闘準備を済ませたレナと風花が入ってきた。
「敵だよね? どうする?」
「やっぱりぃ〜、罠ぁ〜?」
「たぶんな。それじゃあ役割分担だ。風花とレナは町の負傷者の治療を頼む。俺と雷牙は罠を撃破する。何か質問は?」
レオがそう言うと、レナが手を上げて言った。
「私も戦えるけど、どうする?」
「そうすると、風花を守るやつがいなくなる。罠が俺と雷牙とすれ違いになって、無防備な風花を攻撃されたらアウトだからな。それに、レナは魔術を使って回復させることができるだろう? たぶん、今回は負傷者がかなり多い。そう意味でも、レナには治療班に当たってもらった」
「わかった」
「もう質問はないな? よし、それなら俺と雷牙は罠を討伐に向かう。2人とも、頼んだぞ」
そういい残し、レオと雷牙は部屋を出た。・・・・・これ以上、罠に好き勝手させるわけにはいかない。早く撃破しなければ・・・・・。
「雷牙君〜」
「ん? 何だ?」
雷牙が部屋を出る寸前のところで、風花が口を開いた。何だろう? と、雷牙は振り返る。
「怪我しないようにねぇ」
「・・・・・おう」
そう言って、雷牙は今度こそレオと罠の討伐へと向かった。
「それじゃ、私達も頑張りましょうか。たくさん怪我人がいそうですし」
「うん〜。あぁ、それとねぇ〜」
「はい?」
「敬語止めてねぇ〜? 慣れなくてぇ〜」
「・・・わかった。それじゃ行こ、風花」
「うん〜」
+++++
どこにいるかわからない敵をでたらめに探すよりも、勘が人一倍優れている雷牙に任せるほうがよっぽど見つけるのが早い。迅速に敵を撃破しなければならないこの状況の中、雷牙の勘に頼るのは当然の判断だった。
「雷牙!! 敵の位置は?!」
「あっちだ!! あっちにいる!!」
レオの期待通り、雷牙の勘は恐ろしく冴え渡っており、すぐさま撃破すべき敵の位置を察した。しかし、いくら勘が冴えているといっても、敵が何体いるのか、どんな敵なのかまでは、直接視認するまでわからない。
雷牙の言う方向へしばらく走り続けていた2人だが、レオがしびれを切らして叫ぶようにして雷牙に聞いた。
「くそッ! まだか?!」
「まだだ!! そんなにカッカすんじゃねぇ!!」
レオがあせるのも無理はない。今移動しているこの瞬間にも、どんどん犠牲者は増え続けている。先ほどまで静かだったこの町を、数分で火の海にした『罠』を、一刻も早く撃破しなければならない、という思いが、常に冷静沈着のレオの精神を乱していた。
「ん?!」
「どうした雷牙!! 敵か?!」
「違う!! 人だ!! 人が倒れてる!!」
雷牙の指差した方向には、1人の男性が倒れていた。腹を押さえ、微かに呼吸をしている。・・・生存者だ。
レオと雷牙はすぐさま倒れている男性に近寄り、腹の傷に障らないようにそっと抱き起こした。
「おい、大丈夫か! 何があった!」
「は、反逆だ・・・・・。見回りのやつらが、裏切りやがった・・・・・。町に火を点けて、たくさん人を切り捨てた・・・・・。くそ、何でだ・・・・・、全然そんなことするやつらには、見えなかったのに・・・・・」
「?! そいつら、反逆を起こすようなやつじゃなかったのか?」
「あぁ・・・・・。むしろ、積極的にこの町に尽くしてるやつばっかりだった・・・。なんで、あんなことが・・・・・」
そう言うと男性は脱力し、そのまま動かなくなった。レオが手首を触ってみるが、脈の動きは感じられなかった。
レオはそっと男性を寝かせると、すっと立ち上がった。
「・・・・・レオ、これって洗脳か?」
「断定はできないが、そういった能力だろうな。傷つける意思のない人間を無理矢理動かして一般人を傷つける、最低な能力だ。・・・・・ほら、来やがったぜ」
そう言うと、レオは銃を構えた。その方向から、銃を持った男が3人やってくるのが見えた。
「どうするよ?」
「気絶させるのが一番か。頼めるか?」
レオの持っている銃は気絶させるのには不向きな武器である。飛び道具だし、もともとレオは格闘があまり得意ではないから、男たちを殴ったところで気絶させるのは難しい。ここは慣れている雷牙に任せるのが一番だ。
「任しとけ!」
雷牙は勢いよく男たちの方へ走り出した。もちろん、男たちが黙って雷牙を接近させるわけがない。一斉に雷牙目掛けて手に持っている銃を構え、人差し指にかかっている引き金を引こうとする。が、
ズガガガン!!!
レオが男たちに撃たせる前に銃を狙撃し、雷牙を援護する。そのことがわかっていたのか、雷牙は男たちに急接近し、それぞれ腹、頭、首に掌底を叩き込む。雷牙も、それで決まったと思ったのだろう。レオの方へと引き返した。
しかし、男たちは倒れなかった。雷牙の掌底を食らったというのにも関わらず、腰の剣を引き抜いて雷牙の後ろ
「雷牙!! 後ろだ!!」
「何!!??」
雷牙の振り向いた先には、確かに気絶させたはずの男たちが、腰の剣を抜いて襲い掛かってくるのが見えた。
おかしい。確かに気絶させたはずだ。どこか力加減が間違っていたのだろうか? もしかしたら、力が弱すぎたのかもしれない。・・・いや、そんなはずはない。むしろ強すぎたくらいだ。あれだけの力を込めて殴れば、いくら訓練した人間だって普通に気絶する。肉体強化できるのなら話は別だが、殴ったときの肉質はごく普通の柔らかいものだった。
それならば、なぜだ? なぜこいつらは気絶しないで向かってこれるんだ?
「っち!!」
考え込んでいる暇などない。もたもたしているとこっちがやられてしまう。雷牙は一旦男たちとの距離を取った。とにかく、打開策を考えなくては・・・・・。
「どうする?! 倒れねぇぞ!!」
「・・・・・たぶん、『催眠』か『操作』のどっちかだ」
「んぁ? なんだそりゃ?」
「罠の能力だ。意識があって反乱を企ててるんだったらさっきのお前の掌底で気絶してるはず。それなのにあいつらは気絶するどころかダメージなんかお構いなしに向かってくる」
言われてみればそうだ。気絶させるつもりでやったのだから、それなりのダメージは食らっているはず。加えて、掌底を入った場所は腹部だ。内臓が詰まっている箇所に衝撃が加わったら相当なダメージがいくはずなのに、この男たちは構うことなく向かってくる。これはどう考えてもおかしい。レオの言うとおり、罠が『催眠』をかけているか『操作』しているのだろう。
「『催眠』にせよ、『操作』にせよ、本体を叩けば効力は失せるはず。逆を言えばこいつらを相手しても本体には何の影響もない」
「じゃあ逃げるしかねぇのかよ?!」
「そういうことだ!! 突っ切るぞ!!」
勢いよく走り出したレオの後から雷牙が続き、2人は男たちの間を潜り抜けて先へと進む。
男たちは2人の後を追うが、追いつくことはできない。肉体強化の全力疾走に、普通の人間が、ましてや操られている人間が追いつけるわけがない。
2人は全力で走り出す。炎の中心へと、罠が待ち受けている炎の中へと。