第6話 近未来編1
そのころ、刹那はゲートの中を移動し、次の世界に向かっていた。それが地球であるのか、はたまた違う世界なのか、今の段階では刹那はそのことはわからない。
刹那はずっと1つのことが頭に浮かんでいた。ダンのことである。傷ついたまま置いて来てしまったので、ひょっとしたらダンは死んでしまったのではないかということが、いやでも頭に浮かんできてしまう。
{ダン、大丈夫かな?・・・もしかしたら・・・・・って何考えてんだ俺}
頭のもやもやを消すように、頭をぶんぶんと振る。
{いや!大丈夫だ!ダンだって大丈夫だって言ってたじゃないか。うん、そうだ。きっと大丈夫だ。そうに決まってる!}
前向きな考えを無理矢理頭に浮かべ、不安な考えを頭から消す。マイナスの考えにいつまでもとらわれていてはいけない、刹那はダンが生きていることを信じ、出口が見えるのを待つ。
その時だった、不意に前の方から明かりが見えた。出口だ。その光は次第に大きくなり刹那の体をやさしく包んでいく。
と、いきなり体に衝撃が走った。
「いてててて・・・・」
いつの間にか違う世界に来てしまったようだ。
刹那は、自分が地面に倒れているのに気が付いた。着地に失敗してしまったのである。
体を起こしてみる、痛みはあるがひどいものではない。そのままゆっくりと立ち上がった。
改めて回りを見回してみる。
黒い空、たくさんの工場、煙突から出ている煙、幅の狭いアスファルト。少なくとも地球ではない。
その光景は刹那にある考えを呼び起こす。よくRPGなどである機械とロボットだけの世界、人など一人もいない冷たい空間、そんな考え。
{考えすぎだよな・・・まさか・・・・な}
自分の頭を整理している刹那。しかし、
「うわあああああああああああ、た、助けてくれええええええええ!!!!」
見事に邪魔された。
頭よりも先に体が動いてしまう刹那は、声のするほうへと走っていた。
アスファルトを蹴り、声の元の工場を右に曲がる。曲がりきった刹那はそこで信じられない光景を目にした。四足のロボットが男を殺そうとしているところを。
「う・・・あぁぁあああ・・・・・」
男は恐怖で声がうまく出せていない、必死に声を漏らすので精一杯だった。それも当然だった、もうすぐ殺されるというのだから。
刹那はショックを受けていた。ロボットが人を襲うなんてことはありえないと頭のどこかで思い浮かべていたのだから。
しかし、今はショックをうけている暇はない。この人を助けないと。
幸いなことにロボットはこちらに気付いていない。不意打ちを仕掛ければ何とかなるかもしれない。
だだだと勢い良く走り、刹那はロボットの背後から強烈な突進を喰らわせた。ロボットは後ろからの不意打ちを見事に喰らい、男の手前まで吹っ飛んだ。
「ひいいいいいいいい!!!!!」
男は悲鳴を上げる。今自分を殺そうとしている相手が自分の目の前にいるのだ。しかも、男は腰を抜かして動くことが出来ない。目の前の恐怖から逃げられない自分。これでは拷問である、たまったものではない。
一方刹那は突進の際にぶつけた右肩を左手で抑えていた。思ったよりも装甲が硬かったのである。
{くそ、なんかめっちゃ痛い。
当たり前と言えば当たり前なのだが、突進した相手がロボットだと言うことを忘れてはいけない。鉄の塊に体当たりしているようなものだ。
刹那の不意打ちもむなしく、ロボットはキュイーンと音をたて再び四足で立ちあがった。
「うわっわわっわあわわ!!!!」
こんな声、もう悲鳴とはいえない。
ロボットは目をきょろきょろ動かし、刹那を見つけると、四足を気持ち悪いくらいに早く動かして刹那に急接近した。どうやらターゲットを刹那に変えたらしい。
刹那も応戦しようとするが、肝心なものがなかった。
武器がない。
相手は鉄の塊、とても素手で勝てる相手ではない。
{やばい、どうしよう・・・・}
取り乱すわけでもなく、刹那は自分のピンチを冷静に受け止めていた。しかし、冷静に受け止めてもロボットが消えてくれるわけではない。
ロボットはいきなり空高くジャンプした。空中で四足を広げた、足の横からは刃が出ている。そのまま高速で回転したかと思うと、刹那めがけて突っ込んできた。
ロボットの攻撃があたれば、刹那の体はばらばらになってしまう。例えるのなら、高速で回転しているヘリコプターのプロペラに突っ込むようなものだ。
このままだと確実に刹那は死んでしまう、いや殺されてしまう。
その時だった、刹那の手のひらから黒い霧が出て、それが大剣の形になったかと思うと一瞬で刀身が黒い大剣となった。
{これって・・・・・}
そう、ラチスの時にも出た黒い大剣。何でこんなのが?、どうして大剣?考えている暇はない、ロボットがすぐそこまで迫っている。
大剣を両手でつかむと、そのまま肩まで振り上げ、迫り来るロボットめがけて勢い良く振り下ろした。
ロボットは右半分左半分と胴体が真っ二つになり、それぞれ対の方向へ飛んでいき爆発した。
「あ・・・・あ・・・・・・・」
男は黒焦げになったロボットの残骸を見つめながら、驚きの声を漏らしていた。
刹那はというと、再び黒い霧となって消えてしまった大剣のことを考えていた。
{なんなんだよ、あれ。何が起きてんだ?}
必死に考え事をしている刹那に、男が声をかけた。
「あ、あの!」
「!!!うあい!!!」
不意に声を掛けられたせいで変な声を出してしまった。男の方も刹那の反応に少し驚いたようだったが、特に問題もなかったのでそのままお礼の言葉を述べた。
「た、助けてくれてありがとうございます!」
刹那はお礼を言った男を振り返り、じっと見つめた。その男は眼鏡を掛けていて、頭はぼさぼさで白衣をまとっていた。がりがりにやせていて身長が高かった。
「い、いえ、とんでもないです。当然のことをしたまでですから」
自分でもわかっていたが非常にあたふためいていた。反射的に良く漫画で使うセリフを並べて口に出す。非常に格好わるい、刹那はそう思った。
しかし、男は刹那のその言葉を聞いたとたん、パッと刹那の手を両手で握り、勢い良く上下に振りまわした。
「いやいや、あなたは命の恩人です。ぜひ私たちの『研究所』に来ていただきたい。」
刹那は男の言葉を聞いて一つだけ気になることがあった。
{私たち?}
複数の人数で構成されているらしい。しかし、刹那はそんなこと気にも留めずに首を縦に振り、
「よろこんで」
そう一言。
その男はパァと明るい表情をつくり、刹那の手を引いてその゛研究所゛へと向かった