第56話 殺戮人形編12
翌日、刹那たちが起きてテーブルのところへ向かうと、そこには目の下に隈のできている雷牙と雷光、にこやかに朝食を運ぶ風花と風蘭の姿があった。風蘭はもう大丈夫みたいだった。意気揚々と皿を運んでいる。
「あ、みんな今起こしに行こうかなって思ってたんだ!」
「おはよぉ、よく眠れたぁ?」
「あ、うん・・・・・」
ちらっと雷牙と雷光のほうを見る。風花はあぁあぁ、と頷きながら言った。
「大丈夫だよぉ〜、もう誤解は解けたからぁ〜」
「誤解?」
「うん。実はねぇ、私たちが帰ったときと雷牙君たちが探し回ってたときにすれ違いがあってねぇ、いくら探してもいないから小屋に帰ったんじゃないかって戻ってきたら、ちょうど私達が帰ってきたってわけぇ」
「・・・それを説明するのにどれくらいの時間がかかったことか・・・」
「なんか言った? あ?」
「なんでもないです!」
・・・一体この一晩のうちに何があったのだろうか?想像するのも恐ろしいことがあったのは確かだが、・・・・本当に何があったのだろう。
「ほ、ほらほら!早く席について!ご飯だよ!」
気を取り直して風蘭がぼ〜っと突っ立ってる刹那たちに呼びかける。風蘭のその声で、ようやく刹那たちは椅子に座った。
それから何度か風花と風蘭がキッチンを往復し、テーブルの上に全ての朝食が揃ったところで、風花が言った。
「それじゃぁ、いただきまぁ〜す」
朝食は始まった。
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「・・・というわけで、アビスというやつはこの世界から去っていきました」
「なるほどな。わかった」
朝食が終わり、そのあとは報告会ということで、それぞれ人形のパートナーごとに自らの仕事内容を報告していた。
最初は刹那とレナのペア。次がレオとリリア。最後が雷牙たちのまとまったグループ。つまり、これで全ての報告は終了したことになる。
全員の報告を聞いて、腕組みをしながらレオは言った。
「・・・とりあえず、罠は外せたみたいだな」
「ですね。やはり、原因はアビス・・・神の使いだったのですね」
「あぁ。でも、もう大丈夫だろう。おそらく、もうこの世界に罠を張られることはないはずだ」
「そうですか。安心しました」
レオと雷光の会話が終わり、ようやくその場の空気が緩んだ。ほっとため息をつく人もいた。
そんな中、雷牙がレオに話しかけた。
「なぁ。お前ら、これからどうすんだ?」
「帰るさ。罠はこの世界だけにあるわけじゃない。もっと世界を旅して回らないといけない」
「なら、俺も連れてってくんねぇかなぁ?」
雷牙の申し出に、当然驚きの声が上がる。雷光も風蘭も例外ではなかった。
「に、兄ぃ?!」
「ちょ、ちょっと雷牙!あんた何考えてんのよ!?」
2人は雷牙の言葉に反論するが、風花だけはじっと雷牙の顔を見ていた。
へへ、っと雷牙が笑って言った。その顔は、これからまさに遊びに行こうと新品の靴を履いている子供のような顔だった。
「だってよぉ!面白そうだろうが!!」
「・・・え?」
「異世界の旅だぜ?!こんな面白そうなこと、他にねぇだろ?!かぁ〜!!わくわくするぜ!!」
「「・・・・・・・」」
その場にいる一同は、言葉を失っていた。理由は言うまでもない、呆気にとられてしまったのだ。
刹那たちに付いていくという理由が、面白そうだから。正直というか、なんと言うか・・・、そんなおかしな理由に、呆れられずにはいられなかった。
だが、そんなことはわかっていたかのように、風花が笑って言った。
「それじゃぁ、私も行こっかなぁ〜」
「ね、姉さん?!」
「だってぇ〜、雷牙君1人だけずるいもん。やっぱり楽しいことはみんなで楽しまないとねぇ〜」
雷牙もぽかんとしていたが、やがて笑って風花に「んじゃ一緒に行くか」と言った。風花は笑って頷いた。
本当にこの人は、と一言呟き、雷光はレオに言った。
「あの、迷惑でなければ同行させてもらえないでしょうか?足は引っ張りません、罠を外すお手伝いもします。一緒に連れて行ってくれませんか?」
「・・・俺は構わない。お前らは?」
レオが刹那とレナとリリアのほうを向いてたずねる。レオへの返事に、時間はかからなかった。
「俺はいいと思う」
「私も、刹那と同じ」
「私もいいと思う。仲間が増えて楽しくなりそうだし」
意見は一致した。
雷牙と風花は刹那たちの了解が出たからか、嬉しそうにはしゃいでいる。それをうらやましそうに眺めているのは、反論しか言っていない風蘭だった。
「風蘭さんも行きましょう」
「え?」
「旅です。きっと楽しいですよ。色んな景色や人に出会えるまたとない機会です」
「でも・・・」
「・・・・・今まで、ずっと一緒だったじゃないですか」
「・・・うん」
「だから、行きましょうよ。みんなで」
「・・・うん」
そう、雷牙、雷光、風花、そして風蘭はいつも一緒だった。小さな頃から、遊ぶときも、食べるときも、寝るときも、ずっとずっと一緒に過ごしてきた。家族だった。これだけずっと一緒にいるのだから、家族同然だった。
風蘭は決心したのか、レオを見つめて言った。
「あたしも、行く」
みんなの顔に、笑顔が浮かんだ瞬間だった。
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「やァ」
「あぁ、おかえりアビス。人形はどうしたの?」
「みンなに壊されちゃッたンだ。また作らなイといけないカらめンどうだねェ」
両手を曲げ、やれやれ、とアビスは首を横に振った。
人形が壊されてしまったと聞いたマリスは残念そうに言った。
「そっか。それじゃしばらく人形劇は見れないんだね」
「残念ナことにネ。作り次第見せテあげるヨ」
「楽しみにしてるよ。それで、どうだった?」
「直接接触はできナかッた。その前に人形壊されタから、帰ッてきちャッた」
アビスの報告を聞き終わると、青年は子供のような笑顔で言った。
「そっか。ご苦労様、あとは休んでいいよ」
「いや、また行クことにするヨ。代わりの人形ヲ調達しないトいけないシ。それニ・・・・」
「それに?」
「人形の分の仕返しモしないとイけないしサ」
そう言うと、アビスはシルクハットを取ってお辞儀をするしたあと、真っ白なマントを翻してその場を後にした。
部屋に残された青年は、奥のほうで動いている巨大なカプセルを眺めた。ゴォーと、小さい音がしていて、それが確かに動いていることがわかる。
「・・・・よぉ」
不意に後ろから声がした。振り返って見ると、
「シャドウ。どうしたの?」
「・・・別に、なんでもねぇよ」
「・・・そっか」
それだけ言うと、青年は再びカプセルのほうを向いた。シャドウから見た青年の背中は何だか寂しげで、少し悲しかった。
「・・・早く、生き返るといいな」
「うん、ありがとう」
会話はそこで途切れ、部屋は沈黙に支配された。
さて、いかがでしたでしょうか? 今回の物語は?
新たな仲間4人を加えた刹那たちの物語は、これから新たな局面を迎えることでしょう。
それがどのようなものなのか? それは、見てからのお楽しみ。
さて、次回の物語は戦争編。
戦争を終わらせるためにとった男女の物語をどうぞお楽しみください。