第55話 殺戮人形編11
歩けないレナを運んでいた刹那と、深い眠りについているレオを膝枕しているリリアが合流したのは雨が激しくなった頃からだった。
リリアはこんなに雨が激しくなっても目を覚まさないレオをどうしようか、とあたふためいていたが、そこに現れてくれた刹那に何とか頼み込んでレオを運んでもらうことになった。
・・・まぁもちろんのことなのだが、刹那の両手は今塞がっている。レナを抱き上げているためだ。レオを抱えるには、レナを片手で抱えるしかない。つまり、片腕にレオ。片腕にレナ、という形になるのだが・・・
「・・・刹那、これはあんまりじゃない?」
「仕方ないだろ。レオ寝てるし、我慢してくれ」
レオは肩に担がれているが、レナは違う。レナは刹那の脇に抱えられていて、まるで米俵か何かのような扱いになっていた。これではあんまりだ。レナが文句を言うのも仕方ない。
「・・・・・・っぷ・・」
「ちょ!ちょっとリリア!今笑ったでしょ!」
「い、いえ・・・そんな・・・っくくく・・・・」
堪えられず、リリアが笑い出してしまった。腹を抱えてうずくまるようにして笑っている。レナは顔を真っ赤にして手足をじたばたさせた。・・・はずかしさを隠しているようなつもりだろうか。可愛いものだ。
「あぁ、ほら。レナ、暴れるな。リリアも笑ってないで早く行こう。もう雷牙たちが待ってるかもしれない」
「は、はい・・・ぷっくくくく・・・」
「〜〜〜〜〜〜〜!!」
「だから暴れるなって。痛い痛い!!叩くな叩くな!!」
そんなこんなで、眠っているレオと暴れているレナを抱えて、笑いながらついてくるリリアと共に、刹那たちは小屋へと帰還したのだった。
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小屋へ戻った刹那たちが最初に見たものは、雨で体が濡れたまま正座している雷牙と雷光と、腕組みをし、笑いながら青筋を立てている風花の姿だった。
「・・・あの、えぇっと・・・」
小屋に入ったのはいいものの、これからどうすればいいか刹那にはわからなかった。少なくとも、報告会をしよう、などと言い出せる雰囲気ではないことだけはわかった。
刹那の声で気付いたのか、風花は表情を崩さないままで刹那たちのほうに振り返った。・・・ぞくっとした。
「戻ってきたんだぁ。どうだったぁ?」
「え、あ、何とか倒したけど、レオがちょっと眠ってるんだ」
「そっかぁ。それじゃ隣の部屋の布団に寝かせておいてぇ」
「お、おい。それって俺の・・・」
雷牙の反論は、風花がイスを蹴り飛ばした音で遮られた。イスが壁に叩きつけられる音を聞いて、風花以外全員の体がビクッと撥ねた。
「何か言ったぁ?雷牙くぅん?」
「い、いえ・・・、なんでもないです」
「・・・あ、あのさ?な、何で雷牙と雷光が正座してるんだ?」
おそるおそる風花に聞いてみた。そのときの刹那は、まるで外国人にでも話しかけるようにビクビク、おどおどしていた。
風花はにっこりとしたまま刹那の問いに答えた。
「この2人ったらひどいんだよぉ?雨がザーザー降ってきてるのにいつまでたっても迎えに来ないしぃ。風蘭なんて風邪ひきそうにしてたから歩いて帰ったのぉ。そしたらね、何でかこの2人が先に小屋に着いてるんだよぉ?おかしいよねぇ。おかしいよねぇ! 迎えにくるはずだったよねぇ!! それなのに何であたしたちが置いてけぼり食らってんのかなぁ雷牙君!!!」
風花は言い終わると同時にバンッとテーブルを拳で叩く。・・・雷牙と雷光はまたもやビクッと体が撥ねていた。
風花の言い分は大体わかった。たぶん、雷牙と雷光は戦いに風花と風蘭を巻き込みたくなかった。だから安全なところに避難させた。
でも、待っても待ってもいつまで待っても雷牙と雷光が迎えに来やしない。あの2人のことだから戦闘に負けるわけないし・・・。そう考えて待っているうちに雨が降ってくる。最初はポタ、ポタ、という程度だったが、次第に強さが増し、降水量も多くなってくる。
その寒さに耐え切れず、風蘭は体を震わせくしゃみをした。・・・もうこれ以上待っていられない。震える風蘭を支えながら風花は小屋に戻る。
そこにいたのが・・・っという感じだろうか。風蘭がいないのは、おそらくベッドに寝かされているからだろう。
「あ、あの・・・俺たちちょっと疲れたから休んでいいかな・・・?」
「あぁ、刹那君たちお疲れ様ぁ〜。ゆっくり休んでねぇ」
「お、お前達!!俺たちを見捨てないでくれぇええ!!」
「そ、それじゃおやすみなさい・・・」
すがるような、雨の日に捨てられた子犬のような、そんな感じのする雷牙の目つきをかわし、刹那たちはそそくさとその場をあとにした。・・・本能的にわかっているのだろう。ここにいたら・・・命が危ないと!!
部屋に残された雷牙、雷光、そして・・・にっこりと笑っている風花。これからどうなるかは、誰も知らない。
「うふふふふふふふふふうふふふふふふふふふふうふふふふふふふふふ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
このとき、2人の顔が青くなっていたのは言うまでもない。