第54話 殺戮人形編10
レオは生まれてから一度も眩暈や貧血などを起こしたことがない。食べるものだって、王子だったからそこそこ良く、義父との訓練で体も動かしていたから、眩暈や貧血など起こりうるわけがないのだ。
しかし、レオは今生まれて初めて眩暈を覚えていた。焦点がうまく定まらず、周りの景色もぐにゃりと曲がって見える。レオは初めて起こった未知の感覚に、たまらず片膝をついてしまった。
「兄さん?」
リリアが心配そうに声をかける。
戦いの途中なのに片膝をつくなんてそうそうあることではない。ましてやこちらが不利な状況なのだ。そんなことをしていれば、敵は容赦なくかかってくるのはわかりきっている。
それに、レオは人形から攻撃を受けた様子はない。体を見ても傷らしい傷は全く見当たらないし、服だって破れていない。となれば、攻撃以外の原因でレオは片膝をついていることになる。・・・心配にならないわけがなかった。
何回もリリアが声をかけても、レオは一向に返事をしなかった。ただ黙ってどこか一点を見つめているだけだった。
「兄さん!!どうしたの!!」
叫びに近い声をあげるが、やはりレオは何とも言わない。本当にどうしちゃったんだろう、とリリアの不安は徐々に増していった。
そのとき、前方のほうからギギギ、という木の軋む音が聞こえてきた。ぱきぱきと枝の折れるような音もする。・・・間違いない、人形が木を切り倒したのだ。
リリアはまずレオを抱いて飛び退こうとした。しかし、自分の力じゃレオを抱けても飛び退くことはできない。それに気がついたときには、巨大な大木は自らの目の前に迫っていた。
いまさら自分だけ逃げるなんてことはできない。リリアはレオにぎゅっと抱きつき目を瞑った。
「・・・・・・?」
ところが、いつになっても大木はぶつからない。それどころか、ギギギという木の軋む音もなくなっている。おかしいな、と思ったリリアは恐る恐る目を開けてみる。そこには、
「兄さん!!」
「・・・・・」
片手で大木を受け止めているレオの姿があった。だが、何だかいつもと違う。体から白い光が染み出している。それに、いつもより圧迫感が強い。空気中の酸素濃度がいきなり下がったように、息苦しくなった。
「兄さん?」
恐る恐る声をかけてみる。さっきは返してくれなかったが、今度はちゃんと返事をしてくれた。
「あぁ、大丈夫だ。ちょっと、慣れるまで時間がかかった」
す、とレオの顔はリリアのほうへ向いた。・・・いつも見ているレオの顔に、少し違和感があった。何だろう・・・なんかいつもと違う・・・。
じっとレオの顔を見ていたリリアは、その違和感の正体に気がついた。目だ。瞳孔が開ききっていて、色が違う。
この変化には覚えがあった。そう、この世界に来たときに襲ってきた雷兄弟が使った、あの『眼』と同じだ。・・・レオは、『眼』を発動させたのだ。
「最初は眩暈かと思ったんだ。でも、違う」
レオはゆっくりと立ち上がった。その瞬間、体から染み出すくらいにしか出ていなかった魔力が、まるでダムが決壊したかのように溢れ出てきた。
威圧感はもはや最高潮、味方であるはずのリリアでさえも恐怖を覚えるくらいだった。
「ゆっくりになったんだ。動いてるもの全部がな。それに、いつもより精神状況がいい。余計なことなんて考えれない。今まで初めてだ、こんなに集中できるのは」
そう言うと、レオはゆっくり銃を構えて、撃った。人形は今、木の陰に隠れている。当然だが、当たるわけがない明後日の方向に弾丸は飛んでいった。
しかし、そのタイミングを見計らってきたかのように木の陰に隠れていた人形は飛び出し、当たるわけのない弾丸を右肩に受けた。
人形の肩は砕け、右腕はそのまま地面に落ちたが、人形本体は何事もなかったかのように木々の間を飛び交い、レオを翻弄しようとしていた。
・・・だが、『眼』を発動したレオの前には無駄なことだった。レオは再び人差し指を動かして弾丸を発射する。弾丸は当たるはずのないおかしなところへ飛んでいくのだが、なぜか絶妙なタイミングで人形が飛び出し、今度は額に弾丸を受けた。頭は砕け、人形は地面にドサッと倒れた。同時に人形はボロッと崩れてしまい、そのまま土に同化してしまった。
それを確認したレオはようやく銃を下ろし、体から溢れ出ていた魔力も水を塞き止めたようにピタッと止まった。同時に体の力が抜け、レオはガクッと膝をついてしまった。
「兄さん!大丈夫?!」
リリアが駆け寄り、レオの体を支える。レオの全体重がリリアの腕にかかってくる。ぐったりしていて、本当に力が入っていないようだった。
「あぁ・・・、ちょっと、疲れた・・・・」
ふぅ〜、と深くため息をつくと、レオはリリアに体を預けるとそのまま眠りについてしまった。リリアは少し戸惑っていたが、すぐに膝を折り、レオの頭を太ももに乗せてやった。
それにしても、あのレオがこんなに疲れてしまうなんて少し驚きだ。それくらい『眼』は体力の消耗が激しいのだろう。それだけ深く眠っている。・・・これは当分起きそうにない。
「はぁ・・・・」
小さなため息をついたあと、リリアはどんどん厚くなっていく雲を見上げながら、これからどうしようか、と考えていた。
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「わりぃ!!待たせた!!」
「本当ですよ。一撃当てられたじゃないですか」
雷光は遅れてきた雷牙に、自分の右腕を見せながら文句を言った。雷光の右腕は肘のところに大きな切り傷ができていて、そこから血がだらだらと流れていた。
雷光が戦っていた人形は2体。1体は両手に小刀を持った赤い服の人形。もう1体は小さな体には似合わない大きさの大斧を担いでいる黒服の人形。
雷光の体術は兄の雷牙より劣るが、それでも十分な実力を持ち合わせている戦士である。相手の動きを読むのも、反撃するのも、攻撃するのも、回避するのも、幼い頃からの狩りで自然と上達しているため、多少の相手だったら無傷で勝利することも可能になっている。
だが、雷光は戦いの初っ端から手傷を負ってしまった。さすがの雷光も、2体相手、それも武器を持った動きの速い人形相手に無傷は無理だったのだ。
そして、雷光が傷を負った最大の原因、それは・・・人形が「飛んだ」ことだった。
高く跳び、落下してくるところを狙って攻撃をしようとするのだが、落ちてくるはずの人形がそのまま空中でピタッと止まり、そのまま自由自在に動くのだ。動きに一貫性のない空中戦など、雷光には初めての体験であったため、不意の攻撃に反応できずあっけなく攻撃を食らってしまい現在に至る。
2体の人形は空中で自分達の様子をうかがっているのを見て、雷牙は雷光が傷を負った原因を理解した。・・・そして、空中の敵は厄介だということも。
だが、相手はそんなことお構いなしに攻撃してくるだろう。自分達が有利な状況にあるのに追い討ちをかけないヤツなどいない。こちらが少しでも隙を見せた瞬間、人形達は襲ってくるだろう。
「雷光よぉ、こりゃちょいとマジになんねぇとやべぇんじゃねぇのか?」
「確かに、空中戦じゃ相手に分がありすぎますからね。『眼』を使って、一気に畳み掛けましょうか」
「あぁ。そんじゃ、俺が叩き落すからとどめ頼むぜ」
雷牙の言葉と同時に、2人は『眼』を発動させた。外だというのに瞳孔が開ききり、体中から魔力があふれ出る。力がみなぎり、全身に自然と力が入ってしまう。・・・準備は万端だ。
まず、雷牙は足をグッと曲げ、空中で様子を見ている人形のほうめがけて跳んだ。地面を抉るほどの力で空中へ突進した雷牙はあっという間に人形に接近し、人形達はそこで初めて動きを見せた。
人形はそれぞれ別方向に空中移動し、とりあえず雷牙の突進をかわした。空中へ突進した雷牙はそのまま人形を叩き落すことなく落下していくはずだったのだが、人形はそれを見逃さなかった。
雷牙はもちろん空中を自在に飛び回ることなどできない。当然のことながら、空中には足場がないため落下地点を何とか変える、なんということは無理だ。・・・何が言いたいかというと、雷牙は地上に足がつくまで何もできない、ということだ。
もちろん体をひねって攻撃をギリギリでかわすなどのことはできるだろうが、それだけだ。しかも、攻撃をかわすと言っても大振りで避けにくい攻撃を繰り出されたらもうどうしようもない。かわせないのだ。
人形達はそのことを理解しているのか空中を滑るように移動し、手にしている武器を構えて雷牙に襲い掛かった。赤服の人形は小刀を逆手に持って切りつけようと、黒服の人形は大斧で叩っ切ろうと、それぞれ武器を構えた。
・・・いきなりだが、ここで話を変えさせてもらう。『眼』を発動させたものは肉体の潜在能力を解放できる、と雷牙が言ったことを覚えているだろうか?
潜在能力・・・なぜそのことを雷牙は知っているのか?・・・そう、雷牙はその潜在能力を解放できる段階に至っているのだ。だからそのことを知っていたわけだ。
『眼』を発動させた雷牙の潜在能力は、『第六感超強化』である。人には五感というものが存在する。目による『視覚』、鼻による『嗅覚』、舌による『味覚』、耳による『聴覚』、皮膚による『触覚』がそうだ。だが、もう1つだけ隠れた感覚が存在する。・・・『勘』というやつだ。
雷牙は生まれつき勘がいい。狩りのときの獲物探しだって勘を利用して発見していたし、昨日だって小屋の近くに人形達がいたことを勘が知らせてくれた。その勘が、さらに強化されるのだ。
ここで戦闘の話に戻る。雷牙は襲ってくる人形達が攻撃をしてくることが、自らの勘によってわかっていた。普通の勘でだ。まだ『第六感超強化』は使っていない。
人形が自分に向かってきた瞬間、雷牙はここで初めて『第六感超強化』を発動させた。使った理由は簡単、人形が攻撃してくるのはわかるが、体のどこをめがけて攻撃するのがわからないためだ。それさえわかれば、攻撃をかわせはしなくとも死にはしない。
すでに広がっている雷牙の瞳孔がさらに開き、目が一瞬にして黒ずむ。これこそが潜在能力を発動させた証だ。
{・・・赤服は心臓、黒服は首か・・・}
雷牙の勘が冴え渡り、人形達の攻撃は予想通りの箇所にきた。赤服の人形は片手の小刀を心臓目掛けてシュッと伸ばし、黒服の人形は大斧を振り上げ首を落とそうと切りかかってきた。
赤服の攻撃は仕方ない。胴体を的にしてきたのなら空中で身をよじっても肩や腹部に刺さるだろう。だが、黒服の攻撃は避けられる。狙った場所が首だからだ。胴体と比べてかわすのがずいぶん簡単だが、かわさなければ終わりだ。
人形達はほぼ同時に攻撃を仕掛けてきた。雷牙から見て赤服人形は右方向、黒服人形は正反対の左方向から向かってきた。
人形達が落下中の雷牙に武器を繰り出す。・・・雷牙は予想通り、と言った表情をし、体をよじった。・・・そのあとも直感通りだった。黒服人形の大斧はかわせたが、赤服人形の小刀は心臓には刺さらなかったものの、わき腹の部分をずぶっと貫いた。
「う・・・ぐ・・・・」
雷牙は痛みを感じなかった。いや、少しは感じていた。ただ、思ったよりも痛くなかった、というのが本音だった。・・・雷牙はここまで計算していた。すなわち、自分の体になんらかの攻撃をされる、ということまで。
わき腹を貫いた赤服人形は、血の滴っている小刀を雷牙から抜こうとしたが、思いがけないことが起こった。―――雷牙が、人形の腕を掴んだのだ。掴んだ右手には神裂爪が装着してあったため、握り手の部分から器用に手を出していた。メキメキ、と人形の腕から軋む音が鳴った。
さらに雷牙はもう片方の腕で黒服人形の頭を掴んだ。雷牙の握力は凄まじいもので、掴まれていた黒服人形の頭は指の圧力でへこんでいた。
赤服人形と黒服人形は間髪いれず雷牙に反撃しようと武器を振りかざしたが、それよりも早く雷牙は雷光のいる地面へと両手の人形達を投げ飛ばした。
「うらぁあ!!雷光!!いったぞぉおおお!!」
人形達はまるで弾丸のように落下したかと思えばそのまま周りがクレーターのようにへこみ、大砲か何かを撃ちこまれたかのように地面を抉っていた。
・・・そして、そこに待っていたのは『眼』を発動させた雷光の姿。雷牙と同様体から魔力があふれ出ていて、瞳孔が開いている。さすがは双子の兄弟、といったところだろうか。
「さて、それでは手早く済ませましょうかね」
そこで雷光の瞳孔はさらに開き、全身が青白い光と化した。これが雷光の肉体潜在能力『全身雷化』である。文字通り全身が雷になる、という単純なものだが、その雷が問題なのだ。
落雷というものがある。万が一その落雷が避雷針などの道具を持ち合わせていない人間に直撃したらどうなるだろうか?よっぽどがない限り、即死する。そんなのはわかりきっている。
だからこそ、雷光の『全身雷化』は危険なのだ。落雷は意思がないから直撃するのは確率ということになる。だが、雷光には意思がある。自分で考え、そして動くことができる。
つまり、『全身雷化』を使用している状態の雷光は、『意思を持った雷』なのである。自分で動くことができるから、その身である雷を敵に直撃させることは難しくはない。ただ触れるだけでいいのだから。
雷光は雷牙の投げた威力のあまり、変な形になっている人形達のところへ急ぎ足で向かった。・・・人形はちょうど動き出そうとしていたところだった。
「おっと、そうはさせませんよ」
雷光は立ち上がろうともがいている赤服人形の頭に触れた。瞬間、バチッ!!とはじけるような音がしたかと思ったら、赤服人形は炎に包まれていた。・・・凄まじい電熱による発火である。
服と同じ色の炎を人形が纏ったのを見届けると、続けざまに黒服人形にも触れた。今度は頭ではなく、肩に触れた。
やはりバチッ!!とはじけるような音がし、黒服も炎に包まれた。人形達は炎を体に纏い、そのままもがいて、炭になった。・・・もう動き出そうとはしなかった。
「おう、終わったか」
「あっけないものでした。あっという間に炭ですからね」
雷牙が地面に降りてきたときには、もう2人は『眼』を解除していた。
『眼』は一時的に身体能力を凄まじく増加させるが、その分肉体の疲れや魔力の消耗が激しくなる。体から魔力が染み出しているのが何よりの証拠だ。
肉体の潜在能力を使っても同じことが言える。ただでさえ体力、魔力の消耗が激しい『眼』。加えて肉体の潜在能力の発動・・・・・つまり、この2つを使った瞬間ものすごいエネルギー消費になる。そのため、戦わないとき以外は『眼』を発動させない、というのが普通だった。
つまり、この2人は戦闘が終わったと確信しているから『眼』を解除した、ということだ。・・・まだ、そこに敵がいるということも知らずに、だ。
雷牙と雷光が敵の存在に気がついたのは、その敵が喋ったあとだった。
「あらラらラ〜〜。アビスの可愛いお人形さン達がみンな壊されちゃッたねェ〜」
変な口調の声は2人の後ろから聞こえてきた。バッと、勢い良く振り向いた。そこには、人が立っていた。頭にかぶせてある真っ白なシルクハットから長い緑色の髪の毛がはみ出していて、その背中には膝が隠れるくらいのシルクハットと同様、真っ白なマントがあった。顔には仮面がついており、その仮面は中央に線が入っていて、右目のあるほうが真っ黒に塗りつぶされて、左目のあるおうが真っ白に塗りつぶされているという、奇妙なデザインをしていた。
敵を視認し、慌てて戦闘体制をとろうとした雷牙と雷光をなだめるように、そいつは言った。
「慌てなイ、慌てなイ。アビスは君らと戦おうなんテ思ッてないヨ」
「ならば、何をしにわざわざ出てきたのですか?」
雷光はいつでも飛びかかれるよう体制を取りながら、たずねた。
「いヤいヤ、お人形さんたちが全部壊されちゃッたからサ。もう帰るだけだシ、その前に挨拶でもしテおこうかなッて」
言うなり、そいつはマントと両腕を大きく広げ、言った。
「僕は神の使イ、名前は『アビス』。お人形さンを操る愉快なヤツさ」
アビスは言い終わったかと思うと、礼儀正しく腰から上半身を曲げてお辞儀をした。それは、まるでショーが終わったあとのマジシャンのようだった。
「神の使いだとぉ?」
「やはり、刹那さんたちの言ったとおり・・・」
2人の言葉に反応したのか、アビスはお辞儀したまま顔を上げると、少し驚いたように言った。
「あラ?知ッてたの?それじゃ神の魂の器と愉快ナ仲間達はこの世界にいるのかナ?」
「・・・だとしたら、どうします?」
「何もしないヨ。お人形さんもうないシ、戦っても面白クないからネ。さっさと帰るヨ」
そう言うと、アビスは指をパチンと鳴らした。すると、ゴゴゴ、という音がし、アビスの目の前にゲートが出来上がった。
目の前のゲートに入ろうとするアビスに、雷牙は言った。
「おい、誰が逃がすって言った?」
「逃げるのニ、いちいち許可がイるのかナ?」
「知るかッ!!」
雷牙はパッと地面を蹴り、右手の神裂爪の握り手をグッと握り締め、ゲートに入ろうとしているアビスめがけて突っ込んでいった。だが、
「ッぐ!!?」
いきなりガツンッと、何かが凄まじい勢いで雷牙にぶつかってき、雷牙はあっけなく吹っ飛ばされた。・・・アビスにしか注意を払っていなかったため、気がつかなかったのだ。
「に、兄ぃ!!」
「いでで・・・なんだ?何がぶつかったんだ・・・?」
雷牙は自分の体にぶつかってきた物体の正体を見ようと視線を移した。・・・それは紛れもなく、先ほど自分が空中にいたところを叩き落し、雷光が炭にしたあの人形だった。
炭と化したその人形は、ボロボロと崩れていっている足で必死に体を支えていた。首も曲がって、いつ落ちても不思議じゃなかったし、腕なんてさっきぶつかってきた衝撃でもげている。・・・なぜ、ここまでになって立てるのだろう、と2人は思った。―――それは感嘆ではなく、驚きだった。
信じられない、と言った目で人形を見つめている2人に、アビスは笑って言った。
「お人形さンは炭になッてもアビスの可愛いお人形さンだヨ。アビスは『人形師』。その子らを動かシ、自在に操レる楽しクも不気味な道化師・・・サ」
アビスはそう言い残すと、ゲートをくぐってしまった。入った瞬間にゲートが閉じたので、雷牙と雷光はどうすることもできなかった。
ガチャッと、軽い崩れるような音がした。音の原因は炭と化したあの人形だった。おそらく、アビスがいなくなったから、だろう。もう人形達は、本当に動こうとしなかった。
雷牙と雷光はしばらく沈黙し、そして破った。
「・・・とりあえずは、終わったのか?」
「・・・終わったんでしょうね。あのふざけたヤツが人形を動かしていたのなら、殺人鬼となっているその人形も、もう人を襲うこともないはずです」
「まぁ、終わったってことだろ。簡単に言えば」
「まぁそうですが・・・。それより、早いところ風花さんと風蘭さんを迎えに行きましょう」
雷牙は頷くと、そのまま先を行く雷光のあとを追っていった。
ぽつぽつ、と空からは雨粒が落ちてきた。次第に雨の強さは増していき、同時に雨音も激しくなっていった。




