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第53話 殺戮人形編9

刹那が戦っている人形はとにかく攻めてきた。刹那の大剣が自らに振り下ろされるよりも先に攻撃を仕掛け、刹那の大剣による攻撃を封じている。

刹那の結晶の大剣は重量のある武器である。その重さが唯一の持ち味であり、最大の欠点の重量系の武器である。

大剣はその重さゆえに一撃の威力は凄まじいものになっている。その攻撃に勢いをつけてしまえば、まさに鬼に金棒。並大抵の防御など意味を持たない。

だが、裏を返してしまえば攻撃速度の遅い武器となる。確かに、一撃はかなりの高威力を持っているものの、次の攻撃までの速度が異常に遅い。つまり、隙の大きすぎる武器なのである。

対する人形の武器は大鋏。大の文字がついているだけに、その大きさは刹那の上半身くらいの大きさだ。切れ味も鋭く、そこら辺の岩くらいなら両断できるくらい研がれている。

この2つの武器、分が悪いのはもちろん大剣である。理由は至って簡単、大きさと重さの違いだ。

人形の大鋏は確かに普通のサイズよりも大きい。だが、それでも大剣よりは小さくて軽い。小回りもきくし、鋭さゆえの威力だって持ち合わせている。―――重さのある大剣相手には言うまでもなく有利だ。

戦いの状況を見ても、人形が有利なのは一目瞭然だった。刹那は大剣を横にして迫り来る大鋏を防ぎ、人形は手数で刹那にダメージを与えようとしている。

攻撃は最大の防御とはよく言ったものだ。見ての通り、刹那は人形の攻撃に手も足も出ないでいる。ただただ攻撃を防いでは後退をするだけだ。人形への反撃なんてもってのほかだ。


「・・・・・・」


刹那自身も、この状況がまずいということはわかっていた。相手は雨あられに攻撃をしてくるが、自分は防御しているだけ。このままだといずれ自分のほうに隙が出来てしまうかもしれない。

刹那は防御しながら頭の中で必死に打開策を考えた。何かないか、何かないか、と。―――こんな状況でも考えられる余裕があることに、少し驚いてしまった。

刹那がこの状況下で考え出した案は次の2つだ。1つはレナから援護してもらい、その隙に人形を破壊する。もう1つは人形の隙を突いて反撃する。

1つ目のレナから援護してもらうこと。考えた案の中では一番効果的な案だが、これは駄目だ。なぜなら、これが原因でレナに矛先が向いてしまうかもしれないからだ。今レナは戦えない、その状況で襲われてしまったら・・・・・アウトだ。

もう1つ、人形の隙を突いて反撃すること。これもやはり無理だ。相手は人間ではない、人形だ。戦っていてわかったのだが、攻撃するたびに威力が上がったり下がったりするなんていうことはない。攻撃と攻撃の間だって一定だ。隙なんて出来るわけがない。

正直、打つ手が見つからなかった。このままだと先に自分が折れてしまう。でも打開策が見つからない。考えても考えても、さっきの2つ以外の案は浮かんでこない。


{・・・・・まずい}


心なしか、腕が疲れてきたような錯覚がしてきた。人形の一撃も、最初よりも重く感じる。だんだん自分の体が重くなってきているのもわかる。―――早目にケリをつけないと負ける。

・・・そうだ、新しい案を考えるんじゃなくて、考えた案を発展させてけば・・・

刹那は早速先ほど考えた案を発展させようと考え始めた。1つ目の考え、レナに援護を求めるのを発展させてみる。・・・・・駄目だ、発展させるにしてもレナに頼っている時点でもうこの案は使えない。

それならば、2つ目の案だ。人形の隙を突いて反撃をする、それを発展されてみる。

人形は機械的に攻撃を繰り返している。威力もスピードも間隔も全て統一されているから隙が生まれるということはほぼない。・・・ここだ。ここを発展させる。

相手は隙が生まれることはほぼない。それならば・・・隙を作る、というのはどうだろうか?

さっきから自分は防御体制しかとっていない。いや、とっていないではなく、それしかできない、と言ったほうがいいか。どっちにしろ、さっきから行動を統一している。

そこで、だ。何らかのアクションを起こせば、人形は突然の自分の行動に少しでも驚くのではないか?だとしたら、その隙に一撃を放てる可能性だって必然的に出てくる。


―――やってみる価値はあるんじゃないのか?


そうだ、やらなければこの状況を抜け出すことはできないのだ。やるしかない、やらなければならない。

人形の機械的な攻撃を受け、さらにもう一度受ける。そして次の攻撃が来た瞬間、刹那の体は動いていた。足を使い、地面に散らばっている草の灰を蹴り上げる!!


「!?」


人形は突然視界に入ってきた黒い物体に驚き、機械的に行っていた攻撃を一瞬だけ止めてしまった。・・・その一瞬だ。その一瞬で十分だ!!

刹那は横に構えていた大剣をそのまま薙ぎ払うように人形へ斬りかかった。横一閃、確実に人形を両断できる軌道だ!!

だが、ここで誤算が生じてしまった。人形が思ったよりも早く斬り返してきたのだ。大剣よりも早く、軽い大鋏が刹那の首元めがけて襲い掛かってくる!!!

まずい、これはまずい。この速度じゃあ、一瞬だが人形の攻撃のほうが先に命中してしまう。しかも狙いどころが最も致命的な首だ。

首は多くの血液が循環しているのに加え、心臓に近い位置に存在している。そこを刃物などで切りつけられたら・・・・言わずともわかるだろう。血の噴水の出来上がりだ。


「ぐッ!!!」


刹那はもう攻撃のモーションに入っている。いまさら回避運動などできっこない。何とかして人形よりも先に攻撃を決めるしかない。でもどうやって?


―――知るか!!やるしかない!!


「うぉぉぉおおおおおおお!!!!!」


気合を入れ、力を大剣の握り手に込める。だが、そんなことをしても速度は変わらない。人形のほうが、速い!!!

刹那の大剣を避け、もはや攻撃を遮るものなどない大鋏はそのまま刹那の首元へ進んでいく。

そのとき、刹那の大剣に変化は起きた。


「・・・・・え?」


黒い刀身から黒い光が放たれ、人形に凄まじい衝撃波を与えたのだ。それも一度きりではない。数え切れないほどの衝撃波を食らっているのは、まるでガトリングに連射されたかのように撥ねる人形が証明していた。

衝撃波を食らい、隙だらけの人形の胴の部分に刹那の大剣が襲い掛かる。刀身の黒い刃は、まるで濡れた紙を切るかの如く人形を両断した。

上半身と下半身に分かれて飛び、人形は無様に地面に叩きつけられた。


「はぁ・・・はぁ・・・」


まだだ、まだ油断はできない。雷牙の言っていたことを思い出せ、こいつはまた襲ってくる。

刹那は緊張を解かないまま大剣を構え、いつでも斬りかかれるように体制を低くする。だが、


「え・・・・!?」


半分になった人形は、そのまま土に変化してボロボロになったと思うと、そのまま地と一体化してしまった。その場には、人形の持っていた大鋏だけが残された。


「・・・・・・・」


まだ、まだ解いちゃいけない。あの鋏が襲ってくるかもしれない。そう頭に思い浮かべ、刹那は大鋏をじっと睨み付けた。来るなら来い、いつでも大丈夫だ。

と、不意にその大鋏が空中にす、と浮いた。同時にだんだん刃先のほうから消えていった。それはまるで雪が溶けるように、ゆっくりと消えてしまった。

さすがに気を張り詰めていた刹那も、人形と武器がなくなったことで安心したのか、結晶を体内に戻し、足を負傷しているレナの元へ向かった。


「何とか勝ったよ、大丈夫だったか?」


「・・・・・・」


「?」


レナは何やら口をぽかんと開けて刹那の顔をまじまじと見つめていた。豆鉄砲を食らった鳩のような驚き方だった。


「刹那、できたよ!できたじゃない!!」


「な、何がだよ・・・」


「技だよ技!あの人形に使ったじゃない!!」


レナは興奮して刹那に話すが、刹那は頭に疑問符を浮かべながら首をかしげるばかりだった。技、と言われても一体何のことやらさっぱりわからない。そういえば勝手に人形の体が撥ねたような気がしたが、たったそれだけだ。気になる点はそれしかない。

・・・もしかしたら、それが技なのか?他に気になる点がない以上、可能性はこれしかない。相手の体を吹っ飛ばすような攻撃、それが自分の技なのだ。・・・しかし、


「でもさ、俺意識してやったわけじゃないぞ?ただ勝手に出ただけだよ」


あの時、刹那の頭の中には技のことなど存在しなかった。ただ敵である人形を叩っ斬ることしか頭になかった。だからあの時出たのは技ではない。自分の意思で出したものではない、ただのまぐれ攻撃に過ぎない。


「大丈夫、あとでみっちり訓練するから」


にっこり微笑んだレナに、刹那は思わず見とれてしまいそうになったが、それよりも先に口を動かす。


「そ、それよりもさ、早くレオ達のところへ戻ろう。人形に苦戦してるかもしれない」


「うん、そうだね。行こ・・・・ッ痛・・・」


「レナ!?」


「ご、ごめん。ちょっと無理みたい・・・」


レナは歩き出そうとするが、足に激痛が走りその場に座り込んでしまった。やはり、アキレス腱という歩くのに重要な部位に深刻な傷を負ったのがまずかったのだ。このままでは歩くことができない。

レナがこうでは移動の仕様がない。どうしたものかと刹那はその様子を見てしばらく考え込んだ後ぽんっと手を叩き、レナの肩と足を手でそっと持ち上げた。・・・まぁ言わなくともわかるだろう。お姫様抱っこってヤツだ。


「よし、じゃあ行くぞレナ」


「え?ちょ、ちょっと・・・」


レナが何かを言う前に、刹那はばっと加速していた。向かう先はレオ達の元。その速度はまるで風のよう。

・・・なんだろう、この感じ。温かくて、優しいこの感じ。自分以外の体温がこんなに温かいなんて・・・。

レナは刹那の腕に抱かれながら、ふとそんなことを思ったのだった。


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