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第52話 殺戮人形編8

レオとリリアの向かった東の方は森だった。背の高い木々たちが日光を遮り、昼間なのに薄暗い気味の悪い環境を作り上げていた。

その森に響き渡る銃声。そう、レオとリリアの組はすでに敵と遭遇していたのだ。敵はもちろん人形。黒い服を着ており、肩には人形とは不釣合いな大斧が担がれている。

大斧という武器は斬る、というよりも切る、ということのほうに使われることが多い。薪を割るときや、壁を破壊するなど、人ではないものを切る、あるいは壊すときに使われるのがほとんどだ。

だが、いくら人を傷つけるための道具じゃないと言っても、攻撃的かつ凶悪な武器なことに変わりはない。一撃必殺という項目においては、大剣にも劣らないだろう。そんな武器で体を攻撃されたのならば、終わりだ。

加えてはこの人形の速さだ。大斧という重いものを担いでいるのだからスピードが落ちているはずなのに、この人形はのろくなるどころかさっきから素早くなってきている。そのせいで弾丸がさっきからかすりはすれども命中までは至らない。

障害物も何もない広い見渡しのいいところだったら、この程度の速さは全く問題にはならない。いくら素早いといっても、この世界に初めて来たときに見せ付けられた雷牙と雷光の速さにはおよばないのだ。

だが、ここには障害物がある。察しているように、ここら一帯に存在する背の高い木だ。数多い障害物がレオの射撃を妨げているのだ。だからいつまでたっても、レオの弾丸は命中しない。そこら辺をうろちょろしている人形に当たらない。

ちっと舌打ちをして、2度目の弾丸装填を行う。レオの手が光り、かちゃかちゃという音がして弾丸が装填された。


{今度は木から出てきたところを狙ってみるか}


そう考えたレオは人形の隠れた木のほうへ銃身を向け、いつでも弾丸を放てるように引き金に人差し指をかけた。

と、そのときだった。人形が隠れている木が軋み、こちらに倒れてくる!!


「!? リリアッ!!!」


「きゃッ!!」


自分の後ろにいたリリアを抱きかかえ、横にダイブする。

その瞬間、木はレオとリリアのいた場所に倒れてき、凄まじい音を立てたあと沈黙した。

さっきからもう3回目だ。木に隠れては、こちらのほうへその木を切り倒してくる。―――あんな小さい人形でも、十分この大木を倒すことは可能なのだ。

このままでは長期戦になる。自分の攻撃となる弾丸は命中しないし、相手は大木を倒しての一方的な攻撃をしてくるが、回避はできる。―――どっちの攻撃も当たらない硬直状態に陥るのは明白だ。

相手は飛ぶように木々の間を駆け巡っている。弾丸が命中しないのは、レオが人形を認知し、発砲するまでの間で再び木の後ろに隠れてしまうからだ。木々の間はおよそ2メートルちょっと。確かに、これは当てづらいし命中しにくい。


「すぅー・・・・・・はぁー・・・・・」


深呼吸をして気持ちを落ち着ける。

あせっては駄目だ。冷静になれ。集中するんだ。人形がいつ出てくるか、どこから出てくるか、それだけわかればいいんだ。あせるな、集中しろ。

そう自分に言い聞かせた瞬間、目の前の景色が『歪んだ』。まるでプラスチックが高熱にでも当てられたかのように、ぐにゃり、と。



+++++



ドオォォォォオオオン!!


耳を劈くような轟音が雷牙の耳に入り、その音に周りの木にとまっていた鳥たちが驚き、羽を広げて一斉に飛び立っていった。

こんな轟音、自然には出ない。人が意図的にやる以外、出るわけがない。となれば、一番怪しいのは自分達。おそらく、どこかの組が敵2体と鉢合わせのだろう。と、なれば、敵と戦っていない自分達はその現場に行かなくてはならない。


「風花、行くぜ!!」


「うん、わかったぁ」


雷牙は風花に呼びかけると、肉体強化を自らに施した。ふ、と体が軽くなり、筋肉も鉄のように硬くなる。もちろん、このまま走ればすぐに現場に到着するだろう。

だが、忘れてはならない。雷牙の隣にいる風花は肉体強化などできないのだ。雷牙との速さはあまりにも違いすぎる。置いていかれるのが目に見えている。

じゃあどうすればよいのか?簡単だ。


「よっと」


「お、高いねぇ〜」


雷牙が風花を運んでやれば良いのだ。そうすれば、身体能力の低い風花でも雷牙と同じ速度で移動ができる。

だが、肝心な運び方はどうすればよいのだろうか?抱っこはまずいし、お姫様抱っこってやつも雷牙には少々抵抗があった。とりあえず、一番無難なおんぶという形をとった。


「ほらほらぁ、早く行こぉ」


「わかったわかった」


少し時間を食ってしまった。急がなければ・・・・。

雷牙は自分の体を最大限に使い、全速力で爆音のしたほうへ向かった。目の前にある大木は乗り越え、邪魔な岩などは拳で砕き、最短距離の直線ルートで走り続けた。もちろん他にも邪魔なものはあったが、いずれも飛び越えるか壊すかのどちらかだった。

そして、3本目の大木を飛び越えたあと、雷牙と風花は爆発の現場へとたどり着いた。小川が流れていて、周りにはあまり木のないひっそりとしたところだった。その近くには、焦げてボロボロになった木があり、爆発がここであったということを物語っていた。

レオの弾丸を爆発させた人物を探そうと、雷牙は近くの人気を探り出した。しばらく、身動き一つせずに音と気配を感じ取ろうとする。長年やってきた狩りの成果だ、あっけなくその人物は見つかった。


「雷光!!」


「兄ぃ!!」


戦闘に夢中だったせいか、爆発させた主の雷光は全く雷牙と風花の存在に気がつかなかった。当然だ、2体の敵を同時に相手しているのだ。2対の人形はそれぞれ手に大槌、小刀を持っている。

それに加えて風蘭の護衛だ。茂みに隠しておくわけにはいかない、なぜなら戦っている最中に人形の片方にやられるかもしれないからだ。よって、今雷光は風蘭を背負ったまま戦闘している。理由はさっきの雷牙と同じだ、身体能力の低い低い風蘭でも同じくらいの速さで移動できるからだ。

しかし、いつまでこのままというわけにはいかない。敵は2体、しかもこちらは風蘭を背負っているためとても戦いにくい状態だ。長期戦になれば、間違いなく雷光側が不利になる。


「雷光!!風蘭をよこせ!!俺が連れてく!!」


風花と風蘭がいればどうしても戦闘に集中ができなくなる。―――守らなければならないからだ。

なら、風花と風蘭を安全地帯に置いてくればどうか?・・・少し危険だが、すぐこの人形2体を撃破してしまえば問題ない。大丈夫、のはずだ。


「兄ぃ!!任せましたよ!!」


「え!?きゃぁああああああああああああああ!!!」


雷光はそういうと、背中の風蘭を思いっきり雷牙のほうへと放り投げた。まるで人間大砲のように飛んでいった風蘭は、雷牙に勢いを殺されながら上手く受け止められた。

同時に、風蘭の口から怒声が飛び出る。


「ちょっとぉぉおおおお!!!か弱い女の子放り投げてんのよッ!!!怪我したらどうするのよッ!!!!!」


「・・・それだけ喋れれば十分でしょう。兄ぃ、できるだけ早く戻ってきてくださいね」


「おう、死ぬんじゃねぇぞ」


それを言い残すと、雷牙は両脇に風花と風蘭を抱えその場から離れていった。

残された雷光は、とりあえずこの2対1という状況を何とかして耐えなければならないのだった。


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