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第46話 殺戮人形編2

決して浅くない眠りから目が覚めた刹那は、質素な家の中、しかも自分がわらの上で寝ていることに気がついた。なんだかチクチクしていて、あまり良い心地よさではなかった。布団、ベッドなどの柔らかい寝床に慣れている刹那は、このわらに不快感を覚えずにはいられなかった。たまらず起き上がろうとする。


「いって!」


腹部に痛みが走る。先ほど殴られたところだった。痛みがこれほどひどいものだということは、威力もそれだけ強かったということだ。気絶するくらい打撃だったのだから当然と言えば当然なのだが・・・・・


「刹那、大丈夫?」


いつ部屋に入ってきたのか、いつの間にかレナがそばに立っていて、刹那のことを心配そうに見ていた。


「ああ、大丈夫だ。それより、あれからどうなったんだ?」


「それは僕が説明します」


刹那がレナに問いかけた瞬間ドアが開き、先ほど戦った獣族の1人が入ってきた。魔力の規模のほうは戦ったときと比べずいぶん小さくなり、少なくともこれから一戦やらかそうなどという気配は見られなかった。


「レオさんから話は聞きました。・・・・・・先ほどはいきなり襲ってすみませんでした。てっきりこの頃現れている殺人鬼かと思ったもので・・・・・・・」


「殺人鬼?」


「ええ。最近、我々一族が次々と殺されているんです。その犯人を捕らえようと見張っていたら、あなた達が現れたというわけなんですよ」


人がほとんど来ないところに見知らぬ人間がやってきたら、当然誰もが警戒心を抱かずにはいられないだろう。つまりはそういうことだ。こんな森の中、しかも滅多に人は来ないのにいきなり空間から見慣れない服装の人が現れたのだ。これを警戒せずに、一体何を警戒すればいいのだろう。


{殺人鬼、か・・・・・・}


刹那はこの獣族の話から、その殺人鬼がこの世界の罠だということに気が付いた。殺人鬼と呼ばれるくらい沢山殺しているのだ。身体能力の高い獣族を次々と殺して回れるのは相当の実力者、つまりは罠ということになる。


「じゃあその殺人鬼捕まえるの、俺たちもて・・・・・・・」


「はいはいは〜い、診察の時間よ〜〜〜!」


「お邪魔しますねぇ〜」


刹那の言葉が、突如遮られた。何事かと見てみると黄緑色の髪の毛を後ろで一本に束ねた女の子と深い緑色の長い髪の毛をした女の子2人が入ってきた。目は黄色、この2人も同じ獣族だ。

ズカズカと部屋に入り込むと、髪を束ねた女の子は刹那の額に手を当て、う〜んと唸ってから容態を尋ねた。


「どっか痛いとこない?正直に言ってごらん!」


「え、ちょっと腹が・・・・がぼっ!!!」


「鎮痛ざぁ〜い投与ぉ〜〜」


長い深緑の髪の女の子は刹那の声が耳に入るなり、刹那の口に粉薬と水を一気に流し込んだ。流れてくる水と粉薬の味はお世辞にも良いとは言えない。粉薬特有の苦さのせいで、刹那は顔をしかめた。


「おなか痛いって言ったよねぇ〜。はい見せてねぇ〜」


「え!?あ、ちょ!!」


「ほら!動かない動かない!!」


髪を束ねたほうの女の子は刹那を羽交い絞めする形を取り、長い深緑の髪の女の子は刹那の服を捲くり上げ、腹を出す。―――見事にあざができていた。痛いのも無理はない。

ふむふむ、と唸ると、長い深緑の髪の女の子はどこからか出したのか、白い布を取り出し患部にぺたっと貼り付けた。


「うわっ!?冷た!!」


「湿布だよぉ〜、しっかり効くから安心してねぇ〜」


「はい治療終わり〜〜!!!お邪魔しました〜!!」


まるで嵐のような女の子達だった。あまりのことに、刹那も一体何をされたのかよくわからなかった。ただわかることは、先ほどまであった痛みはもう微塵もないということだった。

はぁ〜、と深いため息をつき、獣族は額を手でピシャリと叩いて口を開いた。


「・・・・・あちらのほうで説明します。立てますよね?」


扉のほうを指差し、上半身だけ起き上がっている刹那に言う。


「ちょっと!あんな凄い力で殴られたんだから立てるわけないでしょ!?」


レナが獣族の無茶な言動に反論する。気絶するくらいの力で急所である腹部を殴られたのだ。立てるはずがない。


「いや、大丈夫だよレナ。もうなんともない」


「・・・・・・ホントに?」


「ホントだってば」


刹那が笑いながら立ち上がったので、レナはしぶしぶ獣族の言うことに従ったのだった。

扉の向こうまで歩くのには、本当に何の支障もない。先ほどまで痛みがあったのが嘘のようだった。

扉の戸に手をかけ、ゆっくりと押す。きぃ、と音がして開いた扉からは日光が差し込み、刹那の目を少しだけ細くさせた。

扉の外は、綺麗な風景だった。少しだけ離れた場所にある川は緩やかに流れ、森の木々は燦々と降り注いでいる日光を気持ち良さそうに浴び、鳥達はその木々の間を器用に飛びながら美しい声で歌っていた。刹那はあまりの美しさに、これが気絶する前の薄暗く、気味の悪い森だと気付くのに少し時間がかかってしまった。


「刹那、大丈夫なのか?」


「おなか、大丈夫?診てあげよっか?」


レオとリリアが刹那の存在に気付き、声をかけながら寄ってくる。刹那は笑いながら「大丈夫」と言い、体をぐるんぐるん回し始めた。そういうことができるのなら大丈夫だな、とレオとリリアに笑われたのも仕方ない。


「あれ?レオさん、兄ぃはどこへ?」


「ああ、魚獲りに行ってる。何でも、飯だ、とか何とか言ってたな」


「なるほど。それならもうじき帰ってくるかな・・・・・・」


その瞬間だった。先ほどまで静かだった川からザパーンと水しぶきが上がったのだ。何事かと見てみると、


「おっしゃぁぁぁぁああああああ!!!!捕まえたぜぇえええええ!!!!!!」


手からはみ出すほどの大きさの魚を鷲摑みし、わっはっは、と勝利の歓声をあげているもう1人の獣族がいた。


「おぉ、目ぇ覚めたか刹那!さっきは悪かったな!ははははははは!!!!」


「・・・・・・・・・・」


名前がわかるのは、おそらくレオから聞いたことだと思うので良しとしよう。だが、あんな強力な拳を腹部に放ち気絶させておきながら、魚を手に持って軽快に笑いながら謝罪するというのはどういうことなのだろうか。非常に、非常に不満だ。


「・・・・・・・・・刹那さん」


「・・・・・・・・・なんだ?」


「・・・・・・・・・あとで謝らせますので、どうか・・・・・」


「・・・・・・・・・わかった」


こんなやり取りをされているなど、魚を取ってご機嫌の獣族は夢にも思うまい。





+++++





「とりあえず、僕の名前は雷光です。こっちのは僕の兄です」


「おう、俺は雷牙っていうんだ。よろしくな」


遅すぎる自己紹介も終わり、この場に居る6人は木製のイスに座り込み話をしていた。

自分達の事情を説明した後、落ち着きのない雷牙を何とか黙らせ、雷光は自分達のことを話し始めた。

話によると、先ほど聞いた殺人鬼というのはつい最近ここら辺に現れたらしい。1人でいる獣族の心臓を一突きにして即死させる、それが殺人鬼のやり方らしい。

始めの頃はたいした警戒もしていなかった獣族も、被害が多くなっていくに連れ何らかの対策を取らざるを得なくなっていた。そこで考え出されたのが、その殺人鬼を撃破するということだった。そして討伐部隊と称され、村と隔離されたこの場所にいるのがこの2人、雷兄弟だ。

同種族の仲間が次々と殺されているのにも関わらず、その危険度を無視して討伐に向かわせるという無茶苦茶な案には、ある裏付けがあった。

いくら獣族もともとの身体能力が高いとしても、それだけで戦いに向いているとは言えない。例えるのなら体操選手。身体能力は高いが、必ずしも体操選手全員喧嘩が強いとは限らない。

だが、雷兄弟は違う。獣族の中でも接近戦、肉弾戦のエキスパートだ。風のように速く、雷のように高い攻撃を持ち合わせた、いわば人間兵器。この2人ならば、倒せる。そういうことらしかった。


「つまり、雷牙と雷光はこの世界の罠を外すために村から離れて、罠のターゲットを自分達に移させようとしてるわけなんだな?」


「その殺人鬼の正体が刹那さんの言う罠だとしたら、そういうことになりますね」


話はまとまった。この2人はこの世界の罠を外そうとしている、それを手伝わないわけにはいかなかった。刹那は自分達も手伝うと雷光に話したら、雷光はあっさりと承諾してくれた。早いうちに罠を外したい雷兄弟にとってはありがたい増援だった。

交渉と言えばいいのか、それを終えた刹那たちは次に雷兄弟への質問に移った。その最初の質問が次のものだった。


「あの時、雷牙と雷光の魔力が増幅したとき、目が変になってたけど、結局のところなんだったんだ?」


「刹那さん達は『眼』をご存知ないので?」


刹那たち4人が全員首を縦に振ったので、雷光は説明を始めた。


「眼というのは・・・・・・何て言うのかな、結晶でいう潜在能力のようなものです」


「まぁ、肉体強化の潜在能力みてぇなもんだ。『眼』を使えば通常の肉体強化よりも体が強化できるし、何よりも肉体の潜在能力も解放できらぁ」


「肉体の潜在能力?」


眼により、体の強化が著しくなるのは理解できた。だが、雷牙の言った『肉体の潜在能力』というものが理解できなかった。


「刹那、俺の弾丸と一緒だ」


「あ、そうか」


レオの結晶は弾丸、潜在能力は全属性結晶化。普通に結晶を作るのならば何の属性も持たないただの弾となってしまうが、潜在能力である全能力結晶化を使うことによって、火、水、土、風、雷、闇、光の7種類の弾丸を作ることが可能なのである。

つまりだ、雷兄弟の言っている『眼』を使えば肉体に潜在している能力を使うことができる、ということになる。


「それじゃあ、雷牙と雷光は?」


「えぇ。もちろん肉体の潜在能力を引き出すことができます」


「はっはっはっは!!まぁ、狩りの成果が出たってやつだな」


「狩りの成果?」


リリアが首をかしげながらたずねる。なぜ狩りをして『眼』を開くことができたのだろうか、それがよくわからない。


「『眼』はですね、開眼するのには条件があるんです。しかもそれの条件は個人個人違いましてね、僕達兄弟の条件は『命が危険に晒されること』でした。あのときは危なかったなぁ・・・・・・」


雷光が夢中になって話してくれたことは一昔の狩りの話だった。

その日は大雨で、足場がとにかく滑ってやりにくかったらしい。泥に足を取られ、激しく打ち付ける雨によって視界は遮られる。

これも全ては生きるためだった。雷兄弟一族の掟では、その日食べる分しか狩らない、ということが決められている。そう、取りすぎて自然のバランスを崩さないようにするためだ。しかも、その日に食べる分しか狩らないということは食料を貯めておくことができない。もちろん、畑などはあるものの、基本的に雷兄弟は畑には頼らず自分で取って食べるため、こんな日でも狩りに出かけざるを得ないのだ。

ばしゃばしゃと音を鳴らしながら、雷兄弟は獲物である巨大狼を追う。ときどき見失いそうになるものの、何とか離されないようにくっついていく。肉体強化をしているのに追いつけない、信じられない速さだった。追跡に夢中になっている矢先だった。

逃げていた巨大狼がくるりと180度方向転換をし、追いかけてきた雷光に体当たりしたのだ。激しい雨のせいで視界が悪くなっているのと、全速力のスピードで追いかけていたせいで巨大狼の突然の体当たりをかわせない。

不意打ちのせいで防御体制を取っていなかった雷光は無様に吹っ飛ばされ、地面に倒れた。それを見た雷牙は雷光のもとに近寄ろうとするが、信じられない速さで突っ込んできた巨大狼の噛み付きをかわせず、1本1本がまるで鋭く尖ったナイフのような歯で横腹を深く噛まれる。

ギチギチと、ゆっくりと喰い込んでくる歯。その歯が内臓に達したときに、『眼』は開いたのだという。


「・・・・・・・・というわけなんです。僕と兄ぃは双子で開眼条件は同じでしたから、自動的に同時開眼したんですよ」


「双子かぁ・・・・通りで兄弟にしてはそっくりだと思った〜」


リリアがにこっと笑うと、雷光もつられてにこっと笑う。


「でもよく死ななかったな。重傷じゃなかったのか?」


レオが口を開く。その問いに答えようと雷牙が口を開くが、不意に聞こえてきた女の子の声に邪魔された。


「そりゃあたし達の治療のおかげ!!」


「そぅそぅ私達が手術してなかったら死んじゃってたんだよぉ〜」


やってきたのは手に籠を持った2人の女の子だった。先ほど刹那に薬を飲ませた、湿布を張ってくれた本人達だった。


「もうびっくりしたんだから!!夕ご飯遅いなぁ〜って待ってたら血だらけだもん!!雷牙なんて痙攣してたし、ホントびっくりしたなぁ〜」


「そぉそぉ、面白かったよねぇ〜」


あははは、と笑いあう女の子。雷光は、ふぅとため息をついた。


「紹介します。僕達討伐隊の補助員としてついてきた風姉妹です」


「あたし風蘭!!よっろしくね〜」


「私はねぇ、風花ってゆうんだよ。よろしくね〜」


「ちなみに風花が姉さんで、風蘭が妹だぞ」


雷牙の補足がなければ間違えるところだ。風花が姉だとは・・・・・、はっきり言ってしまえば、姉としての威厳というやつが足りない気がする。ぽや〜っとしていて、なんだが頭の中がお花畑で埋め尽くされている感じだ。風蘭のほうは明るくて、しっかりしている感じ。わからない人に風蘭が姉だ、と言われれば絶対に間違うくらい、その威厳というやつがなかった。


「・・・・・さらに言っておきますね。風蘭さんは・・・・・・・怒ると凄いですよ・・・・」


「・・・・・だな。昔怒られたときは洒落にならなかった・・・・・。マジで殺されるかと思った・・・・・・」


「えぇ〜、私そんなに恐くないよぉ〜」


風花が必死に否定するが、雷兄弟の表情からそれが真実だと嫌でも伝わってきた。その表情は、なんというか、体の隅々にまで染み込んだ経験のようなものが自然と顔に出ているような、そんな感じだった。よほど風花の怒りは恐ろしいのだろう。

風花はぷぅ〜と頬を膨らませながら手にした籠の中から薪を取り出した。


「おなか減ったでしょ〜?ご飯にしよぉ〜」


気の抜けた風花の声で、その場は昼食の場になった。


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