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第45話 殺戮人形編1

面白い事ってのはやっぱり良いことだ

この世界を自分達の手で救う

十分すぎるほどおもしれぇじゃねぇか










辺りはガッ、ガッ、と木のぶつかり合う音が響き渡っていた。


「そこだっ!!!」


「甘い!!そこはもう少し距離を縮めてから!!」


刹那の掛け声に、レナの説明するような声。そう、2人はオリアスから貰った拠点となっている家の広い庭で剣の訓練を行っているのである。大剣の形の木をものともせずに軽々と振ってくる刹那の攻撃を、レナが剣で受け流す。このような訓練をもう1時間近く行っているのである。肉体強化していないのによく続くものだな、と感心せずにはいられないほど中身の濃いものだっだ。


「!?っく!!」


「うん!上手によけたね!!」


4人はドレンの世界の罠を外したあと異次元図書館に帰還し、次の世界に行くための準備をしていたのだが、オリアスに「疲れが溜まっているだろうから」と言われ、1日だけ休みを貰ったのだ。

その間、レオはホルスターを改造し弾丸を入れれるようにした。威力の高い弾はどうしても作るのに時間がかかってしまうため、あらかじめ威力の高い弾を作っておき、ホルスターに保存できるようにしたのだ。神爆銃・光の中に入っているアルテマも、このホルスターの中にしまうことができ、いちいちアルテマをマガジンから出してから弾丸を込める、という作業を短縮することができる。

リリアはレオのそばに居てじぃ〜っとレオの作業を見守っていた。 (レオが時々茶化してしょっちゅう喧嘩になっていた)

そして、刹那とレナは先ほどからやっているように剣の訓練をしている。と言っても、正確に言えば刹那がレナに剣を教わっているので、一種の授業と言ってもいいかもしれない。


「っふ!!」


「そこは間合いを詰めないとだめ!!」


横になぎ払うように木を振るが、間合いが遠すぎたためあっさりとレナは避けてしまった。大剣は重さゆえに、こういう振り方をすると大きな隙ができる。レナはその隙を逃さず、刹那に急接近し、無防備の刹那の横腹に木を叩き込む。


「っちぃ!!」


確実に入っていた間合いからの、しかも加減しているとはいえレナの攻撃を、刹那はとっさに回避し距離をとった。レナは剣の達人だ、そのレナからの一撃を回避した刹那は肩で息をしながら木を肩に担ぎ、そのままレナに突っ込んでいった。

防御の構えも、迎え撃つ構えもしていないレナに接近したことを目で確認すると、担いでいた木を振り下ろす。走ってきた分の速さが加わり、その一撃は通常よりも早く振り下ろされる。だが、その木はレナに当たることなく地面に突き刺さる。―――レナが回避したのだ。

慌てて距離をとろうとしても木が地面からぬけず、結局レナが刹那の首に木の先端を当てることで、訓練は終了した。


「刹那、今度から肩に担いじゃだめ。一撃が大きいけど、かわされたら終わりだからね」


「わかったよ。今度からは使わないようにする」


負けたことを根に持っているのか、刹那は少し不機嫌そうに返事をした。

刹那が地面に突き刺さっている木を抜き取ると、レオとリリアが家から出てきてこれからもう一戦やらかそうとしていた刹那とレナに言う。


「そろそろ訓練を切り上げろ。図書館に行くぞ」


少し残念そうに木を地面に置き、レナは家の壁に立てかけてあった神抜刀を手に取る。


「あ〜あ、もう終わりか。もう少しやりたかったんだけどなぁ・・・・」


「でも時間は時間だし、そろそろ行かないとオリアスさんが怒っちゃいますよ」


太陽のように笑いながらリリアはなだめるように刹那に言った。

刹那がもう一度やりたいと言ったのも、わかるといえばわかる。あの肩に担ぐ一撃さえなければ・・・・それさえなければ・・・・・・


「あせらないあせらない。一気に詰め込むとかえって混乱するでしょ?これくらいのペースがちょうどいいの」


「はいはい、わかりましたよ。せんせ〜」


{それに、私が教えなくても大丈夫みたいだしね}


刹那は、この前訓練したときよりも数段強くなっていた。訓練したからといって、ここまで強くなるというのは考えにくい。おそらく、レギス、ドレンの世界で行った『実戦』のおかげで強くなったのだろう。

前の訓練でレナの動きを読めず、あっさりと剣を受け流されて負けていたものの、今回は動きを読めるようになっており、勝敗が決するまでずいぶんな時間がかかった。達人レベルのレナ相手にだ。そのことが、刹那がものすごい勢いで成長しているということの証明となった。


「レナ、ぼーっとしてないで行こう。もうレオとリリア行っちゃったぞ」


「あ、ごめん。行こ、刹那」


少しだけ遅れてゲートに入る。もちろんのこと、図書館で待っていたレオとリリアにからかわれたのは言うまでもない。





+++++





オリアスから受け取った本を開き、出現したゲートの向こうは薄暗い森の中だった。薄暗いのは多すぎる木の葉のせいで太陽が遮られているためで、決して夜というわけではない。


「今度は、森か・・・・・・」


「うぅ〜〜・・・・・」


リリアは森の薄気味悪さのあまり、レオの腕にしがみつく。夜に林の中を進んでいた前の世界と重なってしまって、気味悪さが倍増した。

はぁ・・・・とため息をついているレオに、刹那は話しかけた。


「なぁ、どうするんだ?どっちに進めばいいんだ?」


「・・・・・・・わからないな。だが、進むよりも先にやることがある」


「?」


言うなりレオは銃を手に取り、レナは神抜刀を鞘から抜いた。疑問符を浮かべていた刹那も大剣を形成し、レオとレナ同様に戦闘体勢に構えた。

そう、一見は物静かな森の中でも、こちらを狙っている異様な気が漂っているのだ。まるで、獲物を見つけた肉食動物のように、じりじりとこちらに近づいてきている。

戦闘能力のないリリアを隠そうとするが、相手の敵が見えない以上うかつな動きはさせられない。刹那、レオ、レナの3人はリリアを隠すようにして背中を預ける形にする。こうすれば、少なくともリリアが狙われることはない。敵の中心いる者をわざわざ狙うという無駄なことはしないはずだからだ。

一秒一秒の時間が、とても濃い。時間はあまり経っていないはずなのに、何時間も立っているような錯覚に襲われる。相手が出てこないのだから、今は待つしかなかった。

だが、その錯覚は突如終わりを告げた。ガサガサと茂みから音がしたかと思うと、いきなり2つの影がまるで風の如く襲い掛かってきたのだ。


「ちぃ!!」


レオが向かってくる影に銃を撃って牽制をする。弾丸は向かってくる敵の進行方向少し前の地面に突き刺さり、身の危険を感じた1つの影はとっさにレオとの距離をとった。


「っは!!」


もう1つの影は、接近してくる前にレナが攻撃した。襲ってくる影を両断するつもりで振った神抜刀の綺麗な刀身は空を切り、これ以上の接近は無理と判断した影は、最初の影の隣まで跳び距離をとった。

そこでやっとその影の正体が明らかになった。人間の男だった。しかも、金髪で目が緑色だから獣族だ。ただでさえ身体能力に長けている獣族が肉体強化を施したのならば、さっきのような動きも頷ける。ただ、武器がなかった。攻撃はおそらく拳と蹴りのみ。


「結構やるぜ、こいつら。どうやって攻めるんだ?」


「挟み撃ちにして攻撃を絶やすことなく、ってのはどうですか?兄ぃ」


「おもしれぇ、そいつでいこうぜ!」


似通った2人の獣族は刹那たちを中心に分かれ、打ち合わせしたとおり挟み撃ちにする形になった。このままではまずい、リリアを守っている以上身動きが取れず、狙い撃ちにされる!


「させるか!!」


「来やがったな!!やってやるぜ!」


獣族の1人のほうに、刹那がかかっていった。狙い撃ちをさせる前に接近戦に持ち込めば、自分達には不利に働かない。そう考えた上での行動だった。


「あなたは私が相手!!」


「女性の剣士ですか。いいでしょう」


接近戦で狙い撃ちを封じ込めるという刹那のやり方に従い、レオが行こうとする前にレナも獣族の1人にかかっていった。レオを行かせなかったのは、銃は接近戦に向いていないとわかっていたからだ。

2人が獣族の相手をして動きを止めている間、レオは茂みのほうを指差し、リリアにそこへ行けと無言の指示を送る。それに気が付いたのか、リリアはこくりと頷きこそこそと茂みのほうへと向かっていった。

それを見届けたレオは銃を刹那が相手をしている獣族のほうへ向けた。殺すつもりはない、俊敏さの源を、足を撃つだけだ。

素早く動き、大剣で防御している刹那を翻弄している獣族の足を狙った。

獣族は正面から拳を振るったあと、足をほとんど曲げずに跳び刹那の後ろへと回り込む。着地する前に蹴りを食らわそうとするが、刹那の防御が早かったため当たるには至らなかった。

攻撃パターンはそれだけだった。正面からの攻撃の後、不意に後ろへ回りこんで攻撃するものの刹那が防御する。それの繰り返し。実に単調な攻撃だ。これなら足を狙うのも難しくはない、着地する寸前は足の動きが止まる。その一瞬を狙えばいい。

正面から攻撃にし、ほとんど足を曲げないで跳び着地するその寸前、


{もらった!}


レオの右手の神爆銃から弾丸が発射された。着地する足めがけてグングン空を切り飛んでいく。当たった、このときはそう思った。だが、


「!?おっとぉ!!」


獣族はとっさに身をよじり、着地を一瞬遅れさせた。瞬間、当たるはずだった弾丸は足をかすめるだけで、そのまま地面に突き刺さった。


{な、に?}


弾丸は獣族の死角から飛んでいった。見えているはずがない、ましてやよけれるはずがないのだ。なのに、なぜ回避できたのだ?

獣族は後ろへと跳び、一旦刹那との距離をとった。それが見えたのか、レナが相手をしているもう1人の獣族も同様に距離をとる。


「場外からの攻撃は危ねぇだろ。こりゃ、こっちも本気でいくしかねぇぜ!!」


「殺すわけじゃないですからね。ちゃんと手加減は・・・・・」


「わぁってるって!そんじゃいくぜ!!」


その言葉と同時に、獣族の魔力が爆発的に増幅したのがわかった。魔力が具現化し、黄色の色が獣族の体から染み出てきているのが目に見える。

魔力は普通、体から染み出るものではない。血液と同様、体の中で作用するものだからだ。しかし、結晶を形成するときは例外で、体から一度魔力を意図的に出してから形成する。

だが、この2人は違う。意図的に体から出しているわけでも、結晶を作ろうとしているわけでもない。勝手に体から染み出ているのだ。おそらく、あまりに膨大な魔力が体という器に入りきれていないのだろう。

この獣族が一体何をしたのかはよくわからない。ただ、言えることは2つある。1つは確実に自分達よりも魔力が強くなった。そしてもう1つ、確実に追い込まれた。


「うっし!準備万端!いくぜ!!」


「勢い余って殺した、なんてことないようにお願いしますよ」


さっきまでとは速さがまるで違った。最初に戦ったときの動きを風と例えるのならば、今の動きは突風だ。同じ風でも、速さと威力が桁外れに違う。

突風の如く特攻してきた獣族は、再び刹那とレナに分かれて攻撃を開始した。その1人は刹那に飛び蹴りを食らわせた後、すぐさま拳の連打に移った。


「おらおらおらおらおらおらぁ!!」


「っく!!!」


防御をしているのに、痛みが刹那の手を襲った。防御しているのは刹那の結晶である黒い大剣、強度はそこら辺の金属などとは比にならないくらい硬い。なのに、この獣族の拳から伝わる衝撃は結晶を通り越して刹那の手に届いてくる。ありえないことだった。防御しているからこの程度で済んではいるが、直接当たってしまえば骨は粉々に砕け、筋肉は潰され、血管は破れるだろう。


{ん?・・・・・こいつ、目の瞳孔が開ききってる?}


接近戦で近距離にいる獣族の1人の目が異常なことに、刹那は気がついた。完全に開ききった瞳孔、いくら薄暗いといってもこの開き方はおかしい。それに、目に光が灯っていない。開ききった瞳孔に、光が灯っていない目。そう、それはまさしく死人と同じ目だった。


「何ぼけっとしてやがる!!」


「!?」


目に意識を取られていたほんの一瞬だった。獣族の拳は大剣の防御をかわし、刹那の腹部に突き刺さる。瞬間、肉体強化を施しているのにもかかわらず激痛が襲い、意識が次第に遠のいていく。刹那の体を支えている膝が折れ、そのまま地面に倒れ込んだ。


「刹那っ!!」


倒れた刹那を気遣い、レナは刹那のほうを向く。敵を、しかも自分よりも強い敵を相手にしているときにする行為ではない。


「余所見はしないほうがよかったのに」


当然のこと、レナも刹那と同様に腹を殴られて気絶してしまった。

2人を撃破した獣族の次の目標はレオとなった。レオはもう1つの神爆銃の中へ弾を入れ、構える。途端に、獣族の2人が一斉にかかってきた。


「ははははは、あとはお前だけだぁ!!!」


「兄ぃ、油断はしないでくださいよ」


突風の如く接近してくる2人、だがそれよりも早く、レオの銃からは弾丸が飛び出していた。いくら2人の接近速度が速かろうが、神器から発射される弾丸には及ばない。はずだった。だが、


「!?おっと、外れだぜ」


回避されてしまった。弾丸は獣族に当たることなく地面めがけて深く突き刺さった。それを見届けたレオはニヤっと笑い、言った。


「かかったな」


「何ぃ!!」


「む!?」


地面に刺さった弾丸はそこを中心にして巨大な黒いドーム状の空間を作りだした。そう、獣族めがけて撃ったのはフェイクで、闇の弾が作りだす空間に引きずり込み、身動きを取れなくするというのがレオの策だったのだ。

しかも、今撃ったのは魔力を長時間練りこんだ上等の弾。当然、今まで撃ってきた闇の弾などとは比べ物にならない引力が辺りを襲う。


「刹那!レナ!」


気絶している2人を回収し、近くの木にしがみつく。無闇に動くと、自分までも引力の空間に引きずりこまれてしまうからだ。

獣族の2人は何とか引きずり込まれまいと足を踏ん張り、その場にとどまっていた。だが、レオの作り出したドームの引力も凄まじいものだ。獣族の足場となっている地面が少しずつ抉れていった。


「なかなか、面白ぇじゃねぇかよ!!」


「ですが、まだ甘いですね」


口調が丁寧なほうの獣族はすっと左手をかざした。すると、手のひらに少しずつ微量の電気が溜まっていき、球体になった。球体が拳大程の大きさになると、獣族の手からは雷が轟音を上げて出、引力を引き起こしている黒いドームの中心に向かって進んでいった。

バリバリと電気を起こしながら、そして引力に決して逆らわず雷は進み、レオの弾丸が突き刺さった場所に落雷した。



どぉおおおおおおおおん!!!!!



轟音が辺り一面に鳴り響いたと同時に黒いドームは消え失せ、引力もなくなった。


「ば、馬鹿な!弾丸を破壊して引力を止めただと!?」


動きを封じ込めた隙を狙って追撃の弾を撃つ前に、引力を放つドームは消えてしまった。弾丸を破壊して効果を止めるという斬新な方法に、レオは驚きを隠せずにはいられなかった。


「戦いに、隙を作りだす驚きは無意味です」


「がっは・・・・・・・」


驚いている一瞬の隙、獣族の1人は見逃さなかった。突風のように加速し、そのままレオの腹部へ拳を食らわす。


{くそったれ・・・・・・}


心の中で呟き、そのままレオも気絶してしまった。

戦いに不慣れな刹那ならともかく、戦闘能力に長けているはずのレオとレナまで倒されてしまった。こんなこと、こんなこと・・・・・


「刹那さん!レナさん!兄さぁぁあああん!!!」


リリアの声は薄暗い林の中悲しく響き渡り、いつまでも木霊していた。


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